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最終章その3 鳩達の潜在意識

 由香里が、すぐ隣に居た沢木の気配が無くなった事に気付く。


「じゅんおっちゃん・・?」


 由香里が振り向くと、沢木はその時彼女とは、反対側にあたる右方向の桐山方向に向いていた。その潤む眼から、今にも零れ落ちそうな涙を隠すように。そのままの姿勢で彼は言う。


「わしは、こっちから鳩が戻んて来ると思う。由香里ちゃんは、どう思うぞ?」

「うちもそう思う・」

「ほうか」


 二人は向かい合って、にこっと笑った。もう何も必要無い。沢木は感じた。それ以上に求めるものは既に無い。鳩達は愛する人の待つ鳩舎に戻って来るのだ。そこに待つ無常の幸福の為に・・

 これが、競翔と言う本質なのだと沢木は思った。

 一方松本鳩舎においても、松本は松竜号の早い帰舎を予想し、縁側で待っていた。

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