第14話
〜第14話〜
「後、1ポイントで俺の勝ちだな、九条よ」
「ま、まだだぜ!ここから俺の本領が!」
“カーン”
「俺の勝ちのようだな」
「ばかな…」
その場に崩れ落ちる歩。その隣で勝ち誇っている七倉。
『何がしたいんだこいつらは…』
エアホッケーでなんであんなに盛り上がれるんだ?
飲んでいたコーヒーの缶をゴミ箱に投げたら、うまい具合にナイスシュート。
人生もこのくらいうまくいけばいいんだけどな…
なんてくだらないことを思ってみた。
「んで、何かあったのか?」
「は?」
「だから、何かあったのかって聞いてるんだよ」
歩むの唐突な問いにおもわずマヌケな声が出る。
いきなり何を言ってるんだこいつは?
「なんのことだ?」
「そのしけた顔の理由を聞いてるんだよ」
そんな顔してたのか?
おもむろに顔を触ってみる。特に意味はないが…
「お前はそういうやつだよ…」
「九条よ、それは言うまでもないだろう」
なんかすごい言われようだな…
特に七倉。なんかすごいバカにしたような目でこっちを見ている。
……、殴っていいですか?
「お前らな…」
「どうやら、ちゃんと説明してやらねばならないようだな」
馬鹿にしたような目から一転、なんだか、かわいそうな人を見る目で見てくる七倉。
余計悪くなってないか…
「いいか水野、つまりだ。今日のお前の様子は変だ。それはもう変だ。
太陽が西から昇るくらいへんだ!」
力説する七倉。その隣で、歩むがしきりにうなずいている。
だからなんなんだその連携!!なんか無性に腹立たしいぞ!?
「お前らな……」
「とまぁ、冗談はここまでにして本題に入ろうか」
「今のが冗談だったと言うのかお前らは!?」
「半分は本気だな」
友達やめてやろうかと考えた俺を誰が責められよう?いや、誰も責められまい。
「で?何があった?」
今までのふざけた表情を一変させて尋ねる歩。七倉も、もう笑ってはいなかった。
ったく……散々言いまくった挙句にその流れは反則だろう?
まぁ、もともと相談するつもりだったのだからそれはそれでいいのだけど。
ただ、どうにも二人の手のひらで遊ばれているような感覚が嫌なのだけども……
「実はな……」
結局相談してしまうあたり、俺がこいつらを信頼しているという証拠に他ならないわけで。
まともな答えが返ってくるとは思えないのに、妙な期待をする自分がいたりしたわけだ。
「なるほどな」
話はじめて15分と少々。別段面白い話でもないのに、この二人は始終聞き入っていた。
まずは俺と奈菜の関係。(歩がここにやたら興味を示してきたが完璧に無視した)
次に俺がピアノを弾けると言うこと。(ここには七倉が興味を示したがこちらも無視した)
最後に奈菜からのバンドへの誘いのこと。話しながらもどうするかを考えてはみたが、まったく決められなかった。
「しかし、お前の周りにはどうして女子が集まるんだ?」
「誤解を招くような発言はやめろ」
初っ端から話をそらす歩に、もはやため息しか出てこない。こいつは何を聞いていたんだ?何を?
お前の頭には脳みそがしっかり入ってるんだろうな?
「水野の異常な体質は置いておいて……」
おいこら!勝手に人を異常体質者にするなよ!!俺はいたって普通の人間だ!!
「ようするに、お前は人前で演奏するのが嫌なわけだ。だけど朝倉の頼みを断るのも気が引ける。更には自分も少しは興味がある。違うか?」
なぜ俺の感情を寸分の狂いもなく読み取れるのか、という質問は後日するとして。七倉の言うことは全てその通りだ。
俺自身興味が無いわけではないのだ。むしろ参加したい気持ちが強い。
それでも人前での演奏と言うフレーズに、どうしても気後れしてしまうのだ。
「そこまで分かってるなら的確なアドバイスはあるんだろうな?」
「そうだな。強いて言うなら……いや、ここは九条に任せてみよう。さっきから捨てられた犬のような顔をしているしな」
その言葉に歩を見てみると、なるほど、確かにそんな顔をしていた。
「お前ら……実際傷つくぞ……」
「いいから意見があるなら何か言えよ」
さっきの仕返しだとばかりに、歩の意見は軽く無視。
「まぁいい。そうだな。俺がお前に言えることとしては……」
後に思う。このときこいつらに相談したのは正解だったんだと。