由香里立つ!
善さんは、少し涙声・・それは、真に沢木の事を思い気遣ってくれる言葉だった。
環達にもそれは充分伝わった。
「沢木・・火中の栗を拾うのは何時でも出来る・・わしはな、お前にHZK常務取締役を受けて欲しかったわ・・そやけど、お前は、今の事業降りる事は出来へんわな、それもよう分かる」
「打診されましたわ、羽崎名誉会長に・・そやきんど、今は動けんです」
話題を変えて、祝杯を上げる沢木一家と善さん。一人和子は浮かない顔であった。
夫は何時も正しい。だが、敢えて苦難の方向に向って行く。要領と言う妥協が出来ないこの性格は、味方も多いが、敵も作ってしまう。組織の中では生きるのが難しい人間だ。だから、HZKを離れる事には賛成である。しかし、今度は周囲が・・強い夫を求めてしまう。もう、50歳も半ばに差し掛かり、和子は夫に無理をせず、もっとのんびりして貰いたかった。娘二人も、もう自分で巣立ち、母親としての気苦労は耐えないけれど、ちゃんと地に足のついた職業を持っている。食べる事は、心配しないでも良い。夫が提唱した委託農業会社は、現在20町歩を、過疎地から送り迎えの人材を雇い、外国人労働者も雇用し、着実な新農業経営を構築しつつある。




