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001 俺が女装を決断したのにはちゃんとした意味があるんだからな?

 チュンチュンとスズメの声が窓の外から聞こえた。

 まさにこれが朝チュン状態だ。

 そんな東の空がやっと明くなってスズメの鳴き始めた早朝。


「か・ん・ぺ・き!」


 自信満々の姉の声が俺の部屋の中で響いた。

 俺の横にはやたらとハイテンションになっている姉の姿がある。

 身長153センチで体重44キロ、茶髪でセミロングで、そしてふつうに可愛い姉の姿が。

 ちなみに、こんど俺の行く大学の先輩の二年生だったりもする。

 そんな姉が真正面から俺を見据えながら、興奮さめやらぬ表情で鼻息を荒くしていた。


「なんて言うかさ、これってもう最高の出来栄えだよね! あんたもそう思うでしょ?」


 姉は普段は早起きなんてしない。

 よほどの事がない限りは早起きなんてしない。

 そんな姉が今日に限っては四時に起床したという事実。

 そう、よほどの事があったのだ。


「もうっ! 最高ねっ!」


 まさにいつも寝起きが最悪レベルの姉なのだが、

 今日の姉は普段では考えられないレベルの早起きをした上に、

 こんなにハイテンションになっている。

 そうなった理由は一つだった。

 さっきのよほどの事だ。


「マジであんたって女装をする為に生まれた男ね!」

「それってすげー褒め言葉になってないから!」


 そう、それは俺を女装させるためだった。

 姉は俺を一度でいいから女装させてみたかったのだ。

 俺はちなみにしたくなかった。

 えっ? じゃあ何で俺が女装をしなきゃいけないのか?

 そういう質問も普通に出るとは思うけど、今はそこはおいておいて……


「いいじゃん! 私は満足なんだからさ」

「姉ちゃんだけが満足してもなぁ」

「だ、か、ら! あんたも満足するって!」


 ふんふんと顔にかかりそうな鼻息で姉が部屋の中をうろうろしている。

 あんた、動物園のくまか?


「……でも、いくら褒められても俺は鏡も見てないし、なんとも返しようがないだろ?」


 俺は姉から一旦は視線を外すと、見慣れたはずの自分の部屋を見渡した。

 しかし何度見ても変化のないふつうの部屋だ。

 多少の漫画がある。

 多少のライトのベルがある。

 多少のエッチな本が隠してある。

 そんなまったくもって普通の男子高校生の部屋だ。

 俺ってなんてつまんねぇ奴なんだろうなぁ……

 朝のテンションはおかしくそんな事を痛感する。


「そうねぇ、自分の姿を見ないとわかんないわよねぇ」

「そんなの普通に考えてもわかるだろ」


 ああ、そうそう。

 勘違いしてもらったら困るから言っておくが俺は重度オタクじゃないからな?

 ましてや、女装の趣味をもってる訳じゃない。

 ここは嫌がってたってさっきも言ったからわかるか。

 あと、コスプレイヤーでもなし、コミケとか参加した事もない。

 そういうのに、ほぼ興味がない。

 だけど今、俺はちょっとある理由で女装をして貰っている。

 しかし、これには理由がきちんとあるし、その理由がなければ女装をする事なんて絶対になかった。

 マジだかんな?


「そっかー、鏡が見たいんだ?」

「いや、見たいとか言ってないし。逆に見るのが怖いし」


 正直、言葉の通りで自分が女装した姿とか見たいとは思っていない。

 だけど仕方ない。

 見ないと俺がどんな格好にされてしまったのかがわからない。

 わからなきゃどうしようもないし、感想も言えない。

 姉がいくら出来が良い女装だって言っても、俺が納得できなきゃ計画自体を見直す羽目になるかもしれない。

 あいつには悪けど、いざとなれば姉に俺の身代わりになってもらう選択もありえるからな。


「大丈夫よ! 見れば納得するわ! いかに完成度が高いかって事をね!」

「……そ、そっか」


 姉はそそくさと部屋の隅に用意してあった姿見の元へと駆け寄った。

 そして、よいしょと抱えると俺の目の前まで持ってきた。

 ちなみにこの鏡は俺のじゃないからな?

 姉がコスプレした時の確認用に自分で持っている奴だからな?

 決して俺は自分の姿をみてうっとりするようなナルシストでもないからな。


「じゃららららら~」


 姉よ、自分の口でドラムロールという痛い行動を弟の前で平然とするな。

 まぁそれほどに今の姉はハイテンションだという証拠なんだけど。


「じゃーーーん!」


 ドラムロールが終わると同時に鏡にかけられていた可愛い熊さん柄の布が取られた。

 そして鏡に俺の姿が映し出される。


「うわぁ……」


 俺の第一声は驚愕の声だった。

 そうだな……

 例えるなら、期待してなかったけど、でも、心の奥では微妙に期待していたのかもしれないけど、

 その期待よりも結果的に上をいっていて吃驚って感じの声かな。

 えっ? それってどのレベルの驚きがわかんねぇ?


「どうよ、この完璧な女装は! ふつうにあんただってわからないレベルでしょ♪」


 自慢げに目を見開いた姉は俺を見ている。

 そんな姉を見ながら俺は小さく頷いた。

 まさにその通りだったから。


「でもさ、なんかすっげー違和感だよ……」


 鏡に映る自分を見て俺はそれが自分だと信じられなかった。

 言葉の通りに凄まじい違和感を覚えたからだ。

 どう見ても鏡に映っているのは俺じゃなかったからだ。

 鏡に映っていたのは肩までかかる黒髪のとても可愛い普通の女子高生だった。

 その女子高生が俺の動きに合わせて同じ動きをしているのだ。


「すごいでしょ? 何がすごいって、見た目であんただって解らないのもあるけど、それよりも普通の女子高生に見えるってところよね!」


 そう、姉の言う通りで鏡の中の俺は普通の女子高生だった。

 身長が152センチのAカップの女子高生だった。

 漫画や小説に出るようなすげー美人でもスタイルが良い感じでもなく、

 普通に可愛い感じの貧乳の女子高生だった。

 しかし……現代の女装道具はマジすごいんだなって感心する。

 この微妙なAカップが偽乳で構成されているとは誰が思うだろう。

 俺の胸は偽乳で、現実に目の前で微妙に膨らんでいる。

 またそれがリアルでリアルで、触ったらバレるけどな。


「まさに貧乳女子高生ね!」

「でもさ、これなら別にぺったんこでもよかったんじゃね?」


 姉はチチチと口で言いやがった。口かよ!


「駄目よ? ブラのラインが重要なのよ?」

「ブラのライン? って、ブラのラインとか服着てりゃ見えないだろ」

「馬鹿ね」

「な、なにが!」

「あんたは女の子のフィギアのスカートの中が布パンツじゃなくって合成ゴムで色がついてるだけだった時に納得できるの?」

「い、いや、だいたい俺はフィギアもってないし」

「ダメなのよ! そういう細かい部分にも注意しなきゃ! 下着のライン一つも重要なのよ! 特にコスプレの場合は下着もよく考えなきゃダメ!」


 なぜかここで姉の熱いトークが始まった。

 そして、このトークは十分続いた。


「わかったよ……もう十二分に理解したからさ」


 もういい加減聞いていて飽きてしまったので意味不明な言葉の羅列だったけど納得した事にした。

 でないと姉の暴走が収まらないからな。


「何というか、チラリズムの重要性がわかった?」

「……あーはいはい、わかったわかった」

「で、Aカップの理由も理解した?」

「あー理解したした」


 俺は視線を下へと向けた。

 ちょっとした膨らみ。

 俺の胸はあるか無いか服を着ているとわからないレベルのAカップ。

 まさに微妙。

 なぜかこのカップには姉のこだわりがあるらしく、そこについてもさっき力説されたばっかりだ。


『みずき知ってる? 本当に絶壁な胸の女の子って高三では皆無なんだよ? 殆ど膨らんでない貧乳女子なら結構な数いるけど、絶壁はマジでいないからね?  あとアニメみたいなでっかい奴もあまりいないからね? だから真面目に女装するなら偽乳の大きさも重要なんだからね?』


 いやいや、極端な大きさじゃなきゃそこは別にBでもCでもいいじゃんって思うんだけど?

 そういう女子高生だっていっぱいいると思うんだけど?

 だいたい、俺としてはでかい胸の子の方が好みだし。

 俺、なんか間違ってる?


「どうよ? 私の凄さに驚いたでしょ?」


 ああ、マジで驚いたよ。

 取りあえず、胸の大きさはともあれ、これは俺の期待をかなり上回る結果になっていた。

 逆に上回ってるからこそすっげー罪悪感に襲われた。

 いや、ごめん、なんかさ、俺のクラスメイトの女の子よりも俺の方が可愛くね?

 ほんっと申し訳ないな。

 マジで俺の方が可愛いって。

 やばい、俺は何を考えてるんだよ!?


「それにしてもあんた可愛いわね……ちょっとイラつくわ」

「な、なんでイラつくんだよ? 姉ちゃんが化粧だってしたんだろ。髪型だって姉ちゃんが選んだんじゃないか」

「だって、男の癖に女装が似合うとか生意気じゃん」

「さっき俺に女装をするために生まれた男とか言ってたよな? で、生意気とか意味わかんねぇし!」


 しかし、何度も繰り返して申し訳ないけど、本当に鏡の中の俺は普通に可愛いすぎだった。

 なんて言うか明るくって気軽に声がかけられそうな爽やかな女子高生って感じがした。

 思わすニコリと微笑んでみたけど、やっぱ笑顔もそれなりに普通に可愛いかった。

 そして俺は思った。

 きっとこういう感じの女の子に告白されたらOKするんだろうなって。

 しかし……しくじったかな……

 なんかじわじわと自分が可愛いって……うれしくなる。

 やばい、これは想像以上の出来すぎだった。

 もうちょっと似合わなくってもよかった……

 ああ、こんなもんかってレベルでよかったのに。

 横を見ればさっきよりも鼻息の荒いにやにや顔の姉の姿。

 暑くもないのに俺の額からは汗が滴り落ちた。

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