「それでもやっぱり『物体は重い方が速く落ちる』んだ!」と頑なな同志へ 『ゆで理論』のちょっとした応用による解説
※ 知らない人向けの簡単な説明
この話のメインテーマは、昭和の名作漫画『キン肉マン』において、登場人物の『ロビンマスク』が使用した技『ロビンスペシャル』を巡って展開された『ゆで理論』についてです。
〇『ロビンスペシャル』とは?
・相手を天高く放り投げ
・自分も後を追って舞い上がり
・空中で相手と合流
・質量を増すことによって落下速度を速めつつ
・首4の字固めを極めた状態で着地して、相手の首へ強烈なダメージを叩き込む技
〇『掟破りの逆ロビンスペシャル』とは?
『ロビンスペシャル』の過程で――空中で相手と合流する寸前で、後から飛んだ『ロビンマスク』が、先に投げられた自分より先に落下できるのは、重さ――身に着けた鎧の重量にあると、対戦相手の『喧嘩マン』は看破。
さらには空中で落ちながら『ロビンマスク』の鎧を強奪することによって――重くなることによって加速!
これによって技の仕掛け手と掛けられ手は、全くあべこべの位置関係に!
そのまま『喧嘩マン』が首4の字固めを極め、『ロビンスペシャル』を逆に食らわした返し技となります。
〇『ゆで理論』とは?
漫画家『ゆでたまご』先生の展開される、現実の正しい物理法則とは異なる法則や結果。場合によっては思想などを含めることも。
「というかジャンプのバトル漫画で、科学的考証とか判ってないぜ」などとツッコまれたら、返す言葉はありません。
基本的にはファンが親しみを込めて使っているので、ギリギリセーフかな?
さて『物体は重い方が速く落ちる』で有名な『ゆで理論』ですが、もちろん間違っています(苦笑)
『ロビンスペシャル』の骨子も、返し技である『掟破りの逆ロビンスペシャル』の理屈も、『質量のある方が落下速度は速い』を論拠としてますが、これは――
『質量(重さ)とは無関係に、物体は同じ速度で落ちる』
という事実で反論できます。ガリレオの逸話としても有名なアレですね。
多くの人が違和感を覚えていようと、これは実験で立証できるので間違いありません。
もし納得がいかないのであれば、『物体が重い方が速く落ちる』場合で考えると、すぐに理解できるかと思います。
まず何でもよいので、何かを――ここでは野球のボール約百五十グラムとしましょう――落とします。
……落ちました。
何も特別なことは起きず、おそらく読者の皆さんが想像した通りだと思われます。
さて、ここからが思考実験の肝です。
重さ一グラムな一円玉を同じように落とすと、果たしてどうなるでしょうか?
もちろん、この場合は――
『物体は重い方が速く落ちる』
の考察に則ってです。これは別の言い方をすると――
『落下速度は重さを係数としている』
とも言い換えれるので、質量比は速度比と等しいか、因果関係を持ってなければなりません。つまり、簡単に言い換えると――
一円玉は落下するのに一五〇倍の時間を必要
となります。
『物体は重い方が速く落ちる』のであれば、逆にいうと『物体が軽い方が遅く落ちる』な訳です。
……念のために断っておきますが、そんなことは絶対に起きません。野球のボールと同じくらいの時間で地面へ到着します。
ここから――
『物が落ちる速度と重さは無関係である』
と解って貰えたでしょうか?
しかし、説明しておいてなんですが、読者諸兄は絶対確実に納得しています。それには――
カシオミニを賭けてもよいです!(確信)
こんなシチュエーションを想像してください。
友達がボール大の大きさの何かを、「ほら、あげるよ。投げるから受け取って」と放り投げてきました。その時、貴方は――
軌道を予測するのに、投げられた物体の質量は考慮していません!
これは絶対にです。それがなんであろうと一定の軌道を、常に予想します。
なぜなら、『物が落ちる速度と重さは無関係である』から――
『投げられた物も、常に一定の速度で落下する』
と経験則的に知っているからです。
これは犬猫ですら学習可能なので、知能レベル以前の話ともいえます。この惑星で育った生命で、学習能力を所持しているのなら、確実に習得する知識でしょう。
それでもやっぱり、俺は『物体は重い方が速く落ちる』と感じちまうんだ!
これは理屈じゃないんだよ!
と仰る方はいると思います。
……実は作者も、そっち派の人間だったりしました(苦笑)
冒頭の『ゆで理論』も直観的には間違いとは気付かず、指摘されてからようやく気付いたほどです。
きちんと理解するのにも、三〇秒ぐらい掛かりましたし。
ですが、これにはちゃんと理由があります。
言い換えるのなら『物体は重い方が速く落ちる』と錯覚してしまう原因がです。
それは『質量とは無関係に、物体は同じ速度で落ちる』はずなのに、そうではない(と思える)反証で溢れているからだと思います。
つまり――
・世の中には落下速度の違うものがある ←事実
・物体が重いときに速いことが多い ←多いのは事実
・故に『物体は重い方が速く落ちる』 ←事実ではない
と三段論法が脳内で展開されているからです。
ここで科学的に考えるのであれば『落下速度に違いが生じることもある』に注目するべきで、一足飛びに『物体は重い方が速く落ちる』と結びつけるべきではありません。
では、『落下速度に違いが生じることもある』とは何か?
実は簡単なイメージで把握できたりします。
高いところから傘を落とす実験を考えてみましょう。閉じている状態と開いている状態の、それぞれの場合をです。
試みるまでもなく、閉じた状態の方が速く落ちます。これを『物体は重い方が速く落ちる』理論で解析すると――
傘は閉じると質量が増大する。もしくは開くと軽くなる。
という推測が!(驚)
もちろん違います。誰もがこう口にするでしょう。「いや、それは空気抵抗というものがあって」と。
しかし、それこそが真実に他なりません。
『落下速度を変化させたければ、物体の空気抵抗を変えればよい』
という事実の! なぜなら反証的に――
『同じ空気抵抗の物体は、同じ速度で落下する』
という事実も判っているんですから!
以上が、万有引力や数式を使わない『質量とは無関係に、物体は同じ速度で落ちる』の立証手順……になるのかな?
そもそもの発端は、やや不快な手順でこの『ゆで理論』の間違いを教えられ、印象に残っていたからだったり?
真の理系であるのなら、最初の一回でおかしいことに気付かなきゃ駄目らしいです。
………………辻斬り的にクイズをだして、解らなかったからって煽られてもなぁ!
この文章で誰かの留飲が下がることを願いつつ、これにて終わります。
そして次回への伏線に?(苦笑)




