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第21話

〜21話〜





 果てさて現在俺はコンビにいる。ちなみに時刻は午後の9時。

手にはお弁当と飲み物。ここまで書けば察しのいい人は気づくだろうな。つまるところ夕食を買いに来たわけだ。

なんのことはない。ただ今夜は母さんが夜勤ということで作るのがめんどくさかったいうわけだ。家に帰るのも遅かったしな。


「ありがとうございました。またお越しください」


店員のマニュアル通りのせりふを背に店を出る。


――寒い


昼の暑さはどこへやら、日が沈むと同時に下降線を描いた気温は、長袖のシャツ一枚で家を出た俺に容赦ない攻撃をしてくれている。

まったく、少しは気を使って欲しいものだ。


 ぽてぽてと家に帰りながらも考えるのはやはりバンド活動のことばかり。

七倉に練習に付き合ってもらった成果なのかどうかは知らんが、少なくとも昨日よりかはようくなったのは事実だ。

もっとも完成には程遠く、このままでは恥をかくだけなのは言わずもがなだ。

盛大にはいた溜息は誰にも聞かれずに夜の闇に消えていく、はずだったのだが、


「大きなため息だね〜。お爺ちゃんみたいだよ?」


振り向いた先にいたのは奈菜だった。


「こんばんは♪」


どうやら奈菜も買い物をしていたらしく、手には俺が行ったコンビニとは違う袋を持っている。入っているのはアイスみたいだな。


「どうしたんだ、こんな時間に?」

「少し気分転換もかねた散歩かな?」


こんな時間に女の子一人で散歩とはいかがなものなんだろうな?あまりお勧めできたものではないと思うのだが。


「それもそうだね〜。でも今は香介君がいるし問題ないよね♪」


違う意味で大問題です。特に俺が。もちろんそんなことは言うはずもない。変態扱いされるのはごめんだ。


「あ〜、いやらしい顔してる。もしかしたら一人より危ないかも」


くすくす笑うその顔に一瞬見惚れてしまった俺を誰が攻められよう。

実際、奈菜の人気は高いのだ。その人当たりのよさから、大半の人間に好かれる。学校で見る奈菜の周りにはいつも誰か友達がいるのがその証拠だろう。

俺とはえらい違いだな。


「さ、早く帰ろう?」


アイス溶けちゃうよ、なんて冗談を言いながら歩き出す。というかこれって送って行く事は決定事項なのか?

そりゃここで一人で帰れなんて言うつもりはないのだが。俺としてもまだ夕飯を食べていないので早く帰りたい。


「夜道を歩くのってなんかいいよね?なんでもないのに気持ちが高揚としてくるの」


我慢しようじゃないか。俺も思春期真っ盛りの健全な高校生だ。このシチュエーションが嬉しくないわけない。

それに今の言葉で気づいたが、少なからず俺の気分も高揚としているようでもある。


「寒くないか?」

「寒かったらアイス買いに行こうなんて思わないよ」


確かにな。まぁ、俺だったらたとえ食べたくてもかったるくて買いに来ようとも思わない可能性が高いのだが。


「好きなもののためには頑張れるんだよ、バンド活動みたいにね」


その一言は俺の何かに引っかかるものがあった。もやもやとした何か。

その引っかかりを必死に手繰り寄せようと試みてみるが、もちろんうまくいかない。大体こういう時っていうのはうまくいかないもんだよな。

それがお約束みたいなもんだよ。


「奈菜は本当に音楽が好きなんだな」

「そうだね。きっと好きなんだろうね」


きっととははっきりしない台詞だな。てっきり、大好き、とかいうものだと思ったんだがな。


「もちろん好きだよ、大好き」


じゃあ何でそんな微妙な反応?


「どうしてだろう?私もよくわかんないや」


わかんないという割にはすごい笑顔だな、おい。でもなその顔を見て思ったのは、あ〜、やっぱり奈菜は音楽が大好きなんだということだ。

その笑顔がそれを十分物語ってるさ。じゃあ、俺はどうだ?果たして俺は本当に音楽が好きなのか?


「送ってくれてありがと」

「ん?」


見ればすでに奈菜の家に到着しているではないか、いつの間に。


「じゃ、おやすみなさい♪」

「ああ、おやすみ……」


もしかして俺、考えすぎて奈菜の話をシカトしたりしてないだろうな?もしそうなら最悪だぞ?


「あ、それからね」

「どうした?」


次の言葉は正直、今日一番俺の胸を突いた言葉だったと思う。


「笑顔、笑顔♪笑って一日を終わろうね♪」


家に入っていく奈菜の背中。あんなに大きく見えるのはなんでだろうな?そんなもんはわかっているさ。

俺がガキで奈菜が大人、いや、そこまではいってなくても俺の何歩も先を行っているから。


星がきれいだな……

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