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第29話

〜第29話〜



 ファーストフード店のポテトというのは、実は店の売り上げの大部分をたたき出しているらしい。もちろん他の商品も原価より高めに売ってはいるが、ポテトのそれとは比較にならないというのをどこかで聞いたことがある。それでもついつい頼んでしまうのは、ひとえに店側の商売のうまさなのか、それとも純粋にポテトがおいしのか、暇つぶしに議論してみる価値はあるのではないかと思う今日この頃。


「暇があればの話なんですけどね〜」


「人に無理やりポテトをおごらせてるやつのセリフじゃないよな」


「人生気にしたら負けってよく言いますよね〜」


言うが早いかなぜか俺のポテトにまで手を伸ばしてくる百合。阻止しようと試みてもみたが、右から左からの攻撃、というかあまりのしつこさにすでに諦めた。

そんなに好きかポテト……


「でもどうするんですか?」


「どうすると言われてもな、正直さっぱり思いつかないんだが……」


「デリケートな問題ですからね、失敗は許されませんし」


人の不安をより一層あおってくるな。なんのために相談しているのかわからんだろうが。


「とりあえずお見合い相手の情報などはないんですか?」


「ああ、それなら奈菜の父親から聞いてある」


かばんの中から大きめの封筒を取り出す。ただ聞くだけじゃあれだからと、紙面にまとめたものだ。こんなものを用意してあるあたり、いったいあの人はどんだけ用意周到なのかと考えてしまうのだが、それは言わぬが花というものだろう。

まったく、これだけの準備をするくらいなら最初から断ってしまえばいいものを……


今回奈菜のお見合いの相手になるのは、どうにも奈菜の父親の会社の一番の取引相手の社長の息子らしい。いわゆるボンボンというやつで、資料のひとつである顔写真からもその様子がうかがえる。しっかりと櫛を入れ、整えられた髪にいかにも真面目そうな表情。ファインダーを見ていたのであろうその眼からは、写真越しだというのに大いなる自身が感じられる。

もちろんプロフィールもたいしたもので、中学、高校、大学と学歴を見てもいずれもどこかで聞いたことのあるような名前のものばかり。現在は父親の下で働いているらしいが、社内での評判も非常によく、時期社長就任に大きな期待がよせられているとかいないとか。


「何と言いますか、水野さんの勝ち目ゼロじゃないですか?」


「そんなもん、自分が一番よくわかってる」


「でもこれを見る限り、今回のミッションは相当に難易度が高そうですね〜」


まったくその通りだ。お見合いをつぶすなんて簡単に言うが、こんなプロフィールの持ち主と一般ピープルである俺がどう戦えというのか?


「ただつぶしただけでは奈菜さんのお父様に責任がなすりつけられそうですし」


はっきりいって、そこが一番の問題なのだ。潰すだけでいいなら話は早いのだ。お見合いの席で相手が奈菜に見向きもしなくなるように仕向けるだけでいい。最悪その方向にいく可能性は大いに高いのだが、――実際、奈菜の父親にも最悪そうしてくれと言われている――、だがそれでは、お見合い失敗の責任は百合の言う通り奈菜の父親に回ってくるだろう。大人の世界なんてそんなもんだ。


「大前提としてはお見合いを潰すことですが、相手に納得してもらえる形にもっていくというのが理想ですね」


「その理想が異常に高いな……」


「ほら、ハードルが高いほどそれを乗り越えたときの達成感も大きいと言いますし♪」


「ことごとく人ごとだよな……」


本当に無理難題を引き受けちまったもんだ。ただでさえ創立祭のことで手いっぱいだというのに。


「今日のところはもういい時間ですし、解散しませんか?」


「お前ポテト食べただけじゃないか?」


「それはそれということで♪」


結局何もいいアイデアもでずに対策会議はお開きとなるのだった。今日の出費、英世が一枚……。




 薄暗い公園通りを一人歩く。もとから人通りが少ないのか、それともこの時間帯には出歩かないのか、とにかく通りに私以外は誰もいない。最近引っ越してきたばかりではあるが、このあたり一帯の地理はすでに頭に叩き込んである。


「さみしい場所ですね……」


日が落ちた後の風は冷たくもともと白い肌がさらに白く見える。その風に髪がなびく。


「水野さん悩んでましたね〜」


それはもうこの世の終わりとばかりに悩んでいた。まぁ、普通あんなことを頼まれてああならないほうが珍しいだろう。それでも私は心配することはない。


「水野さんが望むのであれば、叶わないことはないのですから……」


通りを歩くその後姿には、なぜか寂しさのようなものを感じられた。



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