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由香里立つ!

 年は同じ。ただ、二人の生き方は全く違う。これまでは、お互いの世界に干渉せず・・そう言う立場を貫き、守って来た。そして、今後も恐らくそうであろう。

 環は、沢木のスタッフ全員に缶コーヒーを配ると、由香里の所、洋司の所へ行き、細かい心配りをして声を掛ける。


「主賓じゃきん、今日は家で準備もあるじゃろ、環ちゃん、もう帰り」


 洋司が言う。一人、一人に声を掛け、8時過ぎに環は帰って行った。

 入れ替わりに、八重子が未優と戻って来て、沢木が善さんと顔を出す。すぐ、恵比寿を呼んだ。


「恵比寿、テーマはよう分かるきんど、あそこのカーテンは、主賓が皆に見えん。ちょっと工夫せえ」

「あ・・はい」


 未優が、


「親父・・恵比寿さんは、ようやってくれとる思うよ、そこまでこだわらんでも」


 短時間に、見事な飾り付けをした恵比寿の才能に、未優は感心していたので、沢木の更なる指示は、一生懸命にやっている彼女に少し気の毒に思えた。この反応の違いは、環とは対称的。環は、一言もこの飾り付けが素晴らしいとか、そう言う感嘆符は発しなかった。恵比寿の才能を知るからである。

 沢木は即、


「未優・・わし等の仕事はの、手抜きを覚えたらどなん事もやれる。一端それやってしもたらの、目先はそれで片付くかも知れん、そやきんど、その先に繋がるもんが無うなるんじゃ。お前の仕事じゃってそうやろが?人が人を裁くちゅうんは、なんぼ徹底的に状況証拠を重ねた所で、心の内面は見えん。そう言うもんでは無いかいの」

「は・・い」


 父の言う事が、分かり、未優は頷いた。善さんがにこにこしている。これこそ、新川家具の精神そのものだ。手抜きをしない。満足をしない。成長とは、技能の上達だけで無く、心の内面。その持ちようである・・と。

 ほぼ、店内の飾り付けが完了したのはPM9時頃、沢木は、全員を集め、


「ご苦労さん、お疲れじゃったの。今日は、出来合いのもんで悪いきんど、皆ここで一杯やってくれ」


 沢木が、一人一人にねぎらいの言葉を掛ける。環と一緒だった。これが、人の上に立つ人間・・未優は、ここでも父親の姿を頼もしく見た。そして・・沢木が、


「まあ・・皆、ようやってくれた。ちょびっとへたくそなピアノでも弾かせて貰うかいの。明日の美里さんのピアノ演奏とは、雲泥の差じゃろうきんど、【白い雲】聴いてくれ」

「えっ!親父がピアノ?」「社長が・・?」「じゅんさんピアノ弾けたんかいな」「びっくり・・」


 驚く中で、沢木が上機嫌でピアノを弾く。由香里が沢木の横に座った。


「由香里ちゃん、ピアノやっとったきん、このキー叩いてくれ。連弾しょ」

「あ・・はい」


 沢木が最初はソロで弾く・・それは、素人の域を遥かに超えていた。澄み切った優しい音色であった。


「うわ・・凄いわ・・」


 恵比寿が、呟いた。由香里の指が、キーを叩く。一層【白い雲】の中で、大空を飛ぶ鳩の姿が鮮やかに眼に浮かんだ。聞きほれる全員の前で、沢木は弾き終ると、


「明日は、手伝うてくれたこのメンバーを呼ぶ事が出来ん、片付けだけ呼ぶ事になる。申し訳無い気持ちで一杯じゃきんど、又、美里さんのコンサートは、年内にも文化会館で行なう予定になっとるきん、今日、ここで頑張ってくれた皆を全員招待する。わしの演奏・これで堪えてつかな」


 わあっ!全員が大拍手。沢木の人身掌握術とは、真心と言うものだ。そして、由香里に対する深い思いやりの連弾。こうやって、由香里が弾く事で皆への礼を兼ねたのだ。

 由香里が一人、一人に握手をした。一人泣くのは、感激して感詰まったヤマチュー。


「良かったですわ、社長有難う御座います。由香里ちゃん、わし感動した。美里さんのピアノに負けん位のええ音色じゃった」


 強面のヤマチューが、美里の大ファンと知る由香里は、


「明日、楽しみじゃね、ヤマチューさん」


 うんうんと頷き、言葉にならないヤマチュー。恵比寿が、


「ふふ・・ヤマチュー、お前っちゃ・・ほんま社長に似とるね、最近特にそう思うわ」


 その肩を叩いた。

 未優が恵比寿の横で、


「うちね、恵比寿さん、さっき親父に言われた。手抜きせんのが、職人ちゅうもんじゃと・・恵比寿さんが、親父に手直し命じられて、気の毒と思うたんじゃきんど、これが人間ちゅう浅はかな感情なんじゃねえ」


 恵比寿は、


「姉妹でもかなり違うね。環さんは、一言もうちには言わんかった。未優さんは、わあ、綺麗じゃ、凄いねと言うてくれた。職人てね、正直言うてそう誉められたら やっぱり嬉しいんよ。やる気も出て来るきん。けど、満足するな・・社長は何時もそこで言う。絶対的なもんは存在せん、仮にそこであったとしたら、人間ちゅう生物は絶命するじゃろう、言うて。常に向上を目指す、変化があっても、対応出来るよう、日頃からありとあらゆるものを吸収せえ。うちはそれを心がけとんのよね。うちにとっては、社長は雲の上の人じゃ、そやきんど、近づきたい。うちのスタッフは皆そなん思うとる。未優さん、うちはあんまり貴女の事知らんけど、凄い最近自分でも変化がある・・そなん感じて無い?」

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