第6話
〜第6話〜
いつもと代わり映えのしない授業。黒板に書かれている文字を追い、それをノートに書き写す。飽きた……。
窓から入ってくる心地よい風に目を瞑り、時間をやりすごす。はずだったのだが、
「寝ちゃだめですよ?」
昨日までは誰もいなかった隣の席から聞こえてくる注意。ちらりとそちらに目を向けると少し非難を含んだ目とぶつかる。
勘弁してくれ。午前中だけでもう4回目だ。授業は俺の貴重な睡眠時間であり、それを妨げてほしくはないのだが、肝心の転校生はといえば。
「ちゃんとノートとってくださいね」
なぜか半日も経たないうちに、俺のお目付け役となってしまわれたようである。おかげでまともな睡眠がまったくとれない。
やれやれ、誰か席を替わってくれ。今なら喜んでこの特等席を譲ってやるよ。もっとも寝れる場所以外は嫌だがな。
昼休み。どんな生徒でも楽しみなこの時間、俺はといえば中庭の一角に陣取って昼飯を食べていた。
例の転校生のせいでまったく眠れなかったせいで頭が重い。午後の授業はサボるのもいいかもしれない。
また隣からの冷たい視線に晒されながら授業を受ける自信はないし、何より今日は天気がいい。多少の暑さはあるが今いるこの場所は大きめの木のおかげで日陰になっていて昼寝にはちょうどいいだろう。
しばし目を瞑ってみる。そよそよ吹くと風が眠気を煽っている。ああ、やっぱり午後の授業はさぼりだな〜。
「隣いいですか?」
昼飯も食べ終わり、本格的に昼寝に入ろうと目を閉じたのだが、思わぬ声に一時中断を余儀なくされる。
「お邪魔でしたか?」
お邪魔ですと言ってみようかとも思ったが、そこはぐっと我慢。目の前に立っていたのは誰であろう、俺の睡眠を妨害した張本人ではないか。
「あの、聞いてますか?」
もちろん聞こえてはいるのだが、いかんせん今の今まで寝ようとしていたのだ。うまく頭が働かない。
というか何しに来たんだこいつは?
「別にいいけど……」
「そうですか♪」
言うが早いかあっという間に隣に座ってくる。早いなおい、まだ言葉の途中なんだが。
「いい場所ですね」
そりゃそうだ。俺が一年かけて見つけた場所だからな。入学してからまず取り掛かったのが、校内にお気に入りの場所を見つけること。
やっぱりそういう場所を確保しとくのは重要だと思うんだよ。まさかそれを見つけたのが入学してからまる一年経ちかけた3月になるとは思わなかったけど……。
「そうなんですか」
そうなんだよ。
「………」
なぜ黙る?俺に何か用があったから来たのではないのか?午前の授業態度に対する説教だったらいらないぞ。始まった瞬間に即逃げる。
「なぁ、一体俺になんの用なんだ?」
「用がないと一緒にお昼を食べちゃいけないんですか?」
質問を質問で返すなよ。それからそういう台詞は彼氏にでも言ってやってくれ。誤解を招くぞ?
「彼氏なんていないですよ?」
もういい。今確信したが、この転校生は少し普通じゃないようだ。間違いないよな?
「質問を変える。何で俺と弁当を食べるんだ?」
予期せぬ質問だったのか、指をあごに当てて考え込む転校生。まさか理由もなしに来たのか?だとしたら頭のねじが2.3本飛んでると認定してやろう。
「強いて言うならなんとなくです♪」
OK,もうこの話はやめにしよう。この子に何を言っても暖簾に腕押し、まったくもって意味がないような気がする。
当人はといえば、いつの間にか広げた弁当を小さな口でぱくつき始めている。小さいお弁当だな。
これで午後の授業中もつのかね?
「あげませんよ?」
何でそうなる?
「獲物を狙うライオンみたいな目をしてました」
どんな目だそれは。ぜひとも見てみたいから鏡を貸してくれ。
「あいにく鏡は教室においてきてるんです」
そうかい。もういいから静かに弁当を食べててくれ。俺は寝ることにするから。先ほどと同じく目を閉じる。
吹く風も、周りのざわめきも、気温も同じ。唯一違うのは、隣で転校生が弁当を食べていることだった、
ずいぶん間が空きましたが、6話更新です。
空けたわりには、たいして長くないな…