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師匠と共に
「事務所に居っても聞こえる声で、びっくりしたわ、わしも。ははは・・そやけど、沢木、お前はごろっとあれから変わったわのう、衣を脱いだんや、お前はあの時。それからは、わしの眼から見ても、ほんまにど偉い奴になった。修二・・沢木の事今言うとるけど、わしがお前に法被渡した日の事覚えとるか?」
「え・・はい。忘れません」
「お前は、お祖母はんに、リクライニングチェアをプレゼントしたい言うて、依頼された子や孫の気持ちを受け取り、何遍もその家に行き、朝晩の日光の入りや、お祖母はんの体格や行動まで把握して家具を作ったやろ?わしはそれこそ、新川家具であるべき姿やと、法被を渡したのや」
「は・・はい」
修二の顔が赤くなった。あの時の感動を忘れる事は無いからだ。
修二が、当時と変わらぬ姿勢を保ち続け、立派に成長している事は全員が知っている。沢木が、静かにこう言った。
「善さんはな、修二君。こう言うとられるんじゃ。構わんですか、善さん。わしが当時出せなんだ答えを修二君に言うても」




