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第17話

〜第17話〜




朝の音楽室に来たのは高校に入学してから初めてだった。もっとも、いつも遅刻との勝負といった感じの俺にしてみれば、

こんな朝早くに学校に来ていること事態がはじめてのことなのだ。

それでもちらほらと生徒の姿は見受けられる。おそらく他の部活の部員だろう。

我が晴嵐学園はそこそこに部活動が盛んなのだ。毎回どこかしらの部活が全国大会に出場を決めている。

もっとも、そういったことに全くの興味がなかった俺は、いつも無視を決め込んでいたのでどこの部活が強いのかといった情報はほとんど持ち合わせがない。

それなのにだ、朝の貴重な睡眠時間を削ってまで練習しているやつらの頭の作りを疑っていたくらいの俺が、まさか自主的に朝練に参加するとは、いやはや世の中なんてちっともわからないものである。


指定された集合時間は7時半。現在時刻は7時15分。

どういうわけかこんな時間に来てしまった。こんなことならもう少しゆっくりと朝飯を食べてくればよかったかもしれない。

あまり利用者がいないせいか、常にほこりっぽい音楽室の空気を入れ替えるために窓を開けながら、いつもと逆のことをしている自分に思わず苦笑してしまう。

開け放った窓から流れ込んでくる風が心地よい。春だというのに妙に暑さが目立つ今日この頃だが、

明け方の気温はちょうど良く、少しでも気を緩めればすぐにでも眠ってしまいそうだった。


それからしばらくして、集合時間ぴったりに奈菜がやってきた。ここまで時間にぴったりだと、何か突っ込んでやりたい気もしたが、

それよりも先にもっと突っ込んでやりたいことがあったので、奈菜の体内時計に関してはこの場で触れるのはやめておくべきだろう。


「まさか香介君が私たちより先に来てるなんて……」


確かに奈菜は昨日の時点で、もう一人のメンバーを連れてくるとは言っていた。俺もそれが誰だか気になっていたのは事実だ。

だが、まさかその人物が今目の前にいる人だとはまったく予想もしていなかった。


「紹介するね。藤本百合ちゃん。今回私たちに協力してくれる頼もしき助っ人だよ♪」

「ふふふ〜♪驚いた?」


驚いたどころの話ではない。こんな組み合わせは想定外すぎる。


「あれ?百合は香介君と知り合いなの?」

「一緒のクラスで隣の席だよ〜♪」

「なんだ〜。言ってくれればよかったのに」

「香介君を驚かせたいじゃない?」


とまぁ、二人はほうけている俺をそっちのけで会話に花を咲かせ始めた。俺はといえば、ようやく目の前の組み合わせに頭がついてきたみたいだ。


「二人は知り合いだったのか?」

「うん♪お友達だよ♪」

「そうは言っても、まだ日にちは浅いけどね」


何でも、メンバーが辞めてしまい新たなメンバーを探していた奈菜だったが、大抵の生徒は部活に入ってしまっていたらしい。

そこに百合が転校してきた。いちるの望みをかけて勧誘してみたところ、百合は一発OKをしてくれたとのことだ。


「本当に百合には感謝してもしきれないよ」

「別に気にすることじゃないと思うんだけどな」


百合はそう言うが、奈菜としてはそれは嬉しかっただろう。それは昨日、俺が承諾の返事をしたときのリアクションでよくわかっている。

何はともあれよかったよかった。奈菜が選んだ人材だからと思ってたとはいえ、よくわからない奴だったらと危惧しなかったわけではないのだ。

しかしどうやらそれも杞憂だったようだ。百合ならまったくのノープロブレム。むしろ歓迎物だからな。


「それじゃあ、早速だけど練習しようか!」

「そうだね。せっかくの朝練だもん」


時計を見ると、集合してからすでに15分ほどが経過している。わざわざ早起きしたのだ。時間を無駄にするのももったいない。


「ところで練習って言っても何をするんだ?」

「それなんだけどね……」


いくら練習すると言っても、何を演奏するのかがわからなければ始らない。しかし奈菜はそれはしっかり考えてきていたようだ。

流石と言うか、自分で誘ってきたことだけはある。


「私が考えた曲なんだけどね、とりあえずいろいろアレンジは加えてみたんだ」


奈菜はしっかりと俺と百合の分の楽譜をコピーしてきてくれていた。ざっと目を通してみて思う。

なるほど、これだけの作品を考えられるのだ。バンドを続けたいと思うのも納得できる。


「すごいね〜」


どうやら百合も同じような感想を持ったらしく。隣で歓声をあげている。まだ演奏したわけではないからなんとも言えないが、おそらく並以上のものには違いない。

しかし、どうやら話はうまくは進まないらしい。次の奈菜の一言により俺はそれを嫌と言うほど思い知ってしまったのだから。


「この曲を来週までに完璧にするからよろしくね♪」


このときの俺と百合のほうけた顔を誰か写真にでも撮っていたらと今でも思う。

それほどまでに奈菜の一言は破壊力抜群だった。

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