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由香里と勇次
「いや・・その年には、前途洋々で300キロ、500キロ連続優勝をしとったんじゃ、すずらん号は。鎌足さんでさえ、とてもこなな鳩は作れん言うような凄い鳩じゃった。その筋肉の柔軟性、安定したスピード、理知的な深い赤い眼・・最高の鳩じゃったわ。そやきんど、いよいよ1000キロ竜飛崎四国CHレース前の700キロ地区Nレース(当時は、四国N)で、思いもかけん事故があった。その中にすずらん号が居ったんよ。放鳩車がいねむり運転のトラックに追突されて、海に転落したんじゃ。大半の鳩が、そこで水没して死んでしもうた。運転手も全治3ヶ月の重症じゃったんじゃ・・この1000キロと言う目標の為にな、沢木は人知れん努力を惜しまず、一生懸命すずらん号を育てて来た。天才ちゅうのは、現れた表面の事だけと違う・・その隠れた努力を知らん者にとっては、何も分からん事じゃ。惜しい・・ほんまに惜しい鳩をこの時亡くしたんじゃ」
「そやったんですか・・それなら、わしにも大体分かったです・・ほんで、その勢山系・・給料の3倍もの金額で買うたんは、どこから?済んません・・わし、気になる事は聞かにゃ、気が済まんので・・」




