回避不能攻撃の研究
あらすじ
きっかけは某水曜日のダウンタウンというバラエティ番組に登場した日本最速のピッチングマシーンでした。
その球速、なんと時速307km!
元プロが挑戦しての結論が――
バントも無理。絶対に打てない。
もし成功しても、それは出鱈目に振って運よく当たったパターン。
だったりするから驚きです。
なるほど、なるほど。
いわゆる不可能事で、人類の限界突破って奴でしょう。
……うん?
でも、本当の限界点はどの辺なのだろう?
から考えた色々!(苦笑)
1 人間の反射速度には限界がある
音が鳴ったら手元のボタンを押す。
こんな単純な作業ですら、人間には限界が――タイムラグがあります。
その数字は才能に恵まれた人が訓練して、やっと0.1秒まで短縮!
誰でも到達できる数字ともなれば、0.2秒といいます。
つまり――
0.00秒 音が鳴る
0.10秒 よし、音が鳴ったぞボタンを押そう
0.11秒 ボタン押される
というタイムスケジュールで、凡人なら倍ということです。
この例ではボタンを押す程度なので0.01秒で終了してますが、これがバットを振るなどの場合は、さらに掛かります。
プロ選手でバットスイングは時速140kmぐらいだそうで、ざっくりと2m程度を進むと考えましょう。
これを1動作にかかる秒へ直すと――
約0.05秒!?
計算間違えたかな!?
トップ・オブ・トップで時速160kmの人とかもいるので、まあ良しとしましょう(苦笑)
そして反応速度は0.15――選ばれし者と凡人の中間に。
よってタイムスケジュールは――
0.00秒 球が発射される
0.15秒 球が来たぞ、コースを予測しながら、動き出せ
0.30秒 予測完了、バットを振り始めろ
0.35秒 バットが振り終わる(ボールが通るコースを通過する)
です。
あとは時速307kmのボールが、いつベース上を通過するのか考えればOKとなります。
マウンドからホームベースまでは18.44mだそうですから、そこから計算して――
約0.21秒!
うん、まあ一般的には無理というべきかな!(苦笑)
反応速度を0.1秒で考えても0.25秒必要なので、もう人類という生物の構造的に無理です。
まだコース予測すら終わってませんし!
それでも当てようとしたら発射確認と同時にスイングスタートしかないですから、プロの見解は非常に正しい――打てたところで運任せの出鱈目といえます。
また、ここから逆算するに――
時速265kmぐらいが、人類の打てる限界点かな?
2 そして男塾理論が炸裂!
このピッチングマシーンは0.21秒ですが……一般的に0.2秒以下の出来事だと、人類は対処できないとされています。
でも、意外と0.2秒で到達な攻撃は実在する?
まず上記のバットが該当します。
振り始めてから当たるまで、たったの0.05秒ですし!
理論上は避けられない攻撃と――
なる訳もなく、それなりに回避可能です。
それはバットスイングの『起こり』がステップからだからで、攻撃開始から終了するまで0.2秒以上です!
つまり、逃げる側は足が上がったと同時に回避すりゃいいとなります。
ようするに――
相手の身体全体の微妙な動きから、次の攻撃を推察
したことに。
……うん?
それって男塾に出てきた――
體動察!
まんま體動察じゃないか!
あれ実在する技だった!? 民明書房の癖に!?
しかし、ジャンプ漫画の嘘テクと切り捨てる訳にはいきません。
なぜなら、これがないとボクシングは成立しないから!
世界トップレベルなボクサーのジャブは、なんと時速50km!
つまり――
0.1秒で1.3m先まで届く速度!
そしてボクシングの間合いは1mあるかないか。つまりは0.1秒未満!
もう人類のトップレベルであろうと、絶対に避けられません!
だって認識するより先に命中しているんですから!
……とはなってないんですよね、現実に(苦笑)
同じくトップレベルの選手はジャブを打たれる前に回避開始することで、認識できない攻撃を対処しています。
つまり――
-0.20秒 右肩が僅かに下がった。右ジャブを打つつもりらしい
-0.10秒 こっちも右へステップだ。動き始めろ
0.0秒 ジャブ発射
0.05秒 回避完了
0.10秒 ジャブ通過
ということです。
そして大半の方が――
-0.2秒の段階で気付かれないように、右肩下げなきゃ良いんじゃないか?
と思われたことでしょう。
その通りですし、上記の例だと察知されるのが-0.14秒未満だったら、回避されずに命中しています。
なのでボクサーの方は非常な努力を重ねていらして、『攻撃の起こり』が短くなるようフォームチェックを丹念に。
当然、試合相手の『攻撃の起こり』を、0.01秒でも早く察知できるように研究もです。
そしてボクサーの前でパンチを振りかぶると、大半の方がキレられますが――
まあ実際、侮辱にも等しい
でしょう。
努力の全否定に近いですし?
3 そして実在の可能性が高い厨二技――無拍子!
無拍子というのは日本系武術の奥義の一つで、簡単にいうと――
見えているのに避けられない
という凄い技!
さすがに実在を疑問視するしかない?
しかし、攻撃を回避する場合、絶対に必要なトリガーがあります。
それは――
攻撃を認識する
です。
つまり相手に『攻撃の起こり』を察知させなければ、いつまでたっても回避行動へは移れません。
攻撃と認識できてないんですから、回避もしない――できないのは当たり前です。
タイムスケジュールで表すと――
0.0秒 攻撃は開始されているが、気付けてない
0.1秒 まだ気付けてない
0.2秒 痛い! 斬られている!
額面通りに受け取ると、こうなるので……まあ、オカルトじみています。
でも、全く予兆のない究極のジャブだと同じような結果だったり。
0.0秒 ジャブ発射
0.1秒 相手側がジャブ確認&ジャブ命中
となり、事実上の認識&回避不能攻撃です。
また、さらに無拍子を過大解釈すると――
0.00秒 攻撃開始
0.10秒 えっ? 攻撃されてる!? いつの間に!?
0.20秒 回避しろ!
0.29秒 攻撃が命中
0.30秒 回避開始
で、「見えてはいたけど避けれなかった」となります。
ようするに『攻撃の起こり』を遅れて気付かせる――錯覚させるテクニックだった?
また、攻撃速度も相手へ0.29秒で届けばよいので、相当に遅いとなります(時速12km。100m30秒のペースで、ランニングぐらい)
そして、この計算は反応速度0.1秒の選ばれし者の場合。
一般人レベルな0.2秒で限界の遅さを考えると――
0.00秒 攻撃開始
0.20秒 攻撃を認識
0.40秒 回避を決意&開始
0.59秒 攻撃命中
0.60秒 回避完了
この時の攻撃速度は、なんと時速6km! もはや早歩き程度! 文字通りに蠅が止まる!
ここから結論として――
攻撃の肝は、前兆がないこと
に尽きる様です。
だってスポーツ科学を極めた現代ボクシングと古武道で、ほぼ同じ結論に達しているんだもの!
4 そこまで速い必要ある?
さらにツッコんでいくと――
相手へ0.1秒で届くのなら、それ以上の速度は無意味
と言えるかも?
これは間合いが1mなら時速36kmで――
0.5m 18km
0.75m 27km
1m 36km
1.5m 54km
2m 72km
となります。
先ほどプロのバットスイングが時速140kmだったので――
棒状武器なら、どれでも0.1秒未満で敵に届く
といえそうです。
ダガーなどでも、おそらく間合いは0.5m以下でしょう。プロボクサーの最高速度から考えると時速18kmは楽勝過ぎます。
どころか――
鉄山靠のような体当たりですら、トップレベルは0.1秒で!?
(時速36kmは100m10秒であり、人類の限界レベルではあるが到達可能)
……というか鉄山靠って、想像の数倍はヤバい技かも?
きちんと習得してモーション読まれないレベルになったら、一撃必殺な上に回避&認識不能だった!?
そもそも体当たりというのが強い技だし!?
……八極拳の奥義となる訳です。
また、日本の剣道って無意味に剣速至上主義なような?
間合いを1.5mと仮定し、踏み込みも合わせて0.1秒とします(トップレベルは、これに近い数字のようです)
この攻撃速度は時速54kmで、血の滲むような修練の果てに10%ほど加速できたとしましょう。
つまり、最終的には時速59.4kmです。
結果――
到達時間は0.09秒に!
……これ労力と見合っているかなぁ?
地道なフォームチェックで『攻撃の起こり』が察知されるのを、0.01秒遅らせる方が達成しやすいような?
天井として『0秒』=『察知されなくなる』というのがあるけど……そうなったら全ての攻撃が絶対命中ですし?
そして察知され難くなれば到達に0.1秒以上かかっても――時速54km以下で事足りるようにも?
……まあ、作者の見分範囲が狭い可能性はあります。
5 そして居合! さらに示現流!
この前兆という考えにおいて、居合は圧倒的となります。
なぜなら極めた場合、『モーションの起こり』と『攻撃開始』を同時にできるから!
そして剣道の踏み込みに同等と考えれば、全行程は0.1秒! つまりは究極のジャブと同じ! もはや絶対に避けられないレベル?
どころか、そこまで極めずとも――
前兆モーションを0.1秒未満に収められれば、同じ結果に!
-0.09秒 攻撃モーション開始
0.00秒 実際に抜刀開始
0.01秒 攻撃認識される。相手側、対応開始
0.10秒 攻撃完了
0.11秒 相手側、対応終了(間に合わず)
つまり、抜刀術を相手に構えられちゃったら、かなり詰んでいる状態? 人類の限界レベルでも回避不能ですし?
普通の攻撃だとモーション読まれるだろうから、後出しでも相手が間に合う?
考えられる対処法は――
-0.09から0.00秒の間に動き出すタイミングでバックステッポだけ
かも?(目安なしで見切るとか無理ゲー)
タイミングが早いと相手にバレて、ステップ中を狙い直されるでしょう。
しかし、僅かでも遅れると先に攻撃を当てられます。
………………うん。
そりゃ『先に動いた方が負け』だの『相手の呼吸を計る』だの言いだす訳です!
だって、尋常な方法じゃ駄目だもの!
※
合気道的な考えだと、息を吐いた瞬間に人は動き出せない仕組み。
なので吐いた瞬間――相手は対応が遅れる――か、吸う寸前――相手は動き出す可能性が高い――に合わせる……となるのかな?
そして作者の私見ですが示現流――というか上段の構えは、居合と同じギミックを搭載しているように思えます。
『振りかぶる』を省略できますし。
※ 示現流が強い理由には、ひじょーに多くの異説あり
ただ、どちらも同じく防御が弱い欠点があるようです。
※
これは至極単純に理解可能でしょう。
武器というのは受ける道具としても使えるのに、それを振りかぶった姿勢で構えたり、鞘に収めたままだったりですから……御世辞にも守りに長けているとはいえません。
やはり、主流とならないだけの理由があります。
全世界的に基本は中段の構えですし。
6 飛び道具を避ける、打ち落とす
ついでに創作でよくある『飛来してきた矢を打ち落とす』限界を。
野球と同じく両者間の距離を18.44m、矢の速度は限界近くの時速180kmとします。
すると到達にかかる時間は――
0.3688秒!
意外といける?
しかし、この速度だと専門家な野球選手ですら、絶対確実にはいきません。
不可能ではないけれど、打ち落とすのなら才能か練習が必須。
でも、回避や盾を合わせるのなら、一般人レベルでも不可能ではなさそう。
しかし――
矢が放たれる瞬間を目撃できた場合に限る!
ともいえるでしょう。
なぜなら野球のピッチャーに比べ、圧倒的に前兆モーションが少ないから!
普通に引き絞って、タメを作らずに放たれれば対応しやすいかもですが……準備完了状態からだと、回避は至難に思えます。
その状態からだと発射を認識するのに、才能があっても0.1秒は必要で、最初の0.3688秒から0.1秒を引いてしまうと、残されるのは0.2688秒!
さらに対応策を決めるのに、少なくとも0.1秒は必要です。
つまり――
0.1688秒でなんとかしろ
ということです(苦笑)
一応、色々な体術やスポーツを参考に考えると、身体一つ分の移動は可能でしょうか?
しかし、これは全て選ばれし者たちの場合。
反応に0.2秒かかる我ら凡人では、ギリギリ躱せるかどうか。
ましてや放たれた後に認識では、なんの対応もできず命中でしょう。
発射確認に0.2秒、対応決定に0.2秒、実行に0.1秒強で計0.5秒強が必要と考えると――
凡人が避けられるのは25m以上先から撃たれた場合
と思われます。
このタイムスケジュールに前兆モーションも加算可能ですから……近~中距離なら意外と避けれる?
※
凡人で構えられていようと、「発射と同時に伏せよう」などと決め打ちしておけば、さらに速く対応できる……はず。
逆に「合図をしたら――」的な作戦は逆効果でしょう。
『合図をする』に『合図を認識する』と……ただでさえ余裕のないタイムスケジュールを圧迫してしまいます。
……完全な信頼関係を築けていて、パートナーが機械的反応をできる場合を除く。
ただ、これはあくまでも一般的な強弓レベル。
同じかそれ以上のパワーを持つ機械式クロスボウや、数倍の速度となる銃器だと絶望的でしょう。
また、より遠距離の場合は、さらに条件が悪く。
それは――
一定以上の距離だとゼロ距離射撃――水平発射はしないから
です。
ようするに避けるべき矢は上空から!
当然に対処するのなら、戦闘中に上の空となる――空ばかり気にするリスクを負わねばなりません!
(もしかしたら、これが語源!?)
それでも一応は、射出された後でも対応可能でしょう。
……認識さえできれば。
しかし、弓での遠距離攻撃は狙って撃つ類ではないので……躱すという対処法が正しいのか疑問も残ります。
飽和攻撃――面制圧された場合は、避けきれそうもありませんし?(苦笑)
ついでに手投げ武器なども考えてみましょう。
ここでは間合いを、まずは5m。手投げ武器の――投げナイフの重量は判りやすく硬球の約三倍――450gとします。
硬球の投球速度150kmから考えると、投げナイフの最高速度は50kmです。
※
質量×速度=エネルギー。
そして投球術は、スポーツ科学の粋=人類が生み出せるエネルギーの限界に近い。
また生み出せるエネルギーが同じであれば、速度は質量に反比例する。
この時、ナイフが標的に届くまでの時間は――
0.36秒!
一応は避ける余裕あり?
振りかぶるモーションを見ていなくとも、可能ではありそうです。
……さらにはキャッチすら?
反射的に回避程度なら、凡人でも起こり得るでしょう(基本的に凡人は当たる計算結果)
モーションを確認できていれば、意識しての回避すら可能かもしれません。
しかし、これが3mの間合いとなると――
0.216秒!
前兆モーションを見ていない場合、凡人では認識できるかどうかなレベル(当然に回避は不可能!)
天与の才能があってもモーションなし――振りかぶった姿勢からの回避は無理? それともギリギリ?
……NINJYAがスリケンを使うのは当然だった!?
ほぼ似たような間合い感覚の管槍が回避不能というのは、かなり現実的な観測結果かもしれません。
当然、速度増加でも同じ結果に。
つまり、5mの距離で強弓を構えられると、到達時間は――
たったの0.1秒!
限られた天才が『発射と同時に伏せよう』と決め打ちしても0.2秒必要です。
つまり――
絶体絶命! 避ける結果だけはあり得ない!?
そして倍の10mでも似たような結果が!
……銃器以前の時代、5~10mの距離で複数人に弓を構えられたら『詰み』なようです。
意外と弓の冒険者って成立する!?
そして機械式でない単純なクロスボウも「飛び道具なのに近~中距離用」と考えれば傑作といえなくも!?
前衛のサポート兵種として強そうですし!?
7 結論
おそらく創作に『回避不能攻撃』や『そのロジック』を持ち込むべきではありません。
なによりも――
説明がクドい! 面倒! 数字がたくさん!
やはり、この辺は――
凄い反射神経とか恵まれた才能、人間離れした身体能力、修練の成果、上乗せされる不思議パワーetc.etc.
と逃げた方が無難でしょう。
それで創作界隈は回ってきた訳ですし。
一度でも『回避不能攻撃』を作中で出してしまったら、それ以後は回避できない前提の嵐となるのに決まってますし!
おそらくハイパーインフレよりも性質が悪く、つまらない作品になるでしょう。
なので残念ながら『無拍子』も扱わないのが吉だと思います。
あれを説明しようとすると、どうしても『回避不能攻撃』への道となりますし。
※
達人のみ可能な『境地』に依存する技へ逃げる手はあると思います。
というわけで――
『回避不能攻撃』と『そのロジック』は、扱わないのが正しい。
創作者としては、突っ込まれない程度に理屈や常識的な限界だけ理解しておく。
を作者なりの結論として終わろうと思います。




