世界
僕は世界だ。
僕の感情は世界とリンクし、僕の感情が世界の動きを決める。
僕は世界の中心だった。
僕が喜べば、世界は喜ぶ。
僕が悲しめば、世界は僕を慰める。
僕が世界で、世界が僕だ。
でも、僕と世界にずれが生じる。
僕に輪郭が生れ、世界と隔たりが生れる。
僕は僕で、世界は僕じゃない。
僕と世界は別の存在となった。
世界には僕のほかに、怖い魔女と、優しい女神がいた。
怖い魔女はとても恐ろしく、僕を罵り、時には叩いた。
優しい女神はとても優しく、僕を包み込み、抱擁した。
僕の世界はこの大抵、この二人のどちらかが存在していた。
魔女に怯え、女神に縋る。
暫くして、この二人が同一人物だと知った時は衝撃的だった。
そう、僕が世界だと思っていたものは、人間だったのだ。
魔女も、女神も、人が見せる多面性。
誰しもが持つ、人間の一側面。
世界とのずれは、他者とのずれ。
それは自分という存在を、人の多面性を理解する通過点。
僕は、僕で、あの人は、僕の母で。
僕は初めて人間になった。
こんにちは、世界。
僕は井の中の蛙だった。
初めまして、世界。
これから宜しく。
僕は人間として生きて行く。
これから先、ずっと。