表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

Seven years later

 頭が痛い。久しぶりに昔の夢を見た。

 あの頃の純粋だった田舎娘はもうどこにもいない。私は都会の波にもまれてれてしまった。

 はあ、と深い溜め息をついて、私のベッドで未だ眠りこけているおろものを見やる。

 眠っている時の姿だけは完璧だ。均整の取れた引き締まった体躯たいくは頼もしく、理知的な面差おもざしの上で七三分けにした金髪が陽光を浴びて輝いている。本当に、見た目だけは品がある。

 村を出て――村と父を失って7年。この愚か者と出会って、7年。

 私は22歳になり、愚か者は26歳になった。


「おい、起きろ」


 先に服を着て、愚か者の横っ腹を蹴る。結構本気の前蹴りだが、鋼を蹴ったみたいにかたい。

 仕方がないのでみぞおちにかかとを落とした。


「ごふッ!!?」

「起きろと言っているだろう、早く服を着ろ」

「てめぇコラ……ゴホッ、ゲホッ!」

「朝食は用意していない。というか、する気もない。勝手にどこかで食べるといい。私は先にギルドに行っている」

「ああ? なんでそんなに不機嫌なんだよ……」

「お前のせいで腰が痛い」

「腰が痛ぇのに人を蹴るなよ」

「人? ゴリラの間違いだろう?」


 ようやくベッドから起き上がった愚か者のみぞおちを、今度は拳で突く。

 愚か者はまた咳き込んだ。咳き込む前に何か反論を口にしようとしていたようだが、無視する。


「ゴホッ、ゴホッ! てめ、コラ――ゴホッ、ゲホッ!」


 うめき声を背に部屋を出た。



 ◆◆◆



 私が現れると冒険者ギルドは水を打ったようになる。いつものことだ。私の顔を知らない新入りですら、私が担いでいる――まるで名刺代わりの――大剣を見れば気づいてしまう。あまりに大きすぎるこの得物が目に入らないということはありえない。


「スプリット・スプラッターだ……」

「またエグい殺しをやったらしいぞ」

「ああ、トロールを潰し斬ったって……」


 私をニンニと名前で呼ぶ者はいなくなった。出会って最初の頃に名前で呼んできた奴らはいたが、すでにそいつらも私の名前を忘れているかもしれない。今ではスプリット・スプラッターというあまりにも凶悪な異名が私という冒険者を表している。

 だから――。


「おいコラ芋ォ!! てめぇ朝からケンカ売って逃げやがってこのクソ芋が!! ぶっ殺してぶっ殺してぶっ殺してッ、ケツでワインを飲ませてやるぜ!!」


 芋、と未だに呼び続ける愚か者は、やはり愚かなのだ。私は変わってしまったが、愚か者は愚かなせいでかあまり変わらない。永遠の愚か者である。呆れると同時に、安心してしまう。

 たとえ私が今後どのように変わろうとも、この愚か者だけは同じように受け入れてくれるのだろう。


「おい、ヒート」

「アア? 命乞いなら聞いてやらねえぜ?」

「いい依頼を見つけた。行くぞ」

「ちょっ――おいコラ待てよ! まだ話はついてねえッ!!」


 依頼を受注するために受付に向かい歩いていると、怒鳴りながら追いついてきたヒートが大きなサンドイッチを差し出した。


「待てっつってんだろ! お前、大食いキャラのはずだろうが。カッコつけて朝食抜いてんじゃねえぞ、芋のくせしてよ。オラ食えよ、おらっ


 挑発には乗らずに、気遣いだけ受け取ってやる。愚か者にもあるちょっとした可愛げくらいは認めてやるべきだろうから。


「貰おう」


 大きなサンドイッチを受け取ると、後ろから右の乳房をわしづかみにされた。片手にはサンドイッチを、もう片方の手には大剣の柄を握っているために抵抗できなかった。


「引っかかりやがったな、馬鹿芋め!」

一応訊いておいてやるが、何をしている?」

「わかんねえのか? もんでんだよ! やっぱでけぇな、昨日ももんだばっかだけどよ」

「そうか」


 逆手に握りなおした大剣の柄尻つかじりで愚か者の額を打つと、愚か者はそのまま後ろに倒れて消えた。

 愚か者は放っておいて、受付に依頼を受ける旨を伝える。


「――では参加するパーティメンバー全員のサインをお願いします」

「ああ」


 渡された紙の、枠内の一番上に自らの名前を記し。

 そのすぐ下に、ヒート・ナッツとサインした。


「あの、サインは直筆でないと……」


 言いかけた受付の女は、そういえば初めて目にする顔だ。どうやら新入り冒険者ならぬ新入りギルド職員らしい。

 二つ並んだ名前の後半部分を、指先で叩いて示してやる。


「あ……」


 女が間抜けな声を漏らす。

 ギルドの規定では、家族であれば代筆しても問題ないのだ。

 背後に伸びている愚か者を見やって、ふと思う。



 こんな私だが、左腕くらいには夫を支えてやれているだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ