3027/3046
最終章その3 鳩達の潜在意識
由香里が、すぐ隣に居た沢木の気配が無くなった事に気付く。
「じゅんおっちゃん・・?」
由香里が振り向くと、沢木はその時彼女とは、反対側にあたる右方向の桐山方向に向いていた。その潤む眼から、今にも零れ落ちそうな涙を隠すように。そのままの姿勢で彼は言う。
「わしは、こっちから鳩が戻んて来ると思う。由香里ちゃんは、どう思うぞ?」
「うちもそう思う・」
「ほうか」
二人は向かい合って、にこっと笑った。もう何も必要無い。沢木は感じた。それ以上に求めるものは既に無い。鳩達は愛する人の待つ鳩舎に戻って来るのだ。そこに待つ無常の幸福の為に・・
これが、競翔と言う本質なのだと沢木は思った。
一方松本鳩舎においても、松本は松竜号の早い帰舎を予想し、縁側で待っていた。




