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007 やっぱりテレビで見るのと本物は違うな

 廊下をちょっと進んだドアの前に一人の女性が立っていた。

 まるでメイドみたいな服装の女性は秋月に頭を下げる。

 いや、こいつってマジでメイドなのか?


「まさみ様、中へどうぞ、旦那様と奥様が中でお待ちです」

「うん、ありがとう」


 初めて見たよ、リアルメイド。

 そしてメイドの彼女がドアノブを捻るとゆっくりと開く扉。

 俺は秋月は並んで部屋の中へと入った。

 中に入るとまず目に飛び込んだのは広い吹き抜けだった。

 天井にはシャンデリアがかかっている。

 今はLEDの時代でシャンデリアとはいかがなものか?

 そして広いリビングすぎて驚いた。

 広さは三十畳くらいはあるだろうか?

 やっぱり金持ちだ。家具や家電がかなり豪華すぎる。


「まさみ、おかえりなさい」

「ただいま、ママ」

「おかえり、まさみ」

「ただいま、パパ」


 そんな豪華なリビングの中央のソファーに座る男女。

 こいつらがまさみの両親か……って、あれ? あ、そっか。

 俺は雑誌で二人の顔を見た事があった。

 生では初見だけど、始めて見る顔じゃない。

 それはそうだ。秋月クリニックの先生はよくテレビに出てるからな。

 そうか、やっぱり秋月はあの秋月クリニックの御曹司だったのか。


「その子がまさみの彼女さんなの?」

「うん、僕の彼女で【秋山瑞穂】さんだよ」


 うわぁ、テレビに出るくらいの有名人に紹介されちゃったよ。

 マジでここからが恋人劇場のスタートか。

 ばれないように頑張ろう。


「秋山瑞穂です。宜しくお願いします」

「なかなか可愛いらしい彼女じゃないか」

「うん、すっごい可愛いんだ」


 出だしはOK?


「まさみと瑞穂さんはどのくらい付き合っているのかしら?」

「えっと、どのくらいになるかな?」


 そしてここで秋月からアイコンタクト。

 ここは俺が答えろって事かな?


「え、ええと……一年くらいです」

「うん、そうだった。もうすぐ一年だね!」


 やばい、緊張する。

 しかし、秋月はまったく緊張してねぇな。

 まぁ、両親が相手だから緊張しないか。


「あらあら、結構ながいのね」

「そうですか?」


 一年なんてそんな長くないと思うんだけど?


「まさみが頑張っているのかしらね」


 何をどう頑張っているって言うのか知らないけど、まさみの母親は口を隠しながら上品に笑った。

 この後も他愛もない雑談を含めて、話はどんどんと進んでいった。

 俺はなんとか秋月と会話を合わせる。

 最初の予定じゃ相槌だけでいいとか言ってたけど、思いっきり秋月の両親は俺に質問してくるし、普通に答えるしかなかった。

 とりあえず、今のとこは順調だ。

 男だとばれていない。はず?


「そうなのですか、瑞穂さんにはお姉さんがいらっしゃるんですね」

「はい、今年で大学二年になりました」

「なるほど」

「あはは」


 よしよし、かなりいい感じだ。


「それで、話は変わりますけど二人はどのくらい進んだのかしら?」

「ぶっ」


 とんでもない質問に思わず口にした紅茶を噴出してしまった。


「みずき、大丈夫!? ママ、パパ! それってどういう意味だよ!?」

「あら? 普通に男女の関係としてどこまで進んだのかを聞いただけなのだけど?」

「お前も子供じゃないんだ。何を聞いたのくらい理解できるだろう?」


 いやいや、なんだこの両親は。

 普通に聞くか? 息子の彼女にどこまで進んでるかって聞くかよ?


「あのね、僕らは健全なお付き合いをしてるんです! だからまだ何もしてません!」

「ほほう……健全か……なるほどな。そうか、そうでないと一年も付き合っている彼女をここに連れて来れないだろうしな」

「お父さん、そういう言い方はやめましょうよ?」

「あはは! そうだな。だが、恋人であればキスくらいはしていてもおかしくないと思うのだが? 一年も付き合っているのに本当に何もないのか?」


 キ、キスだと!?

 俺は思わず隣の秋月の唇を見てしまった。

 うっすらとピンクでとてもきれいな唇だった。


「パ、パパ! ママ! やめてよ!」


 くっそいつまで続くんだこれ?

 こんなんじゃ俺の理性が持たない!


「あはは、まさみもそう照れるな。まぁこれ以上は聞かないから」

「もうっ! 瑞穂さんが迷惑するから変な事を言わないでよね!」

「わかったわかった。では最後の質問にいこうか」


 おお、ついに最後だ。

 この居心地悪い空間からやっと解放されるのか?


「これは瑞穂さんへの質問だが」


 えっ? 俺?


「はい? なんでしょうか?」


 ここで俺は秋月の父親の顔から笑みが消えたのに気が付いた。

 少し緊張が走る。


「君はまさみの事が本当に好きなのかい?」


 やっぱり来たか。

 実はこういう質問はくるかと覚悟はしていた。

 そして、この質問に対する答えは一つしかない。


「はい、好きです」

「ほほう、ではどういう所が好きなのかな?」


 やっぱりそうくるか。

 ここでフェイクな彼女なら「やさしいところ」とか簡単に答えるだろうが俺は違う。

 俺とこいつとは三年も付き合ってるんだ。

 こいつの良い所ならいっぱい言える。


「私がまさみ君を好きなのは……とても馬鹿なところです」

「んっ? まさみが馬鹿だって?」


 少し不機嫌そうに父親の表情が歪んだ。

 そりゃ実の息子が馬鹿って呼ばれて喜ぶ親はいないよな。

 だけど、俺は本当に馬鹿にして馬鹿だって言った訳じゃない。


「まさみ君は本当に馬鹿なんです。まず、私みたいな馬鹿な女の子を彼女にしてくれるのもそうですけど、本当に人が困っていると助けないではいられない。人が迷っていたら道を教えてあげるし、そのせいで学校に遅刻するし、それと10円でも落し物があればわざわざ警察に届けるんですよ? 本当、普通の人がメンドクサイって思う事が出来る人なんです」

「ほほう……」

「私はそんなまさみ君を……異性として、男性として尊敬してます。優しくって素敵なまさみ君が好きなんです」


 しかし、なんか嘘を言っているのにマジでまさみが、じゃない秋月が好きに思えてくるのが怖い。

 やばいな、あるいみ自己催眠だなこれ。

 だけど仕方ない。今の俺はこいつの彼女なんだ。

 そして、最後に見詰め合う。

 これで〆だ!


 俺が横を向いた時、秋月は本当に顔を赤く染め、潤んだ瞳で俺を見ていた。

 そんな澄んだ瞳を見て俺は硬直してしまった。


「僕も……瑞穂さんが好き……だからね」

「あっ? う、うん……ありがとう」


 秋月の言葉がとてもきれいに聞こえた。

 あまりにきれいに聞こえすぎて動揺してしまった。

 まるで、マジで俺に恋に落ちてしまったかのような顔に見えた。

 ……な、ないよな?


「まさみ、良いお嬢さんみたいね」

「うん、瑞穂は最高の彼女です……」


 ここで先ほどまで親父さんの表情が変わった。


「……では、瑞穂さん」


 すごく険しい表情になっている。


「本気でまさみが好きなんですよね?」

「は、はい」

「ん? どうかしましたか? 少し戸惑っているように見ますが?」


 やばい、戸惑って見える?

 いや、だって、それは秋月がマジな顔になってたように感じだからで、なんか好きとか言うとマジで好きになられそうだったからで。

 そうなったら俺は困るし、だいたい俺は存在しない女の子だし!

 でも、ここでバレる訳にもいかない。

 くっそ……秋月を信じて俺はこいつの彼女を演じきるしかない。


「い、いえ! 私はまさみ君が好きです!」


 俺は気持ちに負けずに言い切った。そして……


「そうか……うん、ありがとう」

「そうね、ありがとうね、瑞穂さん」


 両親が笑顔になってくれた。

 よかった。どうにかなったみたいだ。


「では、これで本当に最後だ」

「はい、なんでしょう?」

「まさみとあと一年だけ付き合って欲しいんだ。そして月に一度ほど私たちにも逢って欲しい」

「えっ!?」

「どうかしたのかい?」


 そんなの聞いてない!

 こういう展開は聞いてないぞ!?

 俺が横に座っているまさみを見ると、秋月まで驚いた顔をしている。

 やばい、どうするこれ?


「い、いえ……えっと」


 どうする? どうする俺!?

 ここでは「わかりました」と言うべきなのか?

 でも、でも俺はフェイクな彼女な訳だし、秋月だって大学に行ったらまともな彼女だってできるかもだし。

 いやいや、それ以前に俺が女装をあと一年もするとか無理だろ?

 いくらなんでも隠し通せないだろ?


「まさみ、まさかもう別れるなんてないよな?」

「えっ? ぼ、ぼくは別に分かれるとか……えっと」

「瑞穂さんは別れたいのかい?」

「あ、いえ、そういうつもりはありません」


 くっそ、でもこう答えるしかないだろ。

 ここまで来て引くなんてありえないだろ?


「じゃあ、OKなのかな?」

「……OKです」


 そうだ、もうこう答えるしかない。

 まさみは驚いた顔で俺を見てるけど、そんな顔すんなよ。ばれるだろ。


「では、まさみ、外に出てて貰えるかな」

「えっ?」

「私は瑞穂さんと話があるんだ」

「な、なんで? 別に僕がいてもいいでしょ?」

「いや、ダメだ」

「なんで!?」


 秋月がソファーから立ち上がり父親へと歩み寄ろうとした瞬間、屈託な黒づくめガードマンが二人、リビングへと入ってきた。


「つまみだせ」


 えっ! 実の息子を? 俺じゃなくって?


「間ってよ! どういう事なんのさ!」


 そして、秋月を羽交い絞めにしたガードマンはそのまま強引にまさみをリビングから連れ出したのだった。

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