変化する日常
「ほれじゃ、最初っからじゅんさんは鳩競翔に戻るつもりやったんかいね?」
洋司が尋ねると、沢木が、
「・・言うて無かったわいの・実は、松山空港からわしの家まで1時間ちょい。正味香月博士と話させて貰うたわ。その時言われたんじゃわ、沢木さん、結局逃げてたら、自分の心のもやもやは晴れないまま一生背負ったままですよ。そして、すずらん号はその生を授かった意味が消えてしまいます、どうですか?と、の。わしは、ズバリと言われて言葉を失のうた。嗚呼・・やっぱりこの方は見抜いて居られた。この縁はそう言う運命の意図の中にあったんかと感じたんじゃ。香月博士は言葉を失うわしに、こう提案してくれた。実は、香月系は現在、暁号系、夕張号系、初霜号系、主流のスプリント号系の4系統が存在する。しかし、肥大化して行くこの系統を管理するのは、到底一代では無理であるし、限界がある。かと言って自分の求める方向性を真に理解して貰えない方に委託する訳にもいかない。磯川さんは御自分の競翔姿勢を貫かれ、*隻竜号と言う鳩で昇華されました。沢木さんは、非常に思いやりがあって、包容力を持たれ優しい方です。しかし、何時も後一歩を踏み出さないで立ち止まってしまわれる。それは、自分の中の概念が、遙かに現存する実体を飛び越えてしまわれるのを恐れる余りです・・申し訳ありません、年も遙かに至らぬ私の、これがつぶやきなのですが・・ちゅう話やった」
*隻眼の竜にて
洋司の顔が厳しくなった。




