第18話
〜第18話〜
春だというのに昼が近づくにつれ気温は上昇線を描き、いい感じに上がっていく。
これも地球温暖化の影響なのか?頑張れ地球!応援してるから!!
などと考えながら退屈な授業をやりすごしていた俺だが、ひとつの懸案事項が頭から離れないでいた。
「来週かよ……」
今朝方に奈菜により伝えられた言葉。顔合わせから一週間で曲を完成させるときたもんだ。
俺でなくてもため息のひとつくらいつきたくなるだろうよ。
教科書に目を落としてもう一度ため息。別に教科書の内容をみているわけじゃない。
そんなもの見たくもないからな。
じゃあ、何を見ているか。奈菜から手渡された譜面である。
何度見直してみてもたいした出来だ。これだけの出来であるからこそ、練習時間も相当にかかるだろうし、何より中途半端なものにはしたくない。
どちらかと言うと、後半部分の方が比重は重い。
ん?そういえば何で来週までなんだ?期限に気をとられてそこを聞いてなかったな。
来週だろ?なんかあったけかな?
「来週は創立祭があるでしょ〜♪」
昼休みになり、なぜか今日も百合と一緒に昼食を食べていた。場所も同じだったりする。
百合はこの場所がいたく気に入ったらしく、俺の後をひょこひょことついてきたのだった。
それは別に悪いことじゃないんだが、他の男子からの視線が痛い。しかも本人はまったくの無自覚だからな。
月のない夜には気をつけたほうがいいかもしれない。
で、上のせりふに戻るわけだが、今のは百合のせりふだ。俺はまったく忘れていたわけだからな。
ここで創立祭について少し説明しておこう。まぁ、説明と言ってもたいしたことは何もない。
ただ単に、何十年前だかに我が晴嵐学園が創立された日が来週にあり、それを祝おうではないかというイベントだ。
大抵の高校はこんな日は休みになるんだろうけどな。まったくうちの校長は何を考えてるんだか。
最後の方は軽い愚痴になったがそんな感じだ。もっと簡単に言うなら文化祭の規模が落ちたようなイベント。
うん、これならわかりやすいんじゃないか?
「そこで演奏しようってわけなのか?」
「奈菜の計画ではそうみたいだよ?」
ちょっと大変だけどね。そう付け加える百合だが、実際ちょっとどころの話じゃない。
まったく、奈菜も何を考えているのやら。
そんなこんなで放課後だ。集合場所は第3音楽室。俺の秘密の場所だったんだけどな。
奈菜に遠まわしにぼやいてみれば、いつからこの部屋は香介君の部屋になったのかな?と、一蹴だ。
やれやれ。新しい部屋を探さないといけないな。
「それじゃ、早速練習しようか」
「来週だもんね!頑張らなきゃ!!」
確かに今は話している時間すらもったいない。創立祭に間に合わせることを考えれば、今週中には形にしないといけないのだから。
「まずは個人練習。最後に合わせるからね」
奈菜の一声で練習は始まった。ここで俺たち3人の役割を紹介しておこう。
言うまでもなく俺はキーボード。それしか出来ないからな。百合はドラム。人は見かけによらないというかなんというか。
正直、出来るのか?とも思ったが、練習開始10秒でそんな気持ちは吹き飛んだね。リズムから叩き方まで相当のレベルだ。
いったいどんな練習をすればあんなになるのか教えてほしいものだ。
最後に奈菜。はっきり言おう。こいつは次元が違う。なんと、一人でボーカルとギターをこなすというのだ。
お前はいったいなんなんだ?実はサイボーグとかじゃないだろうな?
練習は思いのほか順調に進んだ。奈菜は前から練習していただけあってほぼパーフェクト。
百合も無難にこなしている。俺はといえば、
「香介君ずれてるよ」
「ああ、悪い……」
「香介君ちょっと早い」
「気をつける……」
今まで一人でやっていたつけなのか、さっぱり2人に合わせられないのだ。
何度やってもどこかがずれる。間違えたところを修正すれば他を間違える。さっきからその繰り返しだ。
「大丈夫だよ!まだはじめたばっかりなんだから!!」
奈菜の励ましが、逆にむなしく感じるのは何でだろうな?
結局、下校時間まで練習したが俺は合わせることが1度もできなかった。