白城(びゃくじょう)
その沢木は、いよいよ実践に向けた鳩の訓練に入ろうとしていた。
天才と言う言葉を多用するのは、余りにも軽く聞こえる。実際将棋の世界においても、アマチュアの初段とプロ棋士の初段では、天地の開き、雲泥の差があるように、常に先を見通し、それに向ってあらゆる想定をし、且つ隙の無い管理、使翔が出来る者・・言えば言葉上ではどんな理想や夢も語られる。しかし、どんな完璧な訓練や管理を行なった所で、そこから導き出せる答え等たかが知れている、常に沢木は言う。
「競翔に定義やら、方程式なんぞ無い。使翔するやか思うな。一緒に空を飛んどるんじゃ、わし等競翔家ちゅうのは。鳩を見い、ただ見い。そこから始まるんじゃきん。人生もそう言うもんじゃ。競翔鳩を家族の一員として捉えるか、使い捨ての機械として捉えるか、川上さんの言葉に全てがある」
と・・。競翔とは育てる事だ。自分もその鳩の成長と共に、人生を見つめて行かねばならないのだと沢木は言っている。洋司は、沢木と共に一緒に出かけて来た黒鯛釣りの様々な場所で、超人的な彼の釣りを見つめて来た。それは、沢木が語らずとも背中で常に教えて来た事に繋がっている事を、知らずの内に学んで来た。趣味の世界、漫然としてただ没頭するのも良し。しかし何事も追求する所に、ものの本質が見えて来る・・そう言う事だと思った。




