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002 完璧すぎる女装って怖いよな?

「もう一度宣言するわ! 私の人生経験で最高の傑作だわ!」


 自信満々の姉の声が俺の部屋の中で響いた。

 俺の横にはやたらとハイテンションになっている姉の姿。

 身長153センチ、体重44キロ、茶髪でセミロングで、そしてふつうに可愛い姉。

 こんど俺の行く大学の先輩。二年生である。

 そんな姉が真正面から俺を見ながら興奮さめやらぬ表情で鼻息を荒くしている。

 ……って、前と同じ出だしじゃないか!

 えっと、とりあえずは俺は自分の女装した姿も確認して、

 それが思った以上の出来映えで、そして冷や汗をかいている状態だ。


「まさに人生での最高傑作!」

「まだ十九年の人生経験で言う台詞かそれ?」

「うっさい! 今が良ければ私はいいの! ええい! うっさいから写真とっちゃるけぇな!」

「おい、やめろ! それとどこの方言だよそれ!」

「オリジナル方言だ! まいったか!」

「なんだそれ!」


 俺はスマホを片手に興奮しまくる姉に顔を隠して抵抗してみた。

 いくらなんでもこの姿を写真に納められるのは不本意極まりない。

 だけど、そんな事は気にしないのが姉である。

 姉は俺の写メを撮りまくり、そしてテンションマックス状態を継続した。

 鼻息がすげー荒いまま三十分。

 鼻の穴がでかいまま三十分。

 お願いだからもうちょっと女子的な振る舞いをしようよ、姉ちゃん。

 三十分もその顔してるとか女子終わってるぞ?

 こんなんだから彼氏できないんだぞ?

 声には出さすに心の中でそう言った。


「それにしても、あんたと私が同じサイズで本当によかったわ」


 姉はそっと俺が着ている服を触りながら納得していた。

 俺にとっては何が良かったのかさっぱりだが、姉がよかったと言っている理由は簡単だった。

 実は俺の今着ている高校の制服だった。

 それもリアルで実在する女子校の制服だったりした。

 どこの女子高かと言うと、姉の通っていた女子校だったりする。

 要するに姉がリアルで着用していた制服を俺が今着用しているという事だ。

 ちなみに、姉はこの女子校に通い出してからコスプレという蛇の道を歩み始めていたりする。

 中学校の時には優しくって頭もよくって、それでもってちっさいくって可愛い清楚な姉だった。

 もちろんその時も胸もちっこかった。

 今もちっこいけど。

 もちろん姉はAカップだ。

 言ったら殺されるから言わないけど。


「まぁ、そうだな」


 しかし姉よ、どうしてそんなオタクになったんだよ?

 どうしてここまで変わったんだよ?

 もしかしてさ、あんた実は俺の姉ちゃんじゃないんじゃないのか?

 外面は姉ちゃんだけど、中身は別人じゃないのか?

 例えば宇宙人とか。

 まぁそんのありえんし、この姉が現実の姉なんだけどさ。


「どうかな? あんたの望んでいた女の子になれたかな?」


 なぜかベレー帽を被ってってどっからもって来た?

 そして、腕を組みながら笑顔で語る姉。

 どっかの小説で聞いた台詞っぽいって言うか、それはコアなユーザーですら理解できなんだろ。

 それもそれってここで使うセリフじゃないし!

 どっちかというと俺は彼女≪ヒロイン≫じゃないのか!?


「どっちかと言うと、姉ちゃんの望む女の子にされたけどな、俺が!」

「もぅ、ここはノリなよ。例えば、キュンキュンするようなヒロインにしてやるよとか言ってよ」

「いや、繋がらないから! それってまったく繋がらないから! ここで使うセリフじゃないから!」

「ちぇ」

「ちぇじゃない!」

「じゃあ、聞き方をなおすよ。あんたの望むような女の子になれてる?」

「あ、ああ」


 とりあえず俺はこくりと頷いた。


 ★☆★


 部屋に一人っきりになった。

 ちなみに姉はトイレに行っている。

 俺は部屋に一人きりになって、じっくりと鏡を覗き込んだ。

 鏡に映るのはやっぱり可愛い女子高生。

 そして、俺はこれ以上の出来の女装は望みたくないと再び思う。

 思うんだけど……


「お、おはよっ」


 思わず鏡の中の自分に語りかけてしまった。

 そして俺は鏡の中の自分を見ながらドキドキしたり。

 いやいや、自分にドキドキするとかどんな変態なんだ!

 とか言われそうだけど、そんな事を言うなら女装してみろ。

 本気で正直に言う。

 すっげー可愛く仕上がった自分をみたらマジでドキドキするから!


「て、てへ♪」


 でもって今度は笑顔を振りまいてみた。

 うわぁ、可愛い……くっそ……

 やばいなマジでこれ。

 これ以上のレベルの女装をされると……俺はっ……くっ……

 いやいや! いやいやいや!

 やばかった。一瞬だけど女装が癖になってしまいそうだと考えた俺がいた。

 でも……女装が癖になる奴の気持ちが少しだけど解った気がするな。

 女に憧れている奴だったら、このレベルの女装が出来れば何度でもやっちゃうんだろうなぁ。

 だって自分で自分が可愛いとか思えるレベルだもんな。

 これなら誰かに見せても恥ずかしくないしな。

 いや、恥ずかしいよ?

 でも、決してオカマには見えないから、十分に女子に、そう、最近よくきく男の娘ってやつに見える?


「でも勿体ないわね、このレベルの女装が今回限りだなんて。しくしく」

「うわぁぁぁぁあ!」


 いきなり音もなしで背後から姉が表れたんですけどっ!


「で、なにがてへなのかなぁ?」


 ニタニタしている姉を見て俺は絶望感に襲われた。

 別の意味で緊張がマックス状態になってしまった。


「れ、練習だよ!」

「そうなの? 本当はまた女装したいとか思ってるんじゃないの?」


 な、なんてするどい。くそっ悟られないようにしないと。

 確かに俺は少しだけそういう事も考えたし。


「俺は別に女装が趣味じゃない! またしたいなんて思わない!」

「いいじゃん、いっそ女装を趣味にしちゃえば? なんなら私の服とか貸してあげるよ? 化粧の仕方も教えてあげるわよ?」

「やめい! 俺はオタクでもコスプレイヤーでもない! ましてや女装したいなんて思ってない!」

「本当にぃ?」

「本当にだ!」

「でもさ」

「な、なんだよ」

「でも、今回は女装するんだよね?」


 さっきまでの笑顔が姉から消えた。

 いきなり真面目な顔になっている。


「だから、それには理由があるからだろ」

「理由ねぇ……」

「な、なんだよ」

「あんたがまさか他人の為にここまでするとはねぇ?」

「悪いかよ」

「いや、悪くないけどさ」


 そう、俺が女装をするのには理由があった。

 別に興味があったから女装をした訳じゃない。


「さて、じゃあ……そろそろ仕上げね」


 さっきまでの真面目な表情はどこへやら、

 姉はすさまじくニヤニヤしながら俺の正面に立つ。

 そして、腰に手を当ててゆっくりと正面から右手を挙げてゆく。

 まっすぐにピンと腕を伸ばし、俺の鼻の先に向けてひとさし指を伸ばした。


「さて、みずき、ここからが本番よ! あなたは今から【秋山瑞穂あきやまみずほ】になりきるのよ! 【秋山みずき】ではなく【秋山瑞穂】に!」


 そう、今日の俺は俺じゃない別人になるんだ。

【秋山瑞穂】と言う名前の、俺のいとこという設定の女子になるんだ。


「俺って言うのはもうダメだからね。私にするんだよ。歩き方とか食事の仕方だって女の子になりきる。そして、口調も変えるんだよ?」

「あ、ああ」

「本当に覚悟はいいの? ちなみに、今ならまだ引けるわよ?」

「いや、引かない。俺は……引かないから」


 そう、俺は自分で決めて女装をしたんだからな。


「ふふ、いい顔してるじゃない。まるで男の子みたいね。いいわ。最高に頑張ってきなさい! あんたの演技で完璧な女の子になりきってくるのよ!」

「お、おう! って、俺は元から男だから!」

「そして、目覚めるのよ!」

「って! おい! 何に目覚めるんだよ!?」

「あら? 言わなきゃわかんないかな?」


 姉の笑顔が怖かった。

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