白城(びゃくじょう)
村本が、やっとその本音を漏らした。彼も熱い心を持った競翔家であったか、沢木は少し厳しい顔を和らげた。
「ほな、言うわ。香月博士も知らん血統じゃ言う事なら、黙っていぬ(帰る)訳にもいかまいきんの。村本君よ、何を今まで見て競翔しよったんぞ。この1000キロ記録鳩は、鼻瘤がわいとるわ。つまり、この鳩は長距離鳩には向かん。現役を退かせたら種鳩向きじゃ。こっちの1200キロ鳩は逆じゃ。4歳じゃのに若々としとる。5歳、6歳になっても現役じゃ。何で種にしたんぞ。わしが言いたいんはまずこれじゃ」
「あ、成る程。それでバスケットの外から・・」
香月がにこりとすると、
「血統の特徴は様々じゃ、そやきんど鼻瘤に限らず、眼を見たら、大概の事は読めるし分かる。この大きな特徴を何で今まで気がつかんかったんか・・ちゅう事じゃわの?村本君。これが雪風系の大きな特徴じゃ。血統的に非常にタフで馬力もあるし、スピードこそ無いきんど、病気も余りせん、丈夫な鳩よ。そやきん、使う側は安心して、ついつい、もう限界じゃ言うのに、無理なレースに出してしまう。わしが言いたかったんはそこじゃ。ちゃんと血統を把握し、個々の鳩の特徴を見極めてから理屈を言え。秋山君や、お前は確かに勉強もしとる。レベルも低う無いし、頭もええ。そやきんど、競翔ちゅうんは、科学だけでは無い。動物との対話じゃ、それを忘れる者には競翔をやる資格なんぞ無い。しかしの、村本君。秋山君とお前は違うんじゃ。それぞれに目指す方向が違うんじゃきん、この佐野君が、どれだけ大切にこのエース号を育てて来たか、わしはそれを知って貰いたかったんじゃ。ほうで無かったら、この交配の話はもうこれで打ち切りじゃ」




