超光速に関する覚え書き
短編発表の作品整理です。
光速を超えると時間は逆行する。
まるで定説のように扱われてますが……これ、実は嘘だとか。
嘘が言い過ぎとしても、あくまでも『時間を遡っているように見える』であり、時間軸の逆行とは別の事象になるようです。
知っている方は知っていると思いますが、実はアインシュタインの相対性理論、きちんと段階を踏んでいけば、小学生レベルの学力でも理解可能です。
事実として『小学生でも解る相対性理論』なんていう読み物も溢れてます。
ちなみにエーテル理論から始まった一連の流れは、とても面白いものです。理論の一つひとつが、凡人にも解るように噛み砕かれていますし。
……まあ作者の場合、何度勉強しようと、少し経つと綺麗さっぱりと忘れてしまうのですが。
とにかく話を戻せば、作者も長年に渡って、この既成概念を信じていました。
しかし、どう相対性理論を捻くり回しても、『光速を越えたら時間逆行が起きる』という結論には届かないような?
少なくとも小学生でも理解可能な範囲では、その結論に至る筋道が見えません。
そもそも相対性理論の結論では――
『光速に近づくにつれ質量が増大し、光速に到達する頃には無限大となる』
とあり、結局は光速を超えらないとなります。
無限大の質量を加速させるのに、無限の力が必要になるわけですね。
しかし、仮に超えたとしたらどうなるのか。
そこが超光速の――そして今回の肝となります。
作者がネットなどを調べた限り、仮に光速を超えるとしたら――
『その場合には、負の質量を持つ物質が必要である』
という仮説は、かなり有力に思えます。『運動エネルギーは速度と質量の積』あたりから出てきたアイデアでしょう。
この仮定の場合、色々とおかしな観測結果が予想出来るようですが……まあ本題とは異なるので割愛します。
ただ、『光速を超えたら時間逆行』には結びつきそうもありません。
(負の質量という前提で既存の物理法則を当てはめれば、『時間逆行』とも考えられるようですが……少し仮定を重ねすぎているように思えます。さらにその場合、超光速とは無関係に『時間逆行』が発生するはずです)
しかし、全く別のアプローチによる説明もありました。
それは『光速を超えた物体を観測した場合、あたかも時間逆行しているように見える』です。
これは単純な思考実験ですから、理解も簡単になります。お馬鹿な作者向けでしょう。
実験は『スタートからゴールまでロケットの移動を観測という』簡単なものです。
この単純な前提を、移動速度の場合分けで考察します。
観測者の位置はゴール地点に固定。スタートからゴールまでの距離は、計算しやすく十光秒の距離です。
(一光秒……距離の天文単位。光が一秒で進む距離のことです)
またロケットの性質などは本旨と関係ないので無視、ロケットは一瞬の内に必要な速度に到達できるとします。
まず大前提として理解しておいて欲しいのが、十光秒先にあるロケットの映像は、ゴールの観測者へ届くまでに、十秒のタイムラグがあるということです。
映像とは光の反射のことですから、つまりは光に他なりません。
十光秒先から光が届くのは十秒後となる。当然のことですね。
同じ理屈ですが、ゴールに到着したロケットは、ほぼ瞬時に観測できます。
目の前にあるロケットが反射する光ですから、実験のスケールから考えて誤差とすらいえません。
それでは一般代表として、光速の半分で実験をしてみましょう。
○実験・その一
・開始
ロケットは加速を始めますが、観測者には見えていません。視認できるのは十秒後となります。
・二秒後
ロケットは九光秒の位置を通過しました。
しかし、やはり観測者には見えていません。その映像が観測者に届くのは、経過した二秒とタイムラグの九秒を加算した十一秒後です。
・四秒後
ロケットは八光秒の位置を通過しました。
しかし、やはり観測者には見えていません。その映像が観測者に届くのは、経過した四秒とタイムラグの八秒を加算した十二秒後です。
・六秒後
ロケットは七光秒の位置を通過しました。
しかし、やはり観測者には見えていません。その映像が観測者に届くのは、経過した六秒とタイムラグの七秒を加算した十三秒後です。
……と続くのですが、この段階で大問題が発生中?
とにかく二十秒後にはゴールします。
しかし、観測者の視点では――
『十秒後に移動開始したロケットが、二十秒後に到着した。十光秒の距離を十秒で移動したのだから……速度は光速?』
となるでしょう。
光速に到達しちゃっている! まずい! もしや超光速も可能?
なんて慌てちゃいそうですが、大丈夫だったりします。
確かドップラーさんが、この手の観測時に起きる不思議現象を法則にして纏めていたはず……かな?
とにかく『見た目で光速だったり、超光速に見える』物理現象は、意外と多いので気にしたら負けです。
事実として『ロケットは十光秒の距離を移動するのに二十秒かかった』のですから、その速度は光速の半分になります。
なんとなくモヤモヤした気持ちのまま、次は光速だった場合の実験に移りましょう。
○実験・その二
・開始
ロケットは加速を始めますが、やはり観測者には見えていません。それが視認できるのは十秒後となります。
・一秒後
ロケットは九光秒の位置を通過しました。
しかし、観測者には見えていません。その映像が観測者に届くのは、経過した一秒とタイムラグの九秒を加算した十秒後です。
・二秒後
ロケットは八光秒の位置を通過しました。
しかし、観測者には見えていません。その映像が観測者に届くのは、経過した二秒とタイムラグの八秒を加算した十秒後です。
・三秒後
ロケットは七光秒の位置を通過しました。
しかし、観測者には見えていません。その映像が観測者に届くのは、経過した三秒とタイムラグの七秒を加算した十秒後です。
……胡散臭くなってきました。
もちろんゴールするのも十秒後で、全ての瞬間が同時に観測されますから――
『十光秒先にあるロケットが一瞬、スタートとゴールを結ぶ一本の棒へ変化した。伸びたとかじゃなく、変化した感じ。それと同時に気付いたらロケットはゴールしていた』
という観測結果になるのでしょうか?
身近にある光速の現象――光って、そんな風に観測されていたかなぁ?
少し疑問を覚えなくもないですが、まだ理屈的には正しい……はず?
めげずに光速の二倍だった場合を考えてみましょう。
○実験開始・その三
ロケットは加速を始めますが、やはり観測者には見えていません。それが視認できるのは十秒後となります。
・一秒後
ロケットは八光秒の位置を通過しました。
しかし、観測者には見えていません。その映像が観測者に届くのは、経過した一秒とタイムラグの八秒を加算した九秒後です。
・二秒後
ロケットは六光秒の位置を通過しました。
しかし、観測者には見えていません。その映像が観測者に届くのは、経過した二秒とタイムラグの六秒を加算した八秒後です。
・三秒後
ロケットは四光秒の位置を通過しました。
しかし、観測者には見えていません。その映像が観測者に届くのは、経過した三秒とタイムラグの四秒を加算した七秒後です。
・四秒後
ロケットは二光秒の位置を通過しました。
しかし、観測者には見えていません。その映像が観測者に届くのは、経過した四秒とタイムラグの二秒を加算した六秒後です。
・五秒後
ロケットはゴールします。
タイムラグもなくなるので、観測者にも視認可能です。
……だいぶ法則が乱れてしまった感があります。
しかし、へこたれずに観測者の主観を想像することにしましょう。
まず最初に観測できるのは、突如としてゴールに出現したロケットになります。
何の脈略もなく、忽然と姿を現すでしょう。
これだけで怪奇現象ですが、以後はゴール地点に在り続けるのも忘れてはなりません。
そしてゴール地点のロケットから霊体離脱したかのように、もう一つのロケットがスタート地点に向かって戻って行きます。
事実関係で考えると、それは虚像となるのですが……光学観察上、ほとんど差異はありません。分裂したかのようにしか思えないでしょう。
そしてロケットですから前後があります。この虚像はなぜか、新しい進行方向であるスタート地点へ向けてジェットを噴射し、その先頭を観測者へ向けています。
……普通の人はそう受け取らないですね。
スタートからゴールまでのロケットを、まるでフィルムを逆回転したかのように――まるで時間を遡っているかのように感じるはずです。
作者が思うに『光速を超えると時間は逆行する』は、この思考実験から生まれた誤解なのではないかと思います。
この実験ではロケットと観測者しか登場していませんが……そのどちらも時間軸を逆行――平たくいうとタイムスリップはしていません。
確かにロケットの逆回転観測はできましたが……それはタイムスリップとはいえないでしょう。
それを時間逆行とするのなら、映像を逆送りするだけでタイムスリップになってしまいます。
残念ながら『光速を超えると時間は逆行する』というのは、デマといわざるを得ないようです。
堅めの話はここまでで、ここからは砕けた話となります。
皆さんは光速といったら、どんな物語を思い浮かべるますか?
光速を題材としたり、道具立てに使っている創作は多数ありますが……作者にとって印象深いのは聖闘士星矢だったりします。
作中でゴールド聖闘士というのが登場しますが、なんと攻撃速度は光速です!
いままでは「すげえぜ、かっこいいぜ!」程度にしか思ってなかったんですが……実際に光速の拳となると、どのように見えるのでしょうか?
先ほどの思考実験から考えると――
殴り始めから殴り終わりまで、全ての瞬間が同時に観える。
そして観測できた時点で、既に殴られている(痛い)となるようです。
……うん?
よく似た概念を知っているような?
とりあえず考察を、超光速まで進めてしまいましょう。
超光速の場合――
まず殴り終えた結果が出現します(もちろん痛い)
その後、フィルムの逆回しのように殴る姿が、逆順で観えて……。
あれ?
こんな感じなのが、『ジョジョの奇妙な冒険』にあったような?
過程は消し飛び、結果だけが残るっ!
ならぬ――
まず結果が観測され、過程は後で観測されるっ!
でしょうか?
そして超光速による時間逆行で避けて通れないのが、映画『スーパーマン』でしょう。
作中でスーパーマンは恋人の死に哀しみ、地球の自転を逆回転させて時間逆行させてますが……あれって超光速で回転させたのでしょうか?
超光速で回転させたとしたら偉い騒ぎです。衛星軌道上からそれを観察したとすると――
まず凄まじい運動エネルギーや、大気と大地との摩擦熱などで地獄絵図となった地球が観測されます。
その後、フィルムの逆回転のように、そこへ至る阿鼻叫喚の風景が――
……昔のSFに、あまりケチをつけるもんじゃありませんね。少し風流に欠けてました。
しかし、思考実験をしていて――
仮に超光速で移動している物体があったとしても、それは逆さに観測されることで隠れてしまうのではないだろうか?
などと思ったりしました。
思考実験を恐ろしく簡単に言うと『超光速だとゴールからスタートへ逆さまに移動したように見える』です。
仮にA地点からB地点へ超光速で移動している物体の場合、それはB地点からA地点へ移動しているように見える。
その見た目は特殊な動きとして捉えられないから、人類に超光速は認識不可能になってしまう?
発展的に考えると――
超光速通信は地球へ向けて送信されているが、逆回しにするという発想がないために雑音として見落とされている。
などという妄想も可能だったりします!
……ないか。
まあ作者は、ガチガチの原理主義者だったりします。
そもそも発端はニュートリノの超光速問題でした。
少し前にニュートリノが超光速と誤測定され、大騒ぎなったのを覚えていらっしゃるでしょうか?
その時に首を捻ることになったのですが――
相対性理論において、光がこの世で最も速いことに、なにか意義はあっただろうか?
です。
作者の記憶が正しければ、光の持つ特殊な不変性――どこから観測しても、常に同じ速度の方が大問題で、それが世界最速かどうかは検討すらされてない。
色々な実験から事実だけを拾い上げていった経過で、光が最速となっただけのような?
全ての実験を通じて、一つとして光が最速の前提ではなかったような?
むしろ光を含む全ての現象に、到達限界速度があると推定できちゃったことのほうが重要だったような?
それと光が近似値だったのは、偶然以外の何物でもなかったような?
(偶然というより、到達限界速度に達したら、それらは何であろうと不変性を持つ?)
とにかく実験データーを軽く見ただけでニュートリノは光速と同じで、完全に誤差レベルの違いにしか思えませんでした。
(残念ながら計器の不具合として決着ついてます)
しかし、仮にあの計測が正しかったとしても――
やっぱり到達限界速度はある(それぐらいに光速の近似値だった)し、相対性理論は正しいと思われる。
ただ最も到達限界速度に近かったのは、光ではなくニュートリノだったようだ。
が、正しい結論に思えました。
しかし、世間では大騒ぎで――
物理学全てを書き換えなければならない大事件!
みたいな熱狂振りで、釈然としない気持ちにさせられたのを憶えています。
いままでの光速の数値と――到達限界速度と大きくかけ離れていれば、それこそ物理学の金字塔的発見なんですけどね。
しかし、その場合でもニュートン力学から相対性理論と続いてきた物理学に、新しいステージが拓かれるだけではないでしょうか?
ニュートン力学はある意味で否定されてますが、普通に使う分には通用しますからね。
間違っている訳でも、古臭い訳でもなく……ただ条件が限定的なだけ。限られた条件下なら正しい理論であり続けてます。
同じように超光速が発見されようと、相対性理論の正しさは変わらないと思います。
やはり相対性理論には、結果を導けた実績がありますから。
ただニュートン力学のように、条件が限定されるようになるだけでしょう。
……こんなことを言うと、やっぱり原理主義者は頭が堅いと言われちゃうかも?
まあ門外漢でも、物理で遊べるという話でした!
補足
作者は時間軸否定の立場なので、時間逆行などの考えに厳しいかもしれません。
時間軸を否定とは、ややこしいですが……まあ一派を成す理論で、時間は実在していないとする思想です。
細かくは……概念の問題とかになって、色々とあって面倒臭いです。
超光速での時間逆行を否定することと、時間逆行を不可能と断じることはイコールではありません。
作者は時間軸否定の立場から懐疑的(無いものは移動できません)ですが、時間逆行そのものの可能性は否定してません。
本文の意図
作者は変わり者なのか、散歩の最中にこんなことばかり考えています。
ただ、ある程度は記憶が曖昧となり、歩きながら思考実験を何度か繰り返す羽目になりました。
さすがに合理的じゃありませんし、いい機会なので備忘録的に書いておくことに。
……時々、暗算間違えたりしますし!
また手慣らしとして、そして練習目的でもあります。
書き続けなければ上達しないでしょうし、何かを説明するというテーマは、練習として適当に思えたので。
……本文の半分は真実ですが、残りの半分は作者の『やわらか物理学』でできてます。
鵜呑みにする前に、眉に唾を付けてください!