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番外編 家出2

 逃げ惑う群集の向こうにいくつもの巨大な獣の姿が見えると同時に、私とシュバルツは駆け出していた。

 シュバルツの剣が、筋肉が発達し過ぎた大型の猿のような魔物の足を切り裂く。


「街中に魔物が、こんなに多く? いったいなぜ……!」

銀狼ぎんろう殿は闘技場には行かれないのですか?」

「あれは悪趣味なように思えて――まさかこいつらは、闘技場で飼育されていた魔物なのですか!?」

「ええ、どれも見覚えがあります。私も闘技場は嫌いですが……夫が闘技場の常連で、よく付き合わされていたのでわかるのです」


 闘技場では奴隷同士を殺し合わせたり、奴隷たちに魔物と戦わせたりする見世物が連日開催されている。見世物に使う目的でそれなりに強い魔物が大量に飼育されているのだ。

 街にはその魔物たちが解き放たれているようだった。今夜や明日の興行に出る予定だったらしい魔物などは腹を空かせているのか、人を食い始める個体もいる。

 あの愚か者のような野蛮人であれば自分も闘技場の魔物と戦えると大喜びするのかもしれないが、もはや常人の目に映る広場は地獄絵図と化していた。


きりがない!」


 叫びながらもシュバルツが、全身に黒い体毛と頭に二対の角を生やした人型の魔物を斬る。私も魔物が叩き折った街路灯を大剣の代わりにして奮戦しているが、シュバルツの言う通り魔物はどんどんやって来る。

 まとめてぎ払えれば楽なのだが、逃げ惑う人々が邪魔だった。思い切り振り回せば魔物も一網打尽にできるが人をも巻き込んでしまう。


「う、うわあああッ!!」


 叫び声がして振り返ると、先ほど私を脅そうと頑張っていた三人組が、直立歩行する大型のヤギに殺される寸前だった。視線でシュバルツに合図を送り、一人で彼らのもとへ向かう。

 三人組はナヨナヨした体型でいかにも弱そうに見えたが、意外と根性はあったようで、背後に小さな子供とその母親を庇っていた。

 街路灯でヤギに突きかかる。


「えっ、はあっ!?」


 背中からコウモリのような羽を生やして宙に避けたヤギを見て、三人組が目を丸くする。どうやら彼らも闘技場へは行かないようだ。

 不本意ながら闘技場の常連客である私はヤギの動きを熟知していたので、最初の突きは誘いである。流れるような動きで街路灯をブン回し、ヤギの脳天に鉄製の支柱を叩きつけて撃墜する。

 重量を増した鉄柱に潰されたヤギの体が、トマトみたいに弾けた。


「うおっ、グロッ!!?」


 血と肉片を浴びて悲鳴を上げる三人に告げる。


「後ろの母子を連れて逃げろ、余裕があれば冒険者ギルドに事態の報告も頼む」

「お、おう。わかった!」

「早く行け」

「その、ありがとよ! スプリット・スプラッター先輩!」


 男たちは素直に指示に従い、母子を連れて駆け出したが。

 特別アホな冒険者があの愚か者を見るときのような、嫌な目でこちらを見ていた気がする。そう、少年のようにキラキラとした、あの目でだ。

 それでも今はそんなことを気にしている暇はないと、気持ちを切り替えようとしたところで――彼らの行く手を影が遮った。

 反射的に駆け出して、彼らを追い抜き――影との間に割って入る。


「ぐあッ……!!」


 防ぎ切れないと判断して咄嗟に目をつむってしまう――すると誰かの悲鳴が聞こえた。守れなかった? いや、そんなことはないはずだ。彼らが私の前に飛び出せたとは思えない。彼らの反応速度では、身体能力では間に合わないだろう。ならば、誰がやられた?

 目を開けると銀の髪を揺らして、シュバルツが真っ赤に染まった肩を押さえていた。


「すまない、つい庇ってしまった」

「いや、助かった。おかげで奴をたおせる」


 鬱蒼とした森に棲み、姿を消して獲物に近づき鋭い爪の一撃で仕留める悪魔のような狩り方を好むこの魔物はシュティル・ゲンガーと呼ばれる。逃げている彼らを守るために咄嗟に割り込んだものの、あのままでは敵の攻撃を避ける術はなかった。先に一撃を受けてしまっていたら、シュティル・ゲンガーを逃がさずに殺し切るのはかなり難しくなったはずだ。

 シュバルツの前に出て、シュティル・ゲンガーと相対する。

 勝負は一瞬だ。

 街路灯を投げつけると、黒い鉤爪かぎづめが鉄柱をバターのように切り裂く。丸みを帯びた鉄の欠片と鉤爪を避けてシュティル・ゲンガーに肉薄し、シュティル・ゲンガーの胴に拳が触れる間際に、予め拾って握りこんでいた小石の重量を増加させる。


『ギエェェエイッ!!』


 悲鳴を上げて吹っ飛んだシュティル・ゲンガーに飛びかかり、背後に短く告げる。


「剣を!」


 意図を察してシュバルツが投げて寄越した彼の愛剣を受け取り、シュティル・ゲンガーの首を刎ねた。

 悪魔のような姿をした魔物の頭が、ごろりと転がる。首を失った胴体から、何度か鮮血が噴き出した。

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