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第28話

〜第28話〜





 昨日までの天気はどこへやら、俺の心象模様をあらわすかのように空には薄い雲が目立ち始めてきていた。

天気予報によれば今日のうちに雨が降るようなことはなさそうだが、高度の低いところにあるその雲とあたりの薄暗さをみていると、その予報もなんだか疑わしくなってくるというものだ。


「ははぁ、水野さんもたいへんですねぇ」


「思いっきり人事だな……」


「そりゃあ、ひと事ですから♪」


その小さい弁当箱の中からウインナーをひとつとって口の中に放り込む百合。今日も今日とてどういうわけか俺は百合と一緒に昼食をとっている。

というかただ単に百合が昼飯とともに俺を引っ張ってきたというのが真相なのだが、言っても無駄のようなので何も言わないでおく。


「でもお見合いをつぶすっていうのは、簡単に言いますけど相当難しいのでは?」


「そんなのわかってるから気が重いんだろう……」


正直関係のない奴に話すべきではないと思ったが、百合と奈菜はどうにもうまが合うらしく、まだ知り合って間もないが仲はかなりいい。

それに同じバンドのメンバーでもある。何よりおれ自身が誰かに話さなければやってられなかったというのが一番の要因化もしれない。


なんとなく百合は信用できるようなきもした。根拠は何もないけど。


「まぁまぁ、私もできる限りの協力はしますから、そう重い空気を押し出さないでくださいよ」


「無茶言うな……。下手すりゃ俺の行動で奈菜の人生が決まるかもしれないんだぞ?お気楽ムードなんかできるかよ」


「確かにそんなムード出してたら問題ありですね〜」


「やっぱり人事だな……」


片や弁当を美味しそうに咀嚼する女生徒と、片や異常に重い空気に包まれた男子生徒。そんな奇妙な組み合わせの昼食はあっという間に過ぎていくのだった。





 放課後はいつものように創立祭に向けての練習。創立祭は土曜、日曜の二日間行われ、一日目は関係者のみの公開で二日目が一般の人への公開日だ。

俺たちの演奏するのは2日目の夕方、後夜祭での発表となっている。後夜祭といえば一番の盛り上がりを見せる場でもあり、そんな中での演奏となれば失敗は許されないのだが、


「これはまずいですね……」


百合がそう漏らすのも無理はないというものだろう。3人のうちの2人が練習に集中できていないのだ。

俺はもとからあまり合っていなかったが、土曜日まではばっちりだった奈菜までもが調子が悪いときている。

その理由は言わずもがななのだが、


「なんとかしてください水野さん」


「そこで俺にふるのかよ」


「当然です。ここで奈菜さんにふったら、私空気読めてない子じゃないですか」


だからと言って俺にふるのもどうかと思うが、確かに今の奈菜の様子はよろしくない。一応ギターは持っているが、視線は定まらずどこか遠くを見ているようで、最初のほうこそ声をかければ返事をしていたが、今では返事のひとつも返ってこない。そればかりか奈菜の一番の特徴ともいえる笑顔がないのだ。


「やっぱり原因はあれですよね」


「それ以外にも何かあるなら、俺にはもうお手上げだぞ」


「ん〜、これは非常に困りましたね〜」


奈菜にとっては自分の人生の分岐点に立っているのだ。しかも強制的に。そんな状態で集中しろというほうが酷なのだが、だからと言って練習をしにわけにもいかない。


「奈菜、大丈夫か?」


「………」


「奈菜?」


「え……?あ、何?」


どこかに飛んでいた意識がようやく戻ってきたらしい。自分が今何をしているのかを確認するかのようにしきりにあたりを見回している。


これはもう無理だな……


百合に視線を飛ばすと小さな頷きが返ってくる。どうやら理解してくれたらしい。


「今日は練習は終わりにするぞ」


「え?だめだよそんなの!本番まで時間ないのに!!」


そんなものはわかっているが、この状況で練習をすることはなんの意味もない。だがそれをそのまま伝えるのは駄目だ。


「昨日のことでな、なんだか今日は集中できなさそうなんだ。二人には悪いと思うんだけどさ」


「あ……」


我ながらいい言い訳だと思う。奈菜ほどではないにしても俺だって不安はあるのだ。何か言いたそうにしていた奈菜だったが、結局は何も言わずに練習を終わることに同意してくれた。


その日の練習は早めのお開きとなった。

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