第26話
〜第26話〜
最近のホテルには、最上階に近いフロアに展望を兼ねた喫茶店やレストランをつくるところが多い。
俺自身テレビなんかでそういうのを見たことはあるし、一度は行ってみたいと思っていたが、まさかこんなに早く、しかもこんなシチュエーションで来ることになろうとは……
「つまりこういうことか奈菜。今お前は水野君と付き合っているから、今回のお見合いはやめてくれと」
「さっきから何度もそう言ってるでしょ。そろそろわかってよ」
「うぅむ……」
あれからほどなくして奈菜の父親はすぐにあらわれた。どんな人かといろいろと想像していたが、なんというかいかにもお父さんといった人だ。
男の一人暮らしだからか、着ているスーツは少しくだびれているし、Yシャツもどこかよれよれしい。
だがその顔はどこか優しげで、第一印象としては好印象を持てる人だった。
「だがなぁ……、先方は結構乗り気でな?」
「私は乗り気じゃないの!」
「しかしなぁ……」
先ほどから二人のやり取りは堂々巡りで、俺はと言えば、最初自己紹介をした時以来ずっと蚊帳の外だ。
なんか着た意味がない気がしなくもないが、それは考えないでおこう。
しかし、どうやら奈菜から聞いていた事情とは少し何かが違うようだ。
奈菜から聞いた印象では、父親が無理やりといった感じだったが、どうやら当の地と親のほうもあまり乗り気ではない気がする。
しきりに相手方を引き合いに出すことからみても、おそらくは誰かから無理やり持ちかけられたお見合いなのではないだろうか?
やむにやまれず了承したといったところか。いやはや、大人の世界も大変だなぁ……。
「お父さんは私が嫌がってることして楽しいの!?」
「そういうわけじゃないんだが……」
「じゃあどういうわけなの!!」
それからもうひとつ気づいたこと。奈菜は普段は温厚というか無邪気な性格であり、誰とでもすぐ打ち解けられるような性格であり、実際俺自身ずっとそういう印象しかもってなかったわけだが、
「私は絶対いやなの!!」
どうやら父親に対してはだいぶ態度が違うらしい。もちろん感情が高ぶってるということもあるだろうが、それにしても態度がきつい。
なんだか奈菜の父親が小さく見えるのは気のせいじゃないんだろうなぁ。
「水野君だったかな?」
「へ?あ、はい」
いきなり話を振られたものだから、思わず間抜けな声が出てしまう。
「少し二人で話がしたいんだが」
「ふ、二人でですか!?」
「ちょっと、お父さん!?」
待った待ったまった!!そんなことにでもなってみろ、一発で俺と奈菜が付き合ってるのが嘘だってばれちまうぞ!?
「何で私がいたらだめなの!?私のことでしょ!!」
「少しだけ水野君と話がしてみたいんだ」
短くもはっきりした口調。奈菜にしてみてもそれが意外だったのか、言葉に詰まる。
どうやら覚悟しなきゃだめみたいだな……。やれやれ、なんだって一番無関係な俺がこんな苦労しなきゃいけないんだか。
そうも思ってみるけども引き受けたのはあくまで自分であり、この状況になっているのも全部とは言わないが、半分以上は俺の責任でもある。
「わかりました。少しでいいのなら」
「こ、香介君!?」
「大丈夫だ、心配ない」
いろんな意味を込めての心配ないという言葉。言った本人は心配だらけだけどな……
「それじゃぁ奈菜、少し席をはずしてくれ」
納得できないといった表情ではあったが、しぶしぶと、本当にしぶしぶと席を立った。
「本当に少しだからね!ずぐ戻ってくるからね!!」
しっかりとそう言い放って店から出ていくあたり、さすがといったところか。なんにしても二人きりになってしまったわけで、もう後戻りはできない。
さて、どうやってごまかすか……
奈菜の父親を目の前に、脳内で会議が開かれるのだった。