第20話
〜第20話〜
――ザ〜
春先の風に髪がなびく。少し伸びてきたな……
顔にかかる髪を耳にかけながらため息をひとつ。
あ〜あ、うまくいかね〜や。
昼休みの喧騒に巻き込まれたくなかった俺は、先日、瑠璃から教えてもらったあの場所に来ていた。
もちろん人は誰もおらず、考え事をするにはもってこいの環境だ。
風が心地よい。いっそのこと、このまま何もかも忘れてこのまま眠ってしまいたい。
まぁ、そうも言ってられないのが現状なわけだが、この時ばかりはそう思いたかった。
これも今まで一人やってきたつけなのかね。きっかけすらつかめやしない。
練習開始からまだ2日といえばそれまでの話なのだが、周りが出来て自分が出来ないとなると気分的に憂鬱になってくるってもんだ。
目を閉じて曲を頭の中に思い描く。リズム・強弱・音階、すべてに気をつけ脳内で組み立てる。
また風が髪を揺らす。ええい、くすぐったい。自分の髪と戯れて何をやってるんだろうね俺は。
おまけに桜まで飛んできやがった。だからくすぐったいと言っているんだ!
結局、集中することも出来ない俺が睡魔によって撃沈されるのにそう時間はかからなかった。
――〜♪〜♪〜
どこかで音楽が鳴っている。あ〜、この曲って俺の好きな曲だよな〜。
――〜♪〜♪〜
結構近くか?というかなんか違和感が……
――〜♪〜♪〜
振動も一緒にする……。ってことは、
「もしもし」
『やっと出た〜!!もう!今どこにいるの〜!!』
寝起きの頭に響きわたるは奈菜の声。声がでかいぞ。
『ふ〜ん、そういうこと言うんだ。今、何時なのかな?』
嫌な予感はしたんだよ。そんなことを言われる時点で、俺が思ってる時間じゃないのは明白なわけだからな。
自分の時計に目を落とし確認してみる。
「17時45分?」
『疑問系じゃなくてそうなの!!いいから早く音楽室に来て〜!!』
わかったからそんなに怒鳴るな。耳が壊れる。
電話を切り、大きく伸びをひとつ。やれやれ、どうやら完璧に熟睡してしまったようだ。
ふと空を見上げてみれば、すでに太陽は沈みかけ、桜を真っ赤に照らしている。
奈菜と百合には後で思いっきり詫びるとして、明日なんて言い訳すっかな。
「それで、どうして遅れたの?」
「いや、昼寝をしてたらな…」
「寝過ごしたってわけ?」
「面目ない……」
というわけで現在、奈菜にこってりしぼられてるわけだが、いかんせん俺が悪いのだから反論のしようもない。
百合が隣でくすくす笑ってるのがせめてもの救いかもな。
正直、可愛い……
「もう、何鼻の下伸ばしてるのよ〜」
そう言うと、奈菜は俺のほっぺたを引っ張り始める。
やめてくれ、伸びて戻らなくなったらどうするんだ!?俺のほっぺったは結構繊細なんだぞ!?
「そのくらいにしてそろそろ練習しよう?時間も押してるんだしね?」
流石は百合。絶妙なタイミングだ。正直俺のほっぺたももう限界が近かったからな。
あ〜あ、赤くなってるよ。
「む〜、しょうがないね。香介君の罰ゲームは後回しにしよう」
待て待て。なんだその罰ゲームとやらは。確かに遅れたのは俺だがな、
「さ、二人とも今日も頑張るよ〜!!」
仕方あるまい。謹んで受けようじゃないか。正直なところ、俺が音楽室に入ってきたときの奈菜の顔を見たときからそれなりのことはしようと思ってたんだからな。
誰だってそう思うだろう?俺が扉を開けた瞬間にあんな嬉しそうな顔されたらさ。