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由香里立つ!

「何・・言う・・。由香里ちゃんがの、一生懸命頑張って、前見とったきんじゃ。神さんがご褒美をくれたんじゃ」


 松本の潤む眼も、由香里にとっては励ましてくれた優しい恩人である。松本に出会わねば、全ての繋がりは無かったかも知れない。

 未優が、快気を喜ぶ松本の隣で、少し慌てた様子のとりに気付いた。


「どしたん?とりさん?」

「あ・・いや。今になって緊張して来た。わし・・挨拶せにゃならんのじゃて・・ほなん事全く考えとらんかったきん、今松本さんに言われるまで」


 青年団をし切って来たとりである。司会や挨拶位は出来るだろうが、こと自分の事となると、極度に緊張するようだ。意地悪く、未優が少し口元を緩めながら言う。


「ほな、環姉ちゃんにして貰う?」

「あ・・いや!ほればっかりは、わしがせにゃ・・うん!わしがする!」


 くすくすと、未優と由香里が笑いながら、又2階へ戻って行く。

 松本が、洋司達に時間等をあらかじめ聞いて帰って行った。

 とりが、少し頭を抱えながら、それから少し経ってから帰って行った。店に戻っても恐らく この日は仕事にならぬだろう。洋司は思った。未優が、八重子と共に明日の買い出しに出かけて行った。代わりに午後4時過ぎに、由香里が又喫茶店に顔を出す。おやっとした顔が何名か居たが、それは、あの娘は誰だと言うもの。殆どは由香里の存在を知らぬ常連であった。


「今日は済みません、午後6時で店閉めさせて貰うきんね」


 洋司が客に詫びている。明日の準備で、内装を急ピッチで変えねばならないからだ。

 午後5時過ぎになって、若手競翔家の一人、加地カイチが顔を出す。由香里を見て言葉を失っている。彼は全く彼女の手術の事を知らなかったからだ。


「あ、いらっしゃい、カイチさん。御免ね、今日6時までしか店開けて無いんよ」

「え・あ・うん・・・あの・・由香里ちゃん。足・・治ったん?」


 由香里が、交通事故で下半身不随になった事も、充分には知らないカイチの反応は、ごく自然なもの。


「ふふ・・そうなんよ」


 由香里は手術の事は言わない。言わなくても治った・・と言う事は見て貰えれば分かる。本来なら、立ち上がる事が不可能と言われる脊髄の損傷・・*隻竜号の左眼の手術でも行なったように、香月が研究している分野は、更なる驚異的な進化を遂げているのであった。やがて、この研究が、近未来の医療分野の飛躍的な発展を示唆している。

*隻眼の竜


「ほうな!良かったな」


 バレーボールをやっていたカイチは、おだやかでおっとりした好人物だ。洋司と雑談を交すと、彼がこの日最後の来店者となり、帰って行く。時間は少し早いが閉店をすると、間も無く沢木のスタッフである恵比寿がやって来る。ヤマチューも一緒だった。

 恵比寿は、てきぱきとヤマチューに指示をする。機敏に動く沢木のスタッフは、瞬く間に喫茶店のレイアウトを変化させて行った。


「ほら、ヤマチュー、あっちのカーテンとテーブル変えて。そっち、そっち」


 洋司も手伝う。八重子は、未優と買い物を。由香里は、テーブルに座る招待客の名簿を見ながら、名前カードを作っている。環が、PM7時にやって来た。


「わあ・・えらい雰囲気変わっとるね」


 環は、この場をし切っている恵比寿に、


「エビちゃん、ご苦労様」


「あ、環さんこの度はご婚約おめでとう御座います」

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