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沢木の競翔
「朝8時じゃ言よります。今日は昼まで戻んて来れるんかいねえ・・」
分速に換算すると800メートル台であるが、何とも言うべき経験も無ければ、自分の使翔する血統に対する明確なものは、何も引き出せない。洋司は電話を切った。月曜日の客の入りは少ない。彼は2階に上がるが、どんよりとした空には、鳩の姿等どこにも無い。
午後になって、とりから洋司に一報が入った。
午後12時前に戻った鳩が数羽だと言う事だった。その一握りの鳩がこの吹田200キロを制しただろうと言う事は誰でも分かる。その中に松本の1羽・・松竜号が入っている模様だ。毎シーズンのレースでは、ドラマが生まれ、ヒーロー・ヒロインが誕生する。しかし、その事だけを追い求め、期待感だけ膨らませ、そこに人間たる浅薄な至福感に酔っている競翔家が居るとしたら、いずれ手痛いしっぺ返しを食らうであろう。物事には、偶然性はあるが、結果は常に、プロセスにおける必然の理によって成り立つのである。
200キロレースも、又松本が優勝した。分速900メートル台を唯一羽記録し、名前も初披露。




