表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

今宵、道化師(ピエロ )は嗤(わら )う

作者: 橘 紫織
掲載日:2012/07/14

プロローグ


 雲一つない夜空の下、微かな月明りだけを頼りに路地を駆ける。

 背後に気配が二つ。前方には四つ。横に抜け道はない。まさに袋小路状態。

 だが黒いフードマントを被った人物は口元に笑みを浮かべ少し広い道で足を止めた。

 前後の黒ずくめの男たちは無言で銃を構える。そして銃の音が鳴り響いた。

 煙が立ち籠める。銃撃が止み煙も収まり始めたその場所には人影も、物も、血すら流れた気配もない。慌てて周囲を見渡す男たち。が、もう遅い。

 ヒュッ という微かな音とともに切れ崩れる銃。次々に血飛沫を上げて倒れゆく男たち。中には首と胴体が切り離されているものも。

 歩むたび道に出来た血溜まりがビチャビチャと鳴った。ズボンの裾に血が跳ねる。

「ヒィッ・・・!」

 生き残ったボスと思われる一人の男が腰を抜かし無様にもガタガタと震えている。交差する視線。瞳に浮かぶ畏怖の色。

「滑稽だね」

 吐き捨てるように言葉を紡げば男は余計に怯え後ずさる。

「checkmateだ」

 細い鋼の糸が月光に照らされた――――


~・ ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


 ドクドクと脈が鳴る。壁に背を預け穴の開いた腹を抑えた。腹から流れる血は止まらない。

 あぁ、もうここまでか。諦念(ていねん )が心を占める。

 目を瞑り聴覚を研ぎ澄ます。黒蝶(あいぼう )は生きているだろうか。

 しばらくすると複数の足音が聞こえた。その内の一つ、先頭にいるであろう人物の足音は男にしては軽い。

「暁(あかつき )っ・・・!」

 切羽詰まった黒蝶(あいぼう )の声。甲高い悲鳴。

 もう目を開けることすら出来ない。血が流れ、聴覚・味覚・嗅覚・視覚・触角、すべてが麻痺している。

 声を掛けられても答えることが出来なくて、そのまま意識は混濁に呑まれていった。


 そして次に目を醒ました時、俺は――――になっていた。



第一章



 明け方、太陽が昇り始めた頃分娩室から産声が聞こえた。が、赤子は泣くことを止め、周囲を凝視し始めた。

 赤子は〝自由〟が代名詞。自由奔放で行動が読めない。それ故に両親や医師はさして気にも留めなかった。

 だから気付かなかった。その瞳が驚愕の色に彩られていることに。


 * * * * * * * * * * * *


 生温かい感触に目を開ける。この生温かいのは血かと思い口を開こうとしたら自分の意思とは関係なく泣いてしまった。

 ギョッとして体を起こそうとしたが重くて動かない。すると浮遊感に襲われ、「元気な男の子ですよ」と白い服を着た女が言う。

 男の子?元気な???首を動かし周囲を見ると全く知らない人間たち。そして鏡から見えた自分の容姿に驚愕した。

 つい先程まで大人の姿で、怪我を負い血だらけだった己の躰は赤子の姿に変わっていた。

 喋ることも、自由に動くことも出来ない。

 生まれ変わったのだと理解したのは男に抱きあげられた時だった。己の父親らしい。

 その男は裏世界とは関わりのない平凡な男に見える。ここは〝普通の家庭〟と言うところなのだろうか。

 すぐに納得出来たのは前世(ま え )に本などで読んだことがあるからだ。だがそれとて少量の知識とでしてか知らない。本当にある出来事だなんて想像もせず、それこそそんなのは本の中だけの出来事だと思っていた。しかもそれを自分が体験しようとは夢にも思わなかった。


 名を付けられた。‘(さとる )’と言う。自分に付けられた名だというのにまるで関心がない。けれどこの名とこれから一生を終えるまで付き合って行くのだと思うと不思議で堪らない。もう‘暁’という殺人者(じんぶつ )はいないのだ。

 そういえば黒蝶(こ ちょう )はどうなっただろう。逃げ切れただろうか。置いていった‘暁’を怒っているだろうか。恨んでいるだろうか。もしかして捜しているだろうか・・・。そんなことを思いながら悟は自然に眠りについた。




 数日後、悟はここが日本であることを知った。が‘暁’であった頃、自分は日本で暮らしたことがないので日本についてそれほど詳しいわけではない。まぁおいおい知っていけば良いだろう。これからの人生、なにもなければ長いのだから。

 それにしても赤子とは不便なものだ。基本的に寝る・泣く・食べる・用を足す、の動作しかしない。脳内は大人だとしても躰は赤子なわけで、自分の思考(おもい )とは反対に赤子ならではの感情が先走る。寝たくもないのに寝て、泣きたくもないのに泣く。そして不自由だ。

 赤子の時の記憶が無いのはそういった〝恥ずかしい〟ことを覚えていたくないから、また覚えている必要が無いからではないかと赤子になった今、俺はそう思った。

 生きていくうちに恥をかくのは自分の行い次第で、赤子は皆同じなのだから。

 そんなことを考えていると母親の顔が視界に入ってきた。楽しそうで嬉しそうで愛おしそうな表情(か お )。幸せいっぱいといった表情になんとも言えない感情が胸中を巡る。



 『オレハアナタノコデアッテアナタノコデハナイ』



 複雑だ。この人のおかげで自分はここにいるが、記憶を、自我を持つ俺は本当の意味でこの人の子にはなれない。きっと俺は両親と一線を引いて過ごすだろう。‘暁’は両親の愛を受けることもなく捨てられた子供で、何より、殺人者に情というものはあってはならないのだ。

 例外なのは捨てられた時から共にいた黒蝶(あいぼう )ただ一人。彼女は半身とも呼べる存在だった。




 十数年の時が流れた。今日、中学生となる。

 悟はやはり両親に対して線を引いて接していた。普通に接する事は難しい。普通がわからないから。だから自分が出来る精一杯の範囲で両親の望む良い子を演じる。これは‘暁’の自我を持つ‘悟’が出来る両親への唯一の恩返し。

 だがそれはただのエゴだと悟は解っていた。




 再開は桜降る並木の下。

 入学式の後悟は近所の河川敷に足を運んだ。何故かはわからないが行かなければならない。そんな予感がした。

 人通りは少ない。しばらく歩くと前方から同じ制服を身に纏った女が歩いてくる。知り合いではない。だから、ただ横を通り過ぎた。

 すれ違った瞬間感じた違和感。振り向けば相手も同じことを思ったようで、振り返りざまに瞳が合った。

 ざぁっと風が凪ぐ。桜の花びらが二人を取り巻く。

「・・・・・・暁?」

「黒蝶・・・」

 前世の名で呼び合う。まるで周りの時間(と き )が止まったかのよう。

 自分も黒蝶(あいぼう )もまったく違う容姿。それなのに気がついたのは偶然か必然か。それとも記憶が、血が、惹かれあったのか。

「――久しぶり」

「うん・・・」

 微笑んだ彼女の眦には涙が。言葉を紡いだ唇は次第に震え始めついには真一文字に結ばれた。胸元で自分の手を包むように強く握る黒蝶の瞳は揺れ、一筋、二筋と頬を涙が流れていく。

 手を伸ばしてきたと思ったらぎゅっと抱きついてきた。それと同時に堰が切れたようにわんわんと泣きだす。変わってないな、なんて思いながらも会えたことの嬉しさが自分にもあり強く抱きしめ返した。

 ただ一人現世(い ま )も前世(むかし )も心を赦した大切な者。

 二人はしばらく抱き合っていた。


  二人の運命が再び交差(クロス )する―――



第二話



 二人はクラスから、学校全体から浮いた存在だった。他人を近づけず、クラスメートや他人と馴染もうとしない。周囲も二人から距離を取って過ごす。

 決して無視をしているのではない。二人の間に入ることが出来ないのだ。それは容姿や存在感からでもあるが、儚げで、どこか神秘的な雰囲気の二人を引き離してはいけないという錯覚に陥るから。


 木陰の下で二人寄り添う。前世(むかし )とは違う平和な現世(い ま )がこんなにも心地よいと感じるのは信頼している人がいるからか。

 日が暮れて、月が昇り始める前に帰宅する。ずっと一緒にいたいと思っても現実はそう上手くいかない。中学生という事実、年齢が邪魔をする。

満月(みつき )、帰ろう」

「うん・・・・・・」

 ‘黒蝶’は‘満月’と言う名を貰った。優しい両親、温かい家庭。まるで夢のような幸せ。けれど(パートナー)がいない。

 捜して、捜して、見つからなくて、沢山泣いた。親に「どうしたの?」って聞かれるたび心が張り裂けそうなほど苦しかった。やっと見つけた彼は前世と全然変わらなくて安堵した。

 そして自分を見つけてくれたことが嬉しかった。

 家に着くまでの道のり。二人に会話はない。

 もともと二人の間に会話は少なく、長く話すことのほうが稀だ。

 例えて言うならば、一を言えば十解る。そんな関係。


 薄暗い道を歩いていると少し離れた場所から爆発音が聞こえた。次にこちらへと向かってくる音。音は揺れながら徐々に近づいてくる。

「なに・・・?」

 悟が満月を庇うように立ちじっと前を見た。

――――嫌な予感がする。

 そう思ったのは悟か。満月か。両人か。

 音ともにバイクが走ってきた。一台、二台・・・。その後ろから道ギリギリの大型トラックがふらふらしながら猛スピードで走ってくる。

「っ、そこの二人、逃げろ!」

 バイクに乗った男が二人を見て顔色を変えて叫んだ。状況を理解出来ずに呆然としていた二人は弾かれたように駆ける。がトラックは止まることはなく、すぐそこに迫っていた。

「危ない!」

 ドンッ と強い衝撃。飛ばされる浮遊感。

 無意識に伸ばした手が伸ばされた手と触れる。手を引かれ、離れないように強く抱きしめられた。

 ふわふわと空間に浮かび漂っているようだ。どのくらい経ったのか解らない。突然瞼越しにピカッと光った。その眩しさに身を捩ると男の声が聞こえた。

『おい、大丈夫か!』

 男の声が聞こえハッと瞼を開く。急いで起き上がれば隣に悟の姿が。ホッとすると同時に、満月は違和感を感じた。

 声をかけられた。そこまでは良い。しかし、この男は英語ではなかったか?よくよく考えれば今いる場所も先程いた場所とは異なっているように思える。

 悟を見ると、すでに立ち上がり男と話していた。なんと対応の早いことだろう。

 立ち上がると躰のあちこちが軋む。一体何が起こったのだろうか。

 ふと(そら )を見上げると、月が二人を嘲笑うように煌々と輝いていた。




 男の話によると此処はアメリカのスラム街の端だそうだ。今は夜中の零時を過ぎた所で彼は仕事帰りに偶々通りかかったのだと言う。

 西暦も、年も、月も、すべてが一緒なのに場所だけが違う。

 自分たちに何が起こったか解らない。ただ一つ、思ったことは二人一緒でよかったということだ。

 記憶を持って生まれ変わった時点で自分たちが普通でない事は解っている。それ故に今違う世界に飛ばされたことなど大した衝撃ではない。逆に二度も同じようなことがあるのかと感嘆してしまうくらいだ。

 だが不思議なのは、ここの雰囲気。ここはかつての自分がいた場所と酷似している。これは偶然なのだろうか。

「・・・普通の人生を送れるかと思ったが無理そうだな」

 男に礼を述べ別れた二人は少し離れた所にある丘に来た。丘の上には大木が一本、その存在を主張するようにドンと立っている。

 その気に背を預けるように立つ悟と根本に座り込む満月。

「私たちが幸せになろうって思ったことが間違いだったのかな・・・」

 前世のことを思えば幸せになろうだなんて愚かだったのかもしれない。

「神は、いないのね」

 もともと神の存在を信じているわけではないがこんな仕打ちをされれば恨み事を吐きたくなる。

 満月は膝に顔を埋める。たしかに神がいるとしたら俺達二人に何を望むのか。幸せを味あわせてから絶望に突き落とす。それが神のやり方か。

 それとも、俺達二人が幸せになることは赦されないのだろうか・・・



第三話



 別世界に飛ばされて数日。

 飢えた街、飢えた人々、耐えない抗争。一般人からプロまで関係なく殺し合う街。二人は武器を手に取った。取らざる得なかった。生き抜く為には。

 自分が恐ろしくなるほど躰は覚えていて、人を殺すことに躊躇いはなかった。まるで「お前は人を殺すことしか出来ないんだ」と言われているかのよう。

 金を手に入れ、まず寝床と食料。必要最低限の衣食住を確保する。自分たちは死ぬために生まれた訳ではない。

 こんなところで終わりたくない。こんな勝手な人生に自分でピリオドなど打って堪るものか。

 生きてやる。生き抜いてやる。

 二人の心に怒りの炎が燈った。




 今の世は便利だ。外に出なくともネットワークで人と交流(コミュニケーション )が持てる。故に外に出ずとも、人に会わずとも依頼はやってきた。

 腕がよければ裏世界の中で名が売れ、依頼も増える。依頼はすぐに殺到した。

 次第に裏世界で脅威と言われるようになった二人は『殺戮(さつりく )道化師(ピエロ )』と言われるようになる。仕事をし終わった場所が血だらけで恐ろしく惨く、殺し方が狂言じみていることからそう名が付けられ広まっていった。

 だから誰も知らない。『殺戮の道化師』の正体が男女の、しかも二十歳にも満たない少年少女だということを。


 * * * * * * * * * * *


 ガッ ガガ  ガッシャンッ  ピー

 多くのコンピューター。大型の画面。映るのは小難しい数式や多国の文字。

 部屋は暗く画面だけが不気味に光っている。

「あの二人はどうだ?」

「は。着実にこの世界に染まっております」

「ククッ、そろそろ終焉(フィナーレ )に向けて動き出すか」

「彼らを呼びだしますか?」

「あぁ。あのメールを送れ」

 男は口端を上げ笑う。

「『殺戮の道化師』とは滑稽な名がついたものだ」

 瞳がギラリと光る。一変したその鋭い瞳に機械を扱っていた男は慄いた。

 危険だ。けれどこのスリルから離れることは出来ない。

「すぐに実行いたします」


 ザシュッ  ビチャッ

「任務完了?」

「あぁ。・・・手応えのない仕事が多いな」

 民家の屋根の上。仕事を終えた二人は屋根の上で一息つく。下には首が刎ねられた死体や、内臓などが飛び出た無惨な死体がごろごろと転がっている。

 悟は鋼糸と言う、名の通り鋼の糸を使用する。糸には刃と背が有り、刃を上手に利用して物を切り落としていく。満月は銃全般。その中でもコルトパイソン(六インチ)を二丁愛用して、心臓を一発で打ち抜く凄腕を誇っている。

 その他は暗器と呼ばれる小さな仕込み武器。

 派手に暴れたのに返り血一つ浴びていない二人は一瞬の間にその場から姿を消す。闇に溶けた二人の姿はどこにも見当たらない。




 一通のメールが届いた。メールが届く事自体はおかしくないが、内容が引っ掛かった。

 件名はない。文の始まりの言葉は『少年少女へ』。その下は空白。だがスクロールが下まで続いている。空白の部分には文字があるのだろう。二人は脈拍が速くなるのを感じた。

 『殺戮の道化師』が二人であること、男女だということを知っている者はこの世界にはいないはずだ。なのに何故こんなメールが届くのか。

 色を変えた隠し文字。画面をドラッグすることで文字が読める仕組みだろう。

 悟は大きく深呼吸した。感情的になるな。冷静に物事を見ろ。何度も自分に言い聞かす。

「・・・とりあえず中身を確認しよう」

 悟が言うと満月は青白い顔をしながら頷いた。空白の部分をドラッグする。するとメールの内容は二人の想像を絶するものだった。

『実験は成功した。少し手違いがあり、別の世界に生まれてしまったがこの世界が君達の本当の世界。君達の能力が存分に発揮できる最高の場所であり、最高の墓場。人の血で手を染めた君達にぴったりな場所だろう?

 生きるか死ぬか、それは君達次第だ。私は遠くから傍観させて貰うよ。君達の無様な生き様を。

 最後に、君達のデータは全て我が手の内にある。そのことを覚えておくと良い。まぁ知っていて何かが変わるわけではないがね。

 では、幸運を祈っているよ』

 愕然とした。この内容は何だ。これはまるで・・・

「手のひらの上で踊らされていたの・・・?」

 満月の言葉がやけに大きく聞こえた。俺たちは人の敷いたレールの上を歩んできたのか。

 茫然とすると同時に怒りを覚えた。自分の実験のために人を巻き込んだのか。

「くそっ・・・!」

 ギリッと奥歯を噛む。

 悟は目に止まらぬスピードでパソコンを扱う。ネットを介してこのメールの主を見付けるのだ。

 二人はメールの主を見付けるために全力を尽くす。

 このメールが二人を呼び出す罠だと気付かずに・・・・・・。



第四章



 二人がメールの相手を見付けたのはあれから二日が過ぎた頃だった。

 場所が分かった瞬間、いつものフードマントを被り武器を手に家を飛び出す。冷静にならなければならないと分かっていても、こんな理不尽なことをされて冷静でいられるほど二人は大人ではなかった。

 敵のアジトはスラム街からかなり離れた荒野にある廃城。しかし、静かすぎる。本当に人がいるのかと疑わしいほど。

 ゆっくりと近づき中の様子を確認する。気配だけで言えば数はそれほど多くない。だが相手が何を考えているか分からない以上、無闇な行動は取れない。

 慎重に、慎重に中に潜入する。するとコツコツと足音が聞こえた。

「――来ているのは分かっている。出てきたまえ『殺戮の道化師』よ」

「・・・・・・」

 二人は顔を見合わせ闇の中から姿を現す。

「待っていた、君達が来るのを」

「なに?」

「わからないか?あのメールは君達を誘き出すための罠だ」

「―――っ!」

 血の気が引いた。男の言った言葉が脳内で反芻(はんすう )される。

 冷水をかけられた気分だ。

「無駄話はここまでにしよう」

「無駄話、だと?」

「無駄だろう?こんな話。重要なのはこんな話ではないはずだが・・・。君達にとってはこんなのが重要な話かね?」

「っ・・・何故俺たちをここに呼んだ?いや、何故この世界に連れてきた?お前なんかと面識はないはずだ」

「面識?確かに面識はないな。だが私は君達を知っている。理由は簡単だ。私にも前世の記憶が有り、前世の時から君達が欲しかったから。あぁ、私のことは‘ディオ’と呼んでくれたまえ」

「ふざけるな!」

「何もふざけてなんかないさ」

「・・・あなたは、私達に何を望んでいるの」

 満月は言った。

「何を?そんなの、私の野望を叶えるためさ。私の野望は地球滅亡。君達にはそれを実行して貰うためにこの世に呼び寄せた」

 ディオは口端を上げ悟と満月を挑発するような視線を向ける。

 それが癇に障った悟はカッとなり腰にある小さな鞄から毒の縫ってある針を数本出し、ディオに向けて投げた。目で捉えれないほど素早い動き。が、その針はディオに当たることなく床に落ちる。

 ディオは床に落ちた針を見ながら、

「物騒だな。君達は教育がなっていない」

「それをお前が言うか!」

「おやおや、君達は解っていないな。私がいなければ君達はこの世に存在しないんだぞ?」

「こんな思いをするなら、存在しない方がましよっ!」

 満月は叫んだ。瞳には涙が浮かんでいる。悟だって同じ気持ちだ。こんな思いをするなら生まれてこなくて良かった。記憶なんていらなかった・・・。

「では、君達はこの話を断るというのだね」

「「当たり前だ/よ」」

「では・・・」

 パチン と指を鳴らす音と共にザッと二人を囲うように武器を持った男たちが並ぶ。

 悟と満月は武器に手を掛け、背中合わせに立つ。ここに来た時点で戦闘になることは解っていた。

――この男を倒さない限り悪夢は終わらない。




「君達には死んでもらうよ」

 ディオの言葉と同時に男たちが襲ってきた。銃を使うものもいれば剣を使うものもいる。

 悟は鋼糸の刃を男たちの動脈近くに寄せ力を入れた。一瞬の間のうちに血飛沫が上がる。次々に切り落とされてく首や腕。それは恐ろしいほど淡々とした行為。

 満月も二丁の銃を手に急所を狙う。一箇所も外すことなく当たる弾。崩れていく男達。

 が、あまりにも数が多すぎる。満月の頬を相手の弾が掠った。悟も所々から血が垂れている。

「この人数に勝てるとでも思っているのか?」

「っ」

 正直言ってこの状況は不利に近い。しかしここで諦めることは、自ら死を選ぶのと同じこと。そんなことはしたくない。

 足に着けていたホルダーに手を伸ばし素早く手榴弾を手にした。

「満月、伏せろ!」

 言葉とともに敵の方へ投げる。落ちた瞬間にボンッと大きな音を立てて爆発した手榴弾。

 敵が一瞬怯む。さすがに手榴弾に手を出すことは出来ない。

 悟は満月に視線を送る。気がついた満月は頷きディオのもとに走り出した。

「な・・・っ!」

「私達はあんたの下になんかつかない。私達の人生は私達で決めるのよ!」

「―――っ、やめろぉぉ!」

 銃声はディオの叫び声に掻き消された。周囲にいた男たちは動きを止め満月の足元に転がった間抜け顔で死んでいるディオを見る。

 暁はディオの仲間を見渡し、

「お前らのボスは死んだ。お前たちも、この男のように―――死にたいか?」

 悟は鋭い眼光を放った。男たちはその鋭さに怖気づき、次々に武器を放りだしてこの場から立ち去っていった。なんと情けない事だろう。けれどもう敵はいない。

 悟は目を瞑り深く息を吐く。それほど時間が経っているわけではないのに、とても長く感じた。

 瞼を開き自分の手を見る。他人の血で濡れた手は赤黒く、ベタベタしていた。気持ち悪い。吐き気がする。それでも、人を殺したという罪悪感は一切湧いてこない。

「悟?」

「・・・終わったな」

「うん。・・・でも、私達はこの世界から抜けだせない」

 哀しそうな表情をする満月に悟は掛ける言葉が見つからなかった。満月が言った言葉には二つの意味がある。

 一つ目は今自分たちがいる世界から。二つ目は裏世界から。どちらも二人が抜け出したい世界だと言うのに抜けることは、一生赦されない。

 二人はしばらくそこにいたがやがて背を向けて立ち去った。背後には激しく燃える廃城が。


 月が沈み太陽が昇る。

 壊滅し、炎上した廃城を二人は少し離れた場所から静かな表情で見ていた・・・。




END

この小説は私が初めて最後まで書き終えたものです。

今までいくつかの小説を書いてきましたが、最後まで書き終わることはなく・・・。

少しグロイですが最後まで書き終わったことに感動しました。


こんな駄文ですが読んで下さってありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ