白城(びゃくじょう)
愛媛大学病院で行っているリハビリメニューを、香川県の総合病院に渡し、そこで本格的な歩行訓練を始めるのだと言う。その病院こそ、環の勤めている所だった。これは、地元に近い病院で、一番由香里に適したパートナーである、環に指名されたもの。それこそ香月の深い配慮であった。香月、磯川が来県した際に、環はある契約を結んでいた。
こんな中で、思わぬ軋轢も生まれていた。
「岩瀬師長!どう言う事ですか、説明して下さい」
血相を変えて、環の直属の上司である山辺主任が担当である看護師長の岩瀬に噛み付いた。
岩瀬は、
「私じゃって知らんのよ、詳しい事は。とにかくこれは上からの話じゃきんね」
岩瀬も困惑した。この三観総合病院は、地域自治体が運営する公的な病院だ。そこへ、担当の者、それも自分の部下を指名して一人の患者に対応せよ等と言う事は、常識では考えられない事だった。
岩瀬は、更に上の総師長である白川に確認に行った。
白川啓子、当年56歳になるこの師長は、医師にも自分の意見を堂々とぶつけられる大きな器を持った女性で、師長連中の信頼も非常に厚い。
白川は岩瀬を自分の師長室のテーブルに座らせ、黙って彼女の言い分を聞いていた。




