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最終章その2
沢木はその由香里の言葉に、天から見放されたすずらん号を見る思いがした。それは、この鳩では足りないと言われた気がした。紫竜号すら当日帰りを果たしても、記録には届かなかった。それ程難しい放鳩地であり、それも更に直線距離で300キロも遠い四国の地から達成出来るとは誰も思ってはいない。しかし、挑戦するこれまでの土台は築かれて来ているのだった。
何をそこまで駆り立て、そして夢想と知りながら追うのだろう、夢を。次第に鳩達の観念的世界に踏み込まざるを得なくなった。
現在、過去、未来・・生命とは永遠で無い。しかし、沢木の言う血脈と言う流れは途方も無い悠久の時間の中で、常に生き延びるべき選択を余儀なくされて行く。淘汰・・その言葉は好きでは無い。しかし、その廃棄と言う機械的で全く生命の尊厳すら否定してしまう作業の中では、新しい衣に着替えるように常にその時折の天の悪戯によって変化をして行く。つまり、変化が出来る命こそ、次代を繋げるものだと言う事だ。そこで変化が出来ないものは滅びの笛を吹いて行く。自ら終局を迎えると言う考え方である。




