白城(びゃくじょう)
院内は、今度は日頃から天敵と言われている津島師長と環の関係があり、その指名に同情するような空気に一変した。津島が悪役に徹する事で、沢木和子も救われ、岩瀬、山辺の溜飲も下がったのである。
人が人を使う・・当然に発生する、人が人であるばかりに起きる全ての争いの発端とは、感情なのである。感情を無視して、強圧的な強権は、或る意味必要な部分もある。しかし、その反動は、必ず弱い部分に集中するのである。それが、解釈を広げればいじめにも繋がる負の連鎖だ。いじめは何も子供の世界だけでは無い・・。
由香里の三観病院転院の知らせを受けて、洋司もすぐ準備に動いた。近くなら、喫茶店を閉めた後からでも娘の所に行ける。洋司の喫茶店主への転身は、全て娘由香里に対する思いからである。娘の姿を見ながらも、その状況にただ悲しみながら、結局眼を背け、何もしてやれなかった痛恨の思い。今、洋司は一人の父親として何が自分に出来るのか見つめている。沢木は逃げたら駄目だ。現実を直視しながらも、不可能を可能に導くのは、進む事しか無い・・洋司にそう教えた。不可能に対する挑戦、沢木はこの7年の間、由香里に対して自分の出来る全ての事を実行して来た、それがこの奇跡を生んだのだ。一歩を進む勇気・・全く先の見えないそこへ足を踏み入れる恐れ、怯え、誰もが不安になるその一歩。しかし、進む所に光明があるのだ。人生においても趣味においても、その人間的大きさに、洋司は師と仰ぎ、今は、少しでも近づきたいと思っているのだった。




