第22話
〜第22話〜
時間というのは薄情なものである。欲しいと思えばあっという間になくなってしまうくせに、早く過ぎて欲しいときに限ってやたらと長く感じるのだから。
何でもその原因はひとつのことに集中しているかいないかの差だそうだが、そんな理屈よりももっと時間をくれというのが俺の切実な願いだ。
「今日の練習はここまでにしようか」
音楽室に奈菜の声が響く。今日は土曜日ということで朝から集まって練習していたのだが、気がつけばもう夕方である。
「今日は今までで一番いいできだったよ♪」
「そうですね〜、これなら間に合うと思います」
そりゃ二人はそうだろうさ。最初からパーフェクトに近い演奏をしてたわけで、あわせるのもそれほど苦ではなかったみたいだしな。
それに引き換え俺はといえば、新たな曲を演奏することに手こずり、さらには合わせることが全然できず、3人での練習に加えて七倉との練習と倍の練習をしてかろうじでついていってるくらいだ。
実際ついていけてるかどうかは定かではないのが悲しい……
「ほら、香介君も早く片付けて〜」
「ああ」
なんとなく気の抜けた声。疲れたんだよ。最近ずっと来週の創立祭のことばっか考えてるからな〜。
しかも頭に浮かぶのは本番で失敗するというネガティブな展開だし、やたらと詳しい情景まで思い描くことが出来る。
泣いてる奈菜の顔だとかな……。これが現実になったらと思うと最悪極まりないわけなのだが、あいにく今の俺にそうならないと断言できる自信などまったくないのがさらに困ったところである。
「大丈夫ですか?」
ほら見ろ、そんなことばっか考えてるから百合に心配されてるじゃないか。ここは俺の最高のスマイルで、
「もちろん大丈夫だ」
「すんごい嘘っぽいんだけど……」
おい奈菜、一刀両断でぶった切るなよ。俺の渾身の笑顔を返せ。
「さ、帰ろう♪」
軽く睨んでみたが、そんなものはどこ吹く風邪といった感じだ。まぁ、そうだろうさ。別に俺も本気で気に障ったわけじゃないからいいけどさ。
少しくらいなんか反応してくれよ。
すでに日がほとんど沈みかけている道を3人で下校する。他の部活もちょうど終わった時間らしく下校する生徒はそこそこに多い。
そんな生徒からの視線(主に運動部の男子)が相変わらず殺意に満ちているのは今回もスルーだ。
理由が簡単にわかるからな、下手に反応して余計な面倒を起こしたくはない。
「じゃあ、私はここで失礼しますね」
「うん、またね〜♪」
「じゃあな」
帰る方向こそ一緒だが、百合とはあまり家が近いわけではないので早めに分かれることになる。送っていこうかと言ったこともあるのだが、やんわりと断られてしまったのは記憶に新しい。
違うとは思うが信用されてないのなら悲しいことこの上ないな。
「ねぇ、香介君……」
どうした?なんだか声のトーンが心なしか落ちているがどうかしたのか?
「あの……」
何かを言おうとしているようだがうまく言えない、そんな感じなのか口を開けては閉じの繰り返し。
そんな様子を見て、えさを待つ鯉みたいだと思ったなんてことはないぞ。面白くてついつい眺めていたなんてことはもっとない。
「何で笑ってるの〜」
いかん、顔に出ていたようだ。あわてて顔を引き締める。
「結局何が言いたいんだお前は?」
「だから、その……」
なぜか顔を背ける。なんか可愛いじゃないか。ちょっと待て?なんだこのこそばゆい感覚は!?まさかこれはすんごいフラグが来てるんじゃないか?
な〜んてね、そんなわけあるはずがない。まさか奈菜に限ってそんなことは、
「明日一日私に付き合って!!」
あったよ。
「明日か?」
「何か予定とかあったかな?」
「いや、練習をしなければとは思うがそれ以外は…」
「じゃあ明日の朝、駅前に9時に来てね!!」
言うが早いか脱兎のごとく走り去る奈菜。俺まだ返事してないんだけど。
しかしこれはどういうことなんだ?男女で休みにお出かけ、つまるところデート?よし、夢だ、これは夢だぞ。
いや、現実を見ようじゃないか。奈菜はただ付き合ってといっただけでデートとは一言も言ってないじゃないか。
下手な推測はやめよう。明日になればきっと全部わかるさ。
こうして俺の空白の予定表に奈菜とお出かけという予定が刻まれたわけだ。やれやれ、どうなってしまうんだろうね?
久しぶりにあとがきを書いてみようと思います。
連載を再開してからというもの、読者さんが増えているようで大変嬉しく思ったりしています。
その分多少のプレッシャーは感じますが、やはり読んでもらえるのは嬉しいですね♪
自然と気合も入ります。
さて、ここで少しお願いなのですが、もし読んで下ってお時間がありましたら短くてよいので評価のほどをつけて頂けたらと思います。
やはり客観的意見も取り入れて、よりより作品にしたいと思いますので、何卒よろしくお願いします。