白城(びゃくじょう)
「いやいや・・それは違う。嘗ての白竜号、ネバー号がどうであったか?未だ飛べると言う力を残しながら引退した鳩。もう余力が無い状態でも、飛翔する事を義務付けられたネバー号。スプリント号はどうであったか。この鳩の全盛は3歳であった。故に誠にタイムリーな引退だった。佐野君・・人間の思惑や考えなんちゅうのは、所詮そんなもんなんですわ。あの偉大な白川博士にしてそうだった。それは、ネバー号と言う鳩に固執してしまったからじゃきん。動物は、生きて居る間、気力のある間は、輝いとるんです。この佐野エース号は、2歳でシルバーC1000キロ総合優勝しとる早熟の鳩。そやきんど、未だ2年は飛翔出来た筈。気力があったんですわ。気力の失った鳩からは、ええ子孫は誕生せん。偶然の産物はあるにしても、人間でも同じ事。鳩にとっての相性とは、互いの気力によって支えられ、そこから産まれるもんや無いかと、わしは思うとるんですわ」
香月が、
「何時もながらのご高説・・私も感服致します。その上で、この鳩の交配相手が四国に居られますか?沢木さん」
佐野は、一言も発しなかった。それこそ道中にて香月と話した事と合致していたからである。何故天才と称され、世界的にも著名なこの香月が、この沢木に対する尊敬の念を隠そうともせず、真っ直ぐ彼を見つめるのか、体が震えるような感覚に陥った。




