第23話
〜23話〜
果てさて、そんなこんなで俺は今駅前に向けて歩いているところだ。
理由はもちろん奈菜からの呼び出し。昨日の帰り道での光景がまだ頭にこびりついて離れない。
期待していいのか?
そもそも俺も奈菜も健全な高校生であり、休日に男女二人で出かけることの意味くらい知っているつもりだ。
いわゆるデート。
そのことを考えてたおかげで昨夜の睡眠はまったくよろしくなかった。おかげで出掛けに鏡の前でクマと一戦交えることになってしまったのだ。
もちろん敗北したのは言うまでもない。
駅前までは自転車で大体10分弱くらい。9時に集合と言われたので、とりあえず15分前くらいにはつくようにしてみた。
やっぱりこういうときに女の人よりも遅く来るのはよくないと思うんだよな。もっともこれ以上早くするのは、俺の起床時間を考えると不可能。
これで奈菜よりも後だったらどうしような。まぁ、15分前だし誘ってきたのはあっちなんだから俺が責められる理由はないのだが。
あれやこれやと脳内で思考をループさせていると、駅に付属している自転車の駐輪場が見えてきた。
ぶっちゃけその辺に止めといてもいいんだが、以前それで回収されて余計な出費を余儀なくされたことからなるべく駐輪場にとめることにしていた。
そういうわけで今日もしっかり100円を支払いそこにとめることにする。えらいぞ俺。
高鳴る鼓動を少しだけ意識しつつ待ち合わせ場所に歩を進める。そこまで大きな駅でもないので人を探すのにそれほど苦労する心配はない。
もし先に来ていたとしても簡単にみつかるだろう。案の定すぐに見つかった。改札の傍の大きな木。
その目に付きやすさからたびたび待ち合わせに使われる。地元の住人にとってはなじみの場所になっていると言ってもいい。
そして奈菜も例に漏れずにそこにいた。いたのだが、
なんか囲まれてる?
奈菜の周りには、なんだか絵に描いたような明らかなナンパ野郎が1,2,3人。休日の朝から暇な奴らもいたものだ。
さて、ここでの俺の行動はどうするべきだろう。
1.かっこよく助けに
2.とりあえず傍観
3.救援を呼ぶ
4.テレパシーを送ってみる。
自分で出した選択肢だけど4番の意味がわからない。というか送ったところでどうしようというのか。どうやら朝の糖分摂取が不十分のようだ。
後でチョコでも買って食べたほうがいいかもしれない。
俺が一人で脳内漫才をしているうちにも、あちらはあちらでお話が進んでいるようだ。見れば男の一人が奈菜の腕を掴んでいる。
というかどこまでベタなんだお前達は。見た目もならやることまでベタとは始末におえん。
仕方ないな。
「悪い奈菜。少し遅れたみたいだな」
あくまでもわざとらしく、それでいてさりげなくが俺のモットーだ。
「遅いよ……」
少し拗ねたような声だが、明らかに顔が安堵している。もう少し早く助けるべきだった、というかもう少し早く家を出るべきだと反省するには、十分な表情。
「悪かった。とりあえず行こう」
「うん」
奈菜の手をさりげなくとり、その場から離れようとする。誰か忘れてるって?気のせいだろう。
「ちょっと、待てよ」
ほらみろ、気づかれちまったじゃないか。
「その子は俺達と遊ぶんだよ、後から来た奴は引っ込んでろ!!」
一人の男の声に他の二人が同調するように声をあげる。うっとしいことこの上ない。この状況で幸いなことといえば、俺の影に隠れるようにして様子を伺う奈菜が可愛いってことくらいじゃないか?役得だな。
「わかったらささっと消えろよ」
リーダー格らしい男が俺の腕を掴もうとする。次の瞬間には、男の体はきれいな放物線を描きアスファルトに叩きつけられていた。
「てめっ、なにしやg…!?」
「知ってるか?しつこい男は嫌われるんだぞ?」
最後までしゃべらすことはしない。うるさいからな。警察にでもこられたらやっかいだ。
「警告だ。これ以上関わるな」
ちょうど奈菜に顔が見えないように男の顔を睨みつける。直後、男の顔から血の気が引いたようにも見えたが気のせいだろう。
「さて、行きますか」
「え!?あ。うん」
今の光景に呆気にとられている奈菜を再度促し、ようやくその場から離れることに成功。
まったく、初っ端からとんだハプニングだよ。