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由香里と勇次
「一つ聞きたいんは・・何でその天才言われた、沢木さんが、競翔を止めたんかいね?それだけ鳩が好きで、人一倍研究熱心な人が・・事情でも?」
至極当然な、妻鳥の質問であった。しかし、川滝、松本の顔が曇った。
「その事やきんど・・・まあ、本人が一番葛藤した事じゃろうのう・・わし等に分かるんは、今すみれ号系統と呼ばれ、香月系の基礎となっとる勢山系・・その大基が、すずらん号系譜ちゅう事じゃわ」
「ええっ!。あの香月博士が、確立しょうとしとる系譜が沢木さん作、すずらん号系譜?」
「おう・・そやきんど、僅か3羽の子鳩を残して、3歳ですずらん号は逝った。あの沢木の慟哭は、今思うても、わし等も涙が出るわ。それで、沢木はすっぱり競翔を止めた」
「3歳で・・それは病気・・?」
妻鳥が聞く。




