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いらない人

作者: 安西治

小説投稿サイトで30分以内に「疲れた経歴」というテーマで書く課題があったので挑戦してみました。

 http://webken.info/live_writing/top.php

 時間が押していた関係でやっつけ気味になってしまいましたが、それなりに満足はしています。




 一通り書き終えた履歴書を見つめながら安藤進はため息をついていた。

 たった十数行の職歴欄がアルバイトで埋め尽くされていたからだ。

 彼にしてみれば、それは仕方のないことだった。貧しい家に生まれたばかりに高校に進学することもままならず、中学を卒業してからは何度も職を転々とし、周囲の人が新卒で就職した年齢の頃にはすでに職歴欄が書ききれないほどにまでになってしまっていた。

 (どうせ不採用になるに決まっているのに、こんなに書き込んじゃって何やってるんだろ、俺)

 自嘲のように心の中で呟いた。もっとも、6畳一部屋の築数十年のボロアパートの一室には安東の他には誰もいなかったので、口にしてしまったところで聞く耳を立てる人なんかいやしなかった。

 「おっと、もうこんな時間か」

 机の上の卓上時計が9時半を指していた。今から外に出ないと面接の時間に間に合わなくなる。

 安藤は机の上の携帯と財布に手を伸ばし、足早に部屋を出た。


 数日後、再び部屋の中で安藤進は履歴書を書いていた。

 結局、数日前の面接はただの履歴書と時間の浪費に終わってしまっていた。

 それだけじゃない。面接官は職歴と中卒である安藤への侮蔑を隠そうともしなかった。

 (家が貧しくたって、高校ぐらいは行けるよね?成績が悪かったり素行に問題があったんじゃないの?君の場合はさ)

 その言葉が面接の結果が数日後ではなく即決で不採用を決めた事を安藤は理解していた。

 履歴書の志望動機にいつものように「生活費を稼ぐため」と書き込もうとした時に電話が鳴った。友達もおらず、両親とも死別してしまった天涯孤独の安藤の携帯を鳴らす人間はかなり限られる。そしてそれがお前がいらない人間だという事を名義を変え、声を変えて告げる内容だと言う事は通話しなくてもわかりきった事に思えた。

 「はい、安藤です」

 「もしもし、こちら○○製作所の高木と申すものですが、こちらは安藤進様の携帯でよろしかったでしょうか?」

 「はい、そうです」

 「先日は面接にお越しいただきありがとうございました。こちらの方で検討させていただきました結果、今回ですね、大変申し訳ございま・・・。」

 相手が言い終える前に電話を切った。携帯をたたみ、再び履歴書を書こうとしてその手が止まった。

 (いつまでこんな事やってるんだろ?俺、もうどこにも行く場所ないのに。このまま就職できない状態が続いたら部屋だって追い出されるのに)

 例の震災から2ヶ月がたっていた。震災は東北だけでなく、被災地から離れた東京で一人で過ごす安藤の生活にも亀裂を作っていた。震災の影響で仕事が激減して失業してしまったのだ。それいらい、こうやって徒労を何度も繰り返している。

 

 でも、もういいよね。どうせ居場所もなくていらない人間だから。


 安藤はあと少しで書き終える履歴書を丸めてごみ箱に放り捨てた。いつまでこの部屋にいられるかはわからないけど、一人自分だけが自分の存在を認めてくれる生活が、例え残り数日でもできた方がいい。拒絶され続ける日々にはもうウンザリだ。


 俺の履歴書が職歴を延々と並べられることは、もうない。あとはいらない人として野垂れ死ぬだけだ。 

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