第9話
〜第9話〜
静かな空間に鳴り響く旋律。白と黒の織り成すプレリュード。
一日で一番落ち着く時間。心地よい空間。
このだった広い学校にはそれに見合うだけの校舎の数があり、それに見合うだけの教室がある。
総数は数えるのがためらわれるので知らないが、それだけの数があるのだから、使われていない部屋というのも結構あったりする。
そんな使われていない教室のひとつが、ここ第3音楽室。放課後の俺のたまり場だ。
「何かいい言い訳はないものか……」
鍵盤をはじく指の動きを止め、ため息をひとつ。もちろんその理由は転校生と午後の授業を
さぼってしまったことであり、明日の言い訳に悩んでいるのだ。
もちろん二人一緒にさぼったのは不可抗力であり、誰かに言いふらすなんてことを俺も彼女もしやしないが、俺達は隣の席同士なわけで、
転校初日の人間が隣の席の人間と一緒にいなければ、変な誤解をされてもしょうがない。
「というか七倉あたりならすでに知ってそうだよな……」
無駄な情報を持つあいつには、今まで何度脅迫まがいの行いをされたことか……。
そんな転校生はといえば、すでに下校してしまった。一緒に帰ろうと誘われたが、これ以上噂の原因をつくりたくないでの即刻辞退させてもらうことにした。
どうにもあいつは苦手だ。
夕暮れの光だけでは少し薄暗い部屋。隅のほうは目をこらさなければすでに見づらくなってきている。
――〜♪〜♪
頃と白のコントラスト。その上を自分の指が躍る、走る。それに合わせて教室に音が響く。
ピアノを弾いている間は何もかも忘れられる。嫌なことや、辛いこと、悩みなんかも考えなくて済む。
だからこの時間は何よりも好きだった。もちろん、ピアノを弾くこと自体も好きだ。
ピアノを始めたのは確か小学生あたりだっただろうか?
なんでも母親によれば、父親に少し教えてもらったことがあるらしいがまったく覚えてはいない。
それでも独学でここまで弾けるようになったのは、もしかしたらそのお蔭なのかもしれないと思うこともたまにある。
真相がどうであれ、少なくともこのスキルが自分にとって有益なのは事実なのだからまぁ、よしとしよう。
思考を閉じる。
そして演奏という名の海へ落ちて行った。
教室の中が完全に暗闇に落ちる頃、ようやく思索の中から意識が戻ってくる。時計を確認してみれば、すでに下校時刻を大幅にすぎている。
道理でこんなに暗いわけだ。
一度演奏に集中し始めると時間を忘れてしまうのはいつものこと。それでも今日はほんとに集中していたようで、いつもよりもずいぶんと遅くなってしまった。
「早いとこ帰らないとなぁ……」
水野家において夕食の支度は自分の仕事だ。毎日朝から仕事に行っている母親に朝食はともかく夕食まで作ってもらっているのは気がひけた。
それでなくても小さい頃から苦労をかけているのだからと、中学の途中から自ら志願したのだ。
まぁ、最初のころは燦々たるものではあったが、今では腕もプロ級だ。……、今のは言いすぎだけど、それでもうまくなったのは事実なのだ。
俺、頑張った。
よくわからない感慨にふけっていたせいか、扉の外に近付いていた人の気配にまったく気づいていなかった。
その時との俺はと言えば今まさに扉を開けようとしていたわけで、そしてどうやら外にいた人も同じタイミングで扉を開けようとしていた。
異常に勢いよく開く扉。
「「あれ?」」
重なる声。
「香介君!?」
妙に聞きなれた声。
「何でこんなところに香介君がいるの!?」
そこには一人の女の子が立っていた。
2日連続で更新。快挙だ…
最初はそうでしたが、今は無理です…
情けない作者ですみません><