『最大パーティ人数が十二人だった理由』
『セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編』より移動。
書き貯め休載に投稿したコラム的な文章その2。
MMO――特にファンタジーが題材のMMOは、オフラインRPGと似た要素が多くあります。
普通に考えて直系の祖先でしょうから、ある意味で当たり前かもしれません。その遺伝的形質なのか、MMOにもパーティ思想が最初から組み込まれています。
今回はその祖先と子孫での、パーティ事情がテーマです。
メジャーどころで『ファイナルファンタジー』はⅠの頃からパーティを組めますし、『ドラゴンクエスト』もⅡからはパーティの概念が組み込まれます。
今回、注目するのは『ファイナルファンタジー』シリーズならⅠ、ドラクエシリーズならⅢです。『プレイヤーの任意でパーティ人数やクラスを変更できる』が重要となります。やや趣旨から外れますが、『ウィザードリィ』シリーズでも可です。
この先はドラクエⅢを具体例として、話を進めていきます。
そのドラクエⅢですが、最大四人でのパーティが可能です。
色々なパーティ理論はあるでしょうが、今回は視点を逆にしてください。考えて欲しいのは――
『ゲームデザイナーは、何人パーティを想定してゲームをデザインしたのか』
です。
一人から四人組までのパターンしかないですから、簡単だと思います。
まず、一人が除外です。
ドラクエⅢはかなりの序盤から『まひ』というステータス異常が発生しますが、ソロで『まひ』になると即全滅――死亡扱いとなります。勇者一人旅を挑戦した方なら、一度は体験したことがあるのではないでしょうか。
またゲームを全てクリアしてからでないと、主人公である勇者をパーティから外すこともできません。
「いや勇者一人旅は成立するし、クリアも可能。だから、この意見は変」
と仰る方もいらっしゃるでしょう。
ここで考えて欲しいのが、ゲームバランスは『初見の人』に向けて調整されることです。
生まれて初めてドラクエⅢを遊んだ人が、なぜか勇者一人旅を始めてしまう。もちろん二進も三進もいかない。……それで放り投げてしまう人もいたと聞きます。
だからといって、勇者一人旅が初見で可能なほど難易度を下げるべきじゃありません。
反省すべきは『仲間を連れて歩ける』のを、きちんとプレイヤーにアナウンスできたかどうかの方でしょう。
少し横にそれますが――
ドラクエⅢのゲーム内アナウンスや取扱説明書で、パーティを作るべきと理解できないのなら……そのプレイヤーの救済は考えるべきではないとすら思います。
敢えて挑戦だとか、へそ曲がり的に独りを選択だとかじゃなく……単純に理解できなかったのであれば、そのプレイヤーは明らかに対象外です。
商売的にお客様を選ばない。全ての機会を確実に捉える。
それも正しいですが……全ての人物に可能なゲームとは、すなわち小学生用となってしまいます。
小学生でも楽しいし、大人も遊べる。
確かに理想ですが、それはあくまでも商売用でしかありません。
話をパーティ人数に戻します。
次は四人フルパーティを考えてみましょう。
ほとんどの方が、初見は四人パーティで遊んだのではないでしょうか?
作者もご他聞に漏れず、『ゆうしゃ』『せんし』『そうりょ』『まほうつかい』で挑んだのを憶えています。
まだ子供だった作者は多くの失敗をしました。ラスボス――そういえば名前を出したらネタバレですね――には何度も返り討ちにあい、ほとんど奇跡的に倒せたように思います。
しかし、作者は四人パーティで楽しく遊べたと思いますが……最適なパーティ人数――ゲームデザイナーが想定した難易度だったのでしょうか?
作者の場合は、良くて三人と半分程度の戦力しか出せていません。子供でしたし、RPGゲームに馴染みもなかったからでしょう。
いまの作者が初見で遊ぶのなら、三人パーティが程よく楽しめる難易度じゃないかと思います。正統派の四人パーティで遊んだら、サクサク進みすぎて……逆につまらないと感じるかもしれません。
ただ、初見で三人パーティで挑む――ここでは理由は考えないでください――場合、パーティメンバーは厳選することとなるでしょう。
色々と知っている今なら、いくつかパターンも思いつくでしょうが……初見の前提です。初見三人パーティだと、かなりタイトな難易度になるはずです。
となるとペアは、さらに厳しくなります。
三人パーティでは、やや難しすぎる。四人パーティなら万人がクリアできる――子供や初心者でも遊べるとなります。
つまり、三人半が想定パーティメンバーでしょうか?
……実際のところ、ゲームデザイナーさんは四人パーティで子供が遊べるバランスにしたとは思います。
それが偶々、ほどよい難易度だったから、いまもなお遊ばれる結果なのかも?
まあ、ここでは名作に敬意を表し、デザイナーの計算通りとしておきましょう!
このように意図しようがしまいが、パーティ人数と難易度の関係は生まれます。
……たまに狂ったバランスのゲームはありますが。
システム的に四人パーティが限界なのに、どう考えても難易度は五人パーティ向きだとか……特定の一人がいれば、最後まで楽々クリアできちゃう。そういった……稀に良くある事故は、この際無視して話を進めます。
最初に名前を挙げた『ファイナルファンタジー』のⅠも似た仕組みですが――
・作者は通しで一回遊んだ程度で詳しくない
・人数を減らすのに、誰かを蘇生しないで進む必要がある(はず)
なので、割愛とさせていただきます。
『ウィザードリィ』の方は世界初のコンピューターRPGのくせに、異常な自由度の高さだったり、日本産では少数派のキャラクターの完全死亡・消滅などもあり……微妙に意見が分かれると思います。
リセットありで遊ぶのなら五人と半分程度。リセット無しでガチに遊ぶのなら、主力にフルパーティで六人とサポートチームに同じく六人の、総勢十二名前後となるでしょうか?
まあ、ドラクエⅢの想定パーティメンバーは三人と半分。三人で挑む場合は足りない半分を知識や経験で補い、四人で挑む場合は半分のマージンが残っている。
そう考えて続きを読んでください。
このような想定パーティ人数は、ゲーム全体のバランスと密接な関わりがあると思います。
もちろん、MMORPGにも存在するはずです。
……それがデザイナーの意図した結果なのか、それとも偶然の産物なのかで、評価は大きく変わると思いますが。
ここで『ドラクエⅢ・オンライン』というのを想像してください。
ドラクエⅩとは別物です。完全にドラクエⅢの世界観と戦闘バランスでMMO化したものになります。
そのままシフトしたのですから、戦闘の難易度もパーティ三人と半分になるでしょう。
しかし、『ドラクエⅢ・オンライン』のシステムでも、最大パーティメンバー数は四人が正解でしょうか?
作者はそうは思いません。
ならば一人減らし三人として、プレイヤーには知識と経験を要求し……つまりはゲームの難易度を上げるべきでしょうか?
それとも自由度や安全マージンを多く取り、最大五人まで可能などとする?
どちらも悪い選択ではありませんが、良くもないと思います。
実際にプレイヤーとして遊ぶ側の視点だと、三人から五人が最大だと困るからです。
とりあえず単純に、最大四人だったと仮定します。
おそらく『ドラクエⅢ・オンライン』でもプレイヤーグループ――世界観的に『○○の酒場』になるのでしょうか? ――が作られることでしょう。
仲間がログインしてくる時間となれば、誰かがこんなことを言い出すはずです。
「みんなで狩りへ行こうぜ!」
実に自然な流れですし、プレイヤーとして健全でもあるでしょう。
しかし、この時点で……集まった仲間が三人か四人でない場合、非常に困ったことになります。特に五人だったりすると大問題です。
三人か四人なら、一つのパーティで冒険へ出発すれば済みます。
しかし、五人だった場合、どうするべきでしょう?
最も簡単な考え方は、二人と三人のパーティに別れることです。
これなら五人で一緒に行動とれる……かのように思えます。
しかし、ペアとトリオで別々に行動しているだけですから、実際の難易度は上がるはずです。その場には五人もいるのに、どちらのパーティも戦力不足で苦戦では……良策とは言えません。
次に考えられるのが、ソロと四人フルパーティに分かれることでしょう。
……勘の良い読者さんなら、お察しになられたと思われます。その分け方は、誰かがこんなことを言い出すのと大差ありません。
「メンバー余るみたいだし……俺はソロでも行ってくるよ」
日本人特有なのか、全員が言い出すこともありますし……なぜか特定の人だけが、割りを食い続ける結果にもなりがちです。そして、それは――
「俺、ギルドに所属しているのに、毎日ソロしてるな。嫌われているのかな……」
なんて考えに落ち着くことだってあるでしょう!
実際、小規模ギルドの人数が、パーティの最大数以下に留まるケースも良くあると思います。それは明らかにシステムが――パーティの最大可能人数が、阻害しているからでしょう。
なら、パーティの最大人数は五人で良いのでは?
確かにそうとも言えます。最低三人パーティで良しとするのなら、ほとんどの人数に対応してグループ分けられるでしょう(五人なら五人フルパーティ、六人なら三人パーティ二つ……)
ただ、それは想定難易度が三人と半分の場合です。
ほんの僅かに難易度が変わる……例えば四人だと、一気に参加メンバーで困る場合が増えます。
複数パーティにするとしても、一パーティに四人以上配置したいのですから……五人から七人の場合、『みんなで遊びに行こうとすると問題が起きる』という不思議な現象が!
これは想定難易度人数が多くなると、どんどん増えていきます。
頻繁にこの問題が発生するシステムだったら、おそらくギルドマスターは――
「頼むから『ギルドハントへ行こう』と言い出さないでくれ!」
なんて祈る場面が多くなるでしょう。
ちょっとゲームしているんだか、中間管理職をしているのだか判らなくなりそうです。
おそらく想定難易度三人と半分の場合、望ましい最大パーティ可能人数は七人だと思われます。
これなら集まったメンバーが八人でも、四人パーティ二つに分け……一緒に行動するか、別々の場所へ遊びに行けばいいでしょう。
ただ、MMO特有の問題も残ります。
この集まった八人に回復魔法が使えるのが一人しかいなかった場合、パーティを二つに分けるのは無謀となるでしょう。回復役でなくとも、システムごとに何らかの必須クラスがあるものですから……似たような問題点はついて回ると思います。
まあ、それはそれで別の問題点な気もしますが。
この理屈の延長線上にあるのが、本作の最大パーティ人数十二名です。
色々と悩んだのですが……VRMMOでゲームとして成立させるのに必要な最小パーティ人数は六名と考え、ゲームデザイナーの想定難易度を六人パーティとしました。
想定人数が六名ということは、遊ぶたびに――
「よーし、お前ら、六人組になれ!」
と言われているのと同じです。
読者さんの中には、軽くトラウマを刺激された方もいるでしょうか?
そうです、あの『二人組を作れ』の三倍です! こんなのはシステムハラスメントにほかなりません!
まあ、冗談はさておき――
『VRMMOでペアハントが可能なのか?』
という命題でも、かなり悩まされました。全くリアリティが無いように思えたからです。
VRというのは要するに……ある程度は、現実に置き換えて考えられるでしょう。
ペアハント中に五匹のモンスターと遭遇を考えてみます。
五匹のモンスターでは想像しにくいでしょうから……五人のヤクザか不良で良いでしょう。手には木刀だとか、釘バットだとかを持っています。
タンク役は、この五人のタゲを引き受けるのがセオリーなのですが……そんなことができるのでしょうか?
もちろん、モンスターは理詰めでは動きません――このことについては、本編で説明してあります――から、タゲを引き受けるところまではいけると思えますが……いまいち映像にしずらく感じます。
映像にならないというのは、要するにリアリティが無さ過ぎるか……とうてい実現不可能なシチュエーションということです。
ソロやペアで遊んでいる層は、それで困らないような狩場で――三匹以上と同時に闘わないで済むような場所で遊んでいるのでしょうか?
少人数ではかなりの工夫が要るようですし……とにかく実戦を考えると、人手はいくらあっても足りない気がします。
では、理想的パーティ人数は十名――近代の戦争まで続いた最低人数――程度とするべきでしょうか? ……それはそれで、別の問題点が生まれそうです。
まともに遊ぼうとしたら『常に十名が楽に集まる環境――もしくは集める能力が必要となる』ということですが、少しハードルが高すぎます。
MMOは人を集めるのが楽な方ですが……『安定して人を集める』のは、どんな環境でも困難の一言です。
目的によって難易度は変化していきますが……多人数が必要であればあるほど、集める側の負担は膨大になっていきます。
場合にもよりますが、二桁辺りから参加者全員の予定表提出が必須。三桁を超える辺りで、専属の運営役が必要になるでしょう。
違うアプローチから考えると……必要最低限の前衛枚数は想定可能です。
そして、それは三人ではないでしょうか?
論拠は本編でカエデも言ってますが、一番小さな守りの陣形を――面積を作るのに三人は必要だからです。
その前衛三人が守れる規模も――少なくともモンスター相手なら、前衛と同数の後衛を守れるとするべきでしょう。
本編でも描写してますが……VRゲームで前衛、それもタンク役なんて不遇の不人気職にしか思えません。プレイヤー人口が多いのは、おそらく後衛職です。頼れるタンク役は引く手あまた……そんな想像すらできます。
ただでさえ盾役は少ない予想なのに、後衛職を守るには同数以上の前衛が必要だ。
そんなゲームバランスだと、破綻もあり得ます。システム側で回避するべき問題点で、多少は誤魔化し易くしてあるでしょう。
最低限の前衛枚数は三人なようで……さらに同数の後衛は守れるべきだから……最低限のパーティ人数は六名となります。
この辺の考察から、本作では『想定パーティ六名』です。
仮に一人少なくとも、五名だったら『知恵と工夫で対処』で良いでしょう。それを楽しみ、喜ぶプレイヤーだって居るはずです。
五名前後の仲間を安定して確保であれば、集める側の負担も軽く済みます。自分が遊びながらも、少しだけ仲間の為に。その程度で収まるでしょう。
それ以下の人数だったら、少人数用狩場へ行ってもらいます。
少人数向けは必須となるでしょう。そこはソロやペアで程よい難易度で、リアリティも損なわない設定に――都合の良い感じにしておけばいいのです。
要するに住み分けですが……ある意味で隔離ともいえます。
ソロやペアが専門のプレイヤーは、不自由を感じるかもしれません。しかし、現状でも散見できるような……ほとんど全ての場面でペアハントが通じてしまうゲームよりは、マシでしょう。
実際、ペアハントで事が足りるのなら、パーティを組む意味はありません。
さらにギルドなどのコミュニティ形成の否定にもつながります。
システムが率先してプレイヤーコミュニティを形骸化してしまったら、ペアハントオンラインとなってしまうでしょう。そしてその状況に陥っているMMOは多いです。
まあ、ペアハントオンラインやソロ専用ゲームは、比較的バランス調整しやすいので、事情は理解できるのですが……。
逆にパーティ可能人数が多くとも……実のところ、実際に困る人はどこにもいません。
確かに余剰人数分だけ、パーティは――プレイヤーは強くなるといえます。
それで少し難易度の高い狩場へ挑むのもよいですし、楽になった分だけ……のんびり気ままに、緩く遊んでも良いでしょう。
作者は男だからなのか、ゲームと言われると……血走った目で突き詰める感じの……極める方向の遊び方が好きです。
最近でこそ『とにかく何かに勝つため頑張る』スタイルから、なんとか脱却できた気がしますが……男性の読者さんになら、ご理解をいただけると思います。
しかし、それが全ての価値観ではありません。
もう放課後ティータイムとばかりに、緩い空気が大好きなプレイヤー層もいるはずです。というか、います。『けいおん!』ならぬ『ねとげ!』の勢いです。
そんな人達はゲーム難易度が下がって歯応えが無くなることよりも、一つのパーティに仲間全員が収まって、皆でワイワイやることの方が大事です。
そしてその価値観は、作者の様なガチゲーマー勢となんら変わらないものです。両者の間に優劣はありません。どちらの立場であろうと、ゲームを楽しんでいるのですから。
しかし、コアなゲーマー層の方からは「パーティ可能の人数が多ければ、それだけ難易度も下がってしまうのでは?」などと問われそうです。
ですが、作者はこう考えています。「それのどこに問題があるのか?」と。
だいぶあちこちへ話は飛びましたが、再び『ドラクエⅢ・オンライン』へ戻りましょう。
知らない方への補足で説明しますと、ドラクエⅢはアリアハン大陸で物語は始まります。
主人公の人生の目標、悲願は『魔王バラモス』と言う名前のカバ退治ですから……広い世界へと旅立たねばなりません。なぜなら、どこに居るのか知らないから! とにかくアリアハン大陸に居ないことだけは判明しています。
紆余曲折あって……昔は使われていた『旅の扉』というワープ装置で、他の大陸へと移動できることが判明します。
アリアハン大陸を出発した後も、色々とあるのですが……アリアハン出発までは要するにチュートリアル、序章にすぎません。何一つとして物語は進んじゃいない。そんな感じです。
しかし、『ドラクエⅢ・オンライン』に置き換えて考えると……全プレイヤーの一割程度は、アリアハンを脱出できないと思います。
「そんな馬鹿な!」と仰る方も居られるでしょうが……ドラクエⅢをMMOに変換すると、全く正しい予測だと思われます。
超人気MMOだとして――プレイヤー人口百万人規模であっても、十万人ぐらいはアリアハンから出られません。少なくとも、自力での脱出は不可能でしょう。
ドラクエⅢでいうと四人パーティで、各自のレベルが五を超えている。装備も中規模程度は揃った。その程度で抜けれるのですが……逆を言うと、自分を含めて四人の真面目に遊ぶプレイヤーが必要です。
少なくとも完全ソロ志向では、容易に達成できない条件でしょう。
その場合は、かなり条件が変わりますし……仮に新大陸へ到着したとしても、次はそこでソロという難題にぶつかります。
アリアハンを脱出した後は、とあるキーアイテム――『まほうのアレ』のことです――を入手することで行動範囲は爆発的に広くなるのですが……おそらく新大陸に到達した人の三分の一は、入手できません。
全体でいうと四割程度でしょうか?
知らない方に補足すると、まだ物語はやっと序章が終わった程度か……どんなに好意的に解釈しても、第二巻のプロローグ程度です。それも全十巻ぐらいはありそうな物語の。
さらにその次に、とある移動手段――まあ、伝統のアレです――を入手することで、勇者一行は全世界を自由に旅することになりますが……おそらく、そこまで到達できるのは上位三割程度です。全体の七割は海外へ出れません。
最初の不可避ボス(FC版での条件)が最大のネックで、なんとか奴をねじ伏せる力が必要です。
四人パーティであっても、適切なレベルと装備が必要になります。レベルや装備が不十分だったり、人数が少なかったりでは、絶対に突破できないでしょう。
MMOでは常に、この問題がついて回ります。
自分だけが強くても、ボスなどの難所が突破できないのです。これは最初のボスなので、大した難易度ではありませんが……後続のボスなどは、会うだけで相当な強さを要求されます。居場所に辿り着くのにも、相応の強さを要求されるからです。
そんなのレベリングすれば良いのでは?
などとお考えになられた読者さんは、MMOの構造欠陥をご理解していません。
基本的に、他人のレベリングは不可能です。手助けは出来ますが、本人がやらないと駄目です。
当たり前じゃないか思われるでしょうが――
これが大問題を生みます。仮に次の難所を抜けるのに、十時間のレベリングが必要としましょう。
この十時間という要求、人によって重さが違います。
大学生などの、時間に自由が利く人なら――
「明日までには! 最低でも、明後日までには終わらせときます!」
と答えられるでしょう。しかし、社会人なら――
「一週間かな。平日、一時間ずつコツコツとやって……土曜の夜に足りない分をなんとか。日曜は……期待しないで欲しい。その予定じゃ寝てるか、使い物にならないかだよ」
がベストアンサーでしょう。普通は――
「うーん……一週間、いや、二週間でなんとか……仕事の都合しだいでなんとも……とにかく、確約はできないよ」
が関の山です。それどころか――
「一ヶ月はかかるよ!」
と即答すら、あり得るでしょう。
オフラインRPGでは当たり前の……パーティ全員が育っていくだとか、強くなっていく結果。それはMMOだと、かなりの幸運に恵まれる必要があります。
誰かが意識的に調整しないと、パーティバランスなんて取れませんし……パーティが育つこともあり得ません。
基本的に強く出来るのは自分だけ。もしくは――自分だけが仲間から置いていかれます。
さらに止めなのが……十時間程度のレベリングなんて、MMOにおいては準備体操レベルなことです。
一般的なMMOなら、一レベル上昇させるのに数十時間かかるとか、ざらだったりします。これは全く誇張していません。オフラインRPGの十倍から百倍は、レベリングに手間が掛かります。
話を難関突破率に戻しますと――
バラモス城に到達できるのは、全体の一割未満となるでしょう。
魔王バラモス本人と会えるのが、その半分。さらに勝てるのが半分とすると――
全体の二パーセント程度しか、バラモスを倒せないとなります。
そして、この見積もり……実は甘々なんです!
実際に『ドラクエⅢ・オンライン』というものがあったら、バラモスを倒せるのは全体の一パーセントを切るでしょう。
MMOでビッグネームボスを、全体の一パーセントが倒すというのは……つまり人気タイトルなら百万アカウント状態でしょうから、その一パーセントで……一万人が倒している計算になります。
さすがにそこまでは倒されやしません!
というよりも一日に十回倒される計算、挑戦者が必ず四人パーティだったとしても……一万人の突破者が誕生するまでに、二百五十日が必要になります。
そして、この狭き門を潜り抜けて……やっとバラモスの先――次の世界です。
MMO運用の実例でいうと……とりあえずバラモス城まで実装、その次でバラモス本人実装などと、小出しというか……細切れに発表されます。
商売的に正解でしょうし、製作作業的にも効率が良いはずです。
そして宣伝では『いよいよバラモス城実装!』などといった煽り文句になるのですが、これが実は……醒めること、この上なかったりします。
『いよいよバラモス城実装!』 ――ただし、一般人には到着できない。
『ついに魔王バラモス光臨!』 ――ただし、一般人は拝謁すら不可能。
『なんとバラモスを倒すとry ――ただし、一般人ry
もう、何の目的で開発しているのか謎で……「一般人である我々は、果たして客なのだろうか?」といった疑念すら覚えます。
そんな状況なのに――
「パーティ可能の人数が多ければ、それだけ難易度も下がってしまうのでは?」
などと言われても、ちょっと理解に苦しんでしまいそうです。
そりゃ、本来は四人パーティで倒すはずのボスを、ほぼ倍の七人掛りで挑んだら楽になります。ボスによっては、全く強みを発揮できない可能性すらあるでしょう。
七人パーティが組めてしまう理由も、MMOの仕組みが必要としているだけで、戦闘バランス調整とは無関係です。仕様の悪用ですらあるでしょう。
それでも――
『基本的にゲーム攻略は、廃人四人のフルパーティが必須』
よりはマシだと思います。
それは即ち、自分自身が廃人にならないと駄目ということでもありますから。
「でも、仮に廃人七人フルパーティを想定すると……どんなボスでも簡単に、それも早期に倒されてしまう」
なんて危惧もあるでしょう。しかし、そんなのは――
「さっさとクリアさせてしまえばいい。廃人な上に温い作戦を選んで、ゲーム難易度を論じられても困る」
としか言い様がありません。
仮に廃人七人パーティグループが十四組いても、総勢で約百名です。人気タイトルだとしたら、総人口は百万人ですから……全体の一万分の一に過ぎません。十倍にしたって千分の一です。
その少数意見というか……かなり特殊な常連に重点を置いたら、商売になりません。
ゲームとしても成立しないでしょう。廃人になると楽しめるということは――残った全体の九十九パーセントは楽しめないということなんですから。
まあ、以上は誇張した見解ではあります。
いくら『ドラクエⅢ・オンライン』を仮定といっても、オフライン用シナリオをそのままスライドでは齟齬が生じるでしょう。伝わりやすさを重視といっても、少し無理はあります。
それに標準的な終わり無きハックアンドスラッシュタイプ――ドラゴンボールなどと同じ『作り』のことです――を選択したシステムの問題点です。
もう一つのパターン、高レベル熱死型では起きない問題でしょう。
高レベル熱死型とは……要するに、誰だろうと容易にレベルカンストできるタイプのシステムです。こちらは誰でも最高レベルに到達可能で、最終ボスすら倒せるのが長所ですが……他人との差別化が難しいのが欠点となります。要するに全員が同じ能力ですから。
ただ、まあ……一般論としては説明できたと考えています。
色々と裏で考えて『想定パーティ六名』。さらに理屈があって『最大パーティ人数は想定パーティの倍』、つまり『最大パーティ人数十二名』と設定してはあります。ただ――
べつに発表しなくても良いような?
いや発表は良いとしても、本文中でやる必要は?
というか、タケルの一人称じゃ大変だし限界もある! さらにいうと、そのせいでテンポが落ちてるよ!
もうさー、そんなのはさぁ――
「いちおー、裏で設定とか考察とかしてありますから!」
と言っておけば良いんじゃ? 実際、それなりに考えてはあるんだし。
もぅマジ無理! よし、別にしよ!
……割と省略された説明部分は多かったりします。ついでに言うと、『教授』や解析チームの出番なんかもです。余波でカイの出番も減ったけど……まあ、大丈夫に違いない!
そう開き直ってしまうと「あの解説とかも、別枠にした方が良かったな」だとか結構あります。というか……もし書き直しをするのなら、だいぶ違った形となることでしょう。
……まあ、それも味と言うことで!
作者の初々しい失敗が見れるのは、今だけ! もう少し経験をつむと……ふてぶてしい失敗になってしまいますからね!
そんなこんなで、『最大パーティ人数十二名』の解説を本文では割愛しました。基本的な根拠は、この場で述べたものとなります。
信じてください、何でもはしませんから!
……それでは、また!