第19話
〜第19話〜
―ぼすっ
家に帰った俺は荷物を投げ出し、そのままベッドにダイブした。
疲れた。まさにその一言につきる。こんなに疲れたのはいつぶりだろうか?まったく、いかに楽して過ごしてきたかがよくわかるよな。
なんて苦笑をもらしながら、今日の練習について振り返ってみることにする。
奈菜の完璧なギターとボーカル。百合のテンポのよいドラム。俺のずれまくりのキーボード
だめじゃん俺………。
まったく出だし最悪だよ。二人は気を使ってくれたのか何も文句は言わなかった。
まぁ、あの二人が文句を言うとは思えない。そういう性格だからな。
だからこそ余計に自分のふがいなさが情けない。このままでは俺のせいで来週には間に合わないだろう。
やると言った以上、それは絶対に避けたい事態だ。
「しかしどうしたもんか……」
練習と言っても、曲をあわせるのは一人ではできない。
曲自体は8割がた弾けているのだから、単独での練習の効果はあまり期待できそうにない。
八方塞とはこのことだ。
いや、正確にはもうひとつ手はある。正直これを選ぶのは相当嫌なのだが……
背に腹は変えられないよな……
「それで、俺のところに来たというわけか」
「来たくはなかったがな」
「何、そう遠慮するな。俺とお前の仲だろう?」
「気色悪いことを抜かすな」
肩にまわされる七倉の腕を振り払う俺。まったく、俺にそんな趣味はない。だからあんまり来たくなかったんだよ。
「しかし解せんな」
「何がだよ?」
「お前は俺が最終手段だと言ったが、本人達に頼めば一番だろう?」
そちらの方が効率もいいだろうしな、なんて言われなくてもそんなことは一番俺がわかってるんだよ。
演奏するのは当然の話、七倉とではないのだ。
だったらそんなやつと練習するよりも、奈菜たちに頼んで練習したほうがいいに決まってる。
だけどそうはいかない理由は、
「なんか、かっこつかないだろう……」
仮に頼んだとしても、奈菜と百合が断ることはないだろう。むしろ積極的協力してくれるはずだ。
だからこそ、それをするのはなんとなくためらわれる。
男ってのはそういう生き物なんだよ!!プライドが大事なんだよ!!
「お前のよくわからんこだわりは置いとくとしてだ」
おいこら!置いとくなよ!そこそこ重要なことなんだぞ?
「そんな見栄を張って失敗では目も当てられんな」
「余計なお世話だ」
七倉のいうとおりなものだから気に入らない。というかこいつに言われると妙に腹が立つのはなんでだろうな?
きっと日ごろの行いのせいだろう。そうに違いない。
「で、協力してくれるのか?」
「他ならぬ水野の頼みだからな」
「そうかよ」
やれやれ。何で返事をもらうだけでこんなに苦労せねばならんのか。どっと疲れたよ……
「貸しはいつか返してもらおう」
……やっぱり素直に奈菜たちに頼むべきだったかもしれない。
まぁ、今更のなのでそんなことは言わないがな。さて、今日の放課後までに少しは形にしなくては!!
で、練習開始から20分後。
「合わんな」
「だよな……」
「合わせるきはあるのか?」
「あたりまえだろうが」
何度やっても合わない。昨日よりかは多少ましになった気もするが、それも気休め程度だ。
というか七倉。お前は何でそんなにそつなく演奏してんだよ……
「それが俺が俺であるゆえんだ」
勝手に言ってろよ。やれやれだ……
しかしどうしたもんかね。何か画期的な解決策があればいいんだがな。
人生はそう、うまくいくようには出来てないってことなのか……
お先真っ暗だよ。というわけでもう一度言わせてくれ。
――やれやれだ。