第1話:プロローグ
一片の花びら。それは足元まで落ちて消えていく。また一枚。そしてもう一枚。
目に映るのはピンク色の景色。幻想的にも見えるが、それはまるでピンクの絵の具をこぼしてしまったかのようでもあった。
ここがどこで、今自分が何をしているのかもわからない。
何か大切なことをしなければいけない気はしているのだけど、それが何かはわからない。
『約束だよ』
不意に耳に飛び込んでくる誰かの声。幼さの色濃いその声に、どこか懐かしさを感じる。
『二人の約束』
再び聞こえる声。今度はさっきよりも鮮明な声だった。
だけどわからない。これが誰の声なのか。そして自分がどこにいるのか。
『きっとだよ』
三度聞こえた時にはすでに目の前の色は真っ黒になっていて、自分の存在すらもあやふやで、
ただ深い闇に落ちていくのみだった。
落ちていく途中にひとつだけわかったことがある。その声が、女の子の声だったということだ。
「…またこの夢か」
心地よい目覚めとは程遠い感覚の中目を覚ます。今まで眠っていたはずなのに、ちっとも疲れがとれた気がしない。
目覚ましを見ると時刻は午前6時ジャスト。いつも起きる時間から1時間半も早い。
寝なおそうかとも思ったが、一度覚醒してしまった脳は眠ることを拒否してしまったようだ。
仕方がないのでベッドから重い体を引きずり出す。わずかに朝日がこぼれているカーテンを全開にし、体にその光をいっぱいに当てる。
いい朝だった。春のうららかな陽気に心地よい風。鳥のさえずりも何もかもが。
ただひとつを除いて……
「約束って何だよ……」
物語は今、幕を開ける。
〜第一話〜
微妙な後味の悪さを感じつつ、いつもより早めのリビングに足を踏み入れた俺を出迎えた最初の一言は、
「どうしたの!こんなに早く?風邪でもひいた!?」
「風邪引いたらこんな早く起きないだろう……」
二度寝を断念し、いつもより早く起きだしてみればこれだ。
そりゃ確かにいつも寝起きが悪い俺が、こんなに早く起きてくれば驚くのも無理もないかもしれない。
だけどさ……もう少しリアクションの仕方ってもんがあると思うんだよな。
突っ込もうかとも思ったが、これ以上何かを言われるのも嫌なのでそのまま自分の定位置であるテーブルに座ることにする。
「本当にどうしたの?まさか本当に風邪?」
「かわいそうな人を見るような目で問いかけるなよ……」
最後の方には本気で心配している我が母親に対して、こんなときはどんな返答をしたらいいんだろうな?
知っているやつがいたら教えてくれ。
「まあいいわ、起こす手間が省けて良いし」
結論はそうなったらしい。結局そこなのかとも思ったが、下手なことを言って明日から起こしてもらえなくなっては困る。
あくまでも今日が早いのはたまたまなのだから。
だけどまぁ、早く起きるのも考え物だな……。そんなことを思いながら、用意されたハムエッグに箸をつけるのだった。
俺の名前は水野香介。ごく平凡な高校生だ。身長も高くないし顔も普通。成績も運動神経も何もかも普通。これってある意味すごいのでは?とかもたまに思ったりもする。
家族は俺と母親の二人だけだ。父親はまだ俺が小さいころに交通事故で死んだと聞いている。
実際のところ、まだ物心つく前だったので、父親についてのことは全部伝聞情報だ。
そのおかげで片親だということに、違和感を感じないのだから不幸中の幸いってやつかもしれない。
以上、簡単な説明終わり。簡単すぎるって?これ以上説明することなんて何もないって。
「じゃあ、そろそろ行ってくる」
寝起きの悪い俺だ。当然のように遅刻も多かったりする。まぁ、俺としては全然気にならないのだが、成績表を見た母さんの顔が気になるんだよな。
この前の顔は真剣にトラウマものだ……
そう思い早めに家を出ることにしたのだが、
「今日は雨が降るかもしれないわね…」
つまるところ、早かろうが遅かろうが何かを言われる運命らしい。自分の招いた事とはいえ、一抹の悲しさを背中に背負いながら玄関の扉を開けるのだった。
太陽が眩しいぜちくしょう。
初投稿ということで、短いですがこれからよろしくお願いします!!