沢木の競翔
「わしは、自分の事で今精一杯ですきん、社長の鳩の事は知らんです。たまたま、今日事務所に行っとって、善さんも顔出しとったきん、ほなん事聞いただけですきん、滅多な事は言えんけど・・打刻しとったら、100キロも150キロも優勝圏内には居ったん違いますか?」
ざわざわ・・又周囲が言うが、100キロ、150キロレースを打刻しない中堅、ベテランは多い。そう言う意味では、200キロ吹田がいよいよそれぞれの鳩舎の本番になるだろう・・。
競翔が始まれば、1週間等あっと言う間に迎えるが、その間の1週間はヤマチューにとって長いものであった。変人・堅物・・山根との仕事は苦痛極まり無かった。そして、施主も一つ一つの事に細かい口出しをしてくる。必要以外の事は喋らず、黙々と作業をこなす山根であった。中曽根茶園は、こだわりの味を大事にする所。厳しいブランド茶としての出来、不出来はその年の天候にも左右されるが、室内の湿度、乾燥、茶葉の蒸気での熱し方一つで味が変わるのだから、それを守るのは大変な事なのだ。
2日目・・ヤマチューは少し胃が痛くなった。3日目・・今度は頭が本当に痛くなった。4日目・・体が重くなった。そして、地元とは言え、中根と作業する最後の日であった。丁度並んで食べる昼の事、
「のう、山下・・お前は何が好きなんぞ?」
いきなり聞かれて、ヤマチューは返答に困った。




