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第34話

〜第34話〜


 神崎と別れ、ビルから出るころにはもう太陽の半分が沈んでいるところだった。夕日に照らされ朱にそまる道を歩きながら、これからのことを考える。言葉には出さなかったが、すでに相手には俺と奈菜が恋人出ないということはばれてしまった。なんというか、一番の切り札を一気に無効化されてしまったわけである。


「とりあえず、おじさんと連絡をとるか」


神崎との対面がよくない方向で終ってしまった以上、それを奈菜の父親に報告しないわけにはいかない。それにこれからの新たな対策も練らねばならない。ポケットの中の携帯を取り出し電源を入れる。電源は会社の中に入る前に電源は落としておいたのだ。いかなる状況であれ、最低限のマナーは守るべきだ。もちろん例外はあるが、少なくとも自分から会いに来ておいて、その相手の前で形態を鳴らすなんてことはしたくはない。それによって相手からの評価を落としたくないという計算ももちろんあったのだが、それはそれだ。


「ん?」


電源を入れ、とりあえずメールが来ていなかったか問い合わせをしてみたのだが、


―新着メール32件


「こんなにメールがたまってるのは初めて見たな……」


どこぞのストーカーにでも目をつけられたのかとメールボックスを開く。メールの差出人は全部同じ名前だった。無視しておこうかとも思ったが、なんとなく後が怖いので仕方がないので電話帳からそいつの番号を呼び出しコールする。するとコール音が一回も鳴り終わらないうちに、


『今どこにいるんですか〜!!』


こちは人の鼓膜を突き破りたいのだろうか?耳元から30センチ以上離したというのに、スピーカーからは依然すさまじい大音量の声が響いている。


「少しボリュームを落としてくれ。会話にならないから」


『何を言ってるんですか!?急にいなくなって何を考えてるんです!!』


「俺にもいろいろやることがあるんだよ」


『だったら一言くらい言ってからいなくなってください!!フォローを入れる私の身にもなってっくださいよ!!』


大量のメールを送りつけてもなお、連絡を寄こさなかったことにだいぶご立腹の様子な電話の主、もとい百合は勢いそのままにさらにまくし立てる。


「わかったから少し落ち着けって」


『これが落ち着いていられますか!!今どこにいるんです!?』


「少なくとも学校にいないことは確かだ」


今いるのは神崎コーポレーションから少し離れた高層ビル群。学校から電車で2駅ほど離れたところだったりする。


『それなら昨日のお店にすぐに来てください!いいですか、30分以内ですからね!!』


そう言うと百合は電話を切ってしまったらしい。スピーカーからはツーツーツーツーという電子音しか聞こえなくなっていた。というか30分以内はないだろう。ここからだとどんなに早く戻れたとしても1時間はかかる。

それよりも気になるのは集合場所が昨日百合になぜかポテトをおごらされた店だということだ。またおごらせるつもりではあるまいな。


「仕方ないか」


ともあれ駅に向けて足を進めることにする。おじさんへの報告は後に回すことにした。昔から怒った女ほど怖いものはないっていうからな。




 結局、俺が店に着いたのはそれから2時間たってからだった。駅に着いたはいいが、電車は出発したばかり。その上、信号トラブルだかなんだかでさらに遅延したときた。ゆえにこの遅れはおれのせいでは断じてないのだが、目の前の人物はそうは思っていないらしい。その証拠にいつもの笑顔がどことなく引きつっている。


「それで、水野さんは一体どこに行ってたんですかね?私に一言も言わずに午後の情行をエスケープした上に、30分で来てくださいって言ったのに2時間も遅れるなんて」


「別に俺がどこかに行くのに百合に報告の義務はないだろう?それにさっきも言ったが、遅れたのは電車のトラブルのせいだ」


「そんなの関係ないです!!とにかく水野さんが勝手にどっかいっちゃったせいで、私大変だったんですから!!」


はて、俺が消えて百合が困る?俺が授業をさぼるなんてのは行っちゃ悪いが日常茶飯事だ。それこそ教師の方もすでに黙認しているほどである。教師ですらそうなのだから、周りの生徒が何かをいうはずもない。では百合は何がそんなに困ったのか?


「水野さんが放課後に練習に来なかったせいで奈菜さん、すごく落ち込んでたんですから!!」


なんでも俺が練習に来なかったのは、自分がここ数日まともに練習に集中できていなかったからだと奈菜は思ったらしい。自分が誘ったにも関わらず自分の都合で俺と百合に迷惑をかけたと、余計に思考を悪い方向に持って行ってしまった奈菜。それをなんとかフォローしようと百合は一人で孤軍奮闘したというわけだ。


「水野さんは用事があって私に伝えていたのをすっかり忘れていたということで納得してもらったおは思いますが、おかげで私、この年で健忘症の疑いです!!」


が〜、とか叫んでいる百合は放っておくにしても確かにこれは俺の落ち度だ。奈菜のために動いたはずが、結局は奈菜にさらなる追い打ちをかける形になってしまった。これでは本末転倒もいいところだ。


「予定変更だな」


「何が予定変更なんですか!!というか私の話ちゃんと聞いてるんですか!?」


俺の態度にさらにヒートアップする百合だが、早いところ奈菜の父親に連絡を取らなくてはならない。ただでさえ電車の関係で時間をだいぶロスしてしまったのだ。これ以上遅くなっては今日中に話をできなくなる可能性もある。

まだ若干中身の残っているコーヒーのカップをゴミ箱に捨て、店の外へと出る。そして携帯をとりだし先ほどかけ損ねた奈菜の父親の番号を呼び出す。


「待ってください水野さん!!さっきからなんなんですか!!」


「いいから黙っていついてこい。今は詳しく説明してる時間が惜しい」


まだ何かを言いたそうだったが、それで百合はしぶしぶといった様子だが静かになった。それを確認した俺は呼び出した番号をダイヤルするのだった。

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