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2.ポジション決め~天才ノッカー現る!

2.ポジション決め~天才ノッカー現る!



 里美たちがチーム結成祝いで盛り上がっている頃、昇は自宅でパソコンの画面話眺めながら腕組をしていた。

昇は里美からチームのメンバー表とプロフィールを渡されたた。

それをパソコンに入力してメンバーのデータを作っていた。


 昇は野球経験こそないものの、野球観戦が好きでプロアマ問わず、球場に足を運んではゲームを楽しんでいた。

野茂投手がアメリカメジャーリーグに移ってからは、年に一度はアメリカまで野球観戦に行くほどだった。

そういった経緯があり、野球に関する知識だけは、その辺の評論家も顔負けするほどのものだった。


「うーん、やっぱりこのデータだけじゃあ、どうしようもないなあ。 アリスと由美子ちゃんがソフトボールの経験があるだけで野球経験者は皆無だもんなあ。 まあ、ある方がおかしいけどな…」

データを保存すると、パソコンの電源を落とし、キッチンに向かった。

冷蔵庫から缶ビール得お取り出すと、プルトップに人差し指をかけはじいた。

一口飲んでダイニングテーブルに缶を置くと、換気扇を回して煙草に火を付けた。

「やっぱ、練習を見ないことには始まらないなあ」


 最初の練習は小学校の校庭だった。

酒屋『三河屋』の女将川島弘江、42歳はこの小学校でPTA会長を務めている。

PTAの地元の少年サッカークラブの監督と交渉して、毎週日曜日の午後3時から5時までの枠をもぎ取って来たのだ。


 集まったメンバーは、和気あいあいとしていた。

昇はその様子を校庭の端から見ていた。

最初はキャッチボールから始めたが、5分もすると、あちこちから「肩が痛い」だの、「腰が痛い」だの、そんな声が漏れ始めてきた。

予想していたことではあったが、まさか、たったの5分キャッチボールをしただけで…

10分間キャッチボールをやった後、少し休憩をした。

昇はじれったくなってみんなのそばに寄って行った。

「これで本当に“殿キン”と試合するつもり?」

昇は小声で里美に耳打ちした。

「もちろんよ! 試合するだけじゃないわ。 やっつけてやるのよ」

里美は昇を睨みつけた。

 順一率いる草野球チーム“殿様キングス”は、ビール会社の主催する草野球大会で優勝し、プロ野球のOBで編成されたドリームチームに挑戦したほどの強豪チームなのだ。

「昇君、あなたはずいぶん野球に詳しいわよね? 経験あるの?」

「経験はないけど、好きですよ」

「じゃあ、ノックくらいできるかしら?」

「やったことはないですけど、たぶん、この中では一番まともに当てられると思いますよ」

「そう! じゃあ、今からこのチームのコーチにしてあげるわ」

「えっ? このチームのコーチ?」

「なによ! 不満でもあるわけ?」

先程より鋭い視線で里美ににらまれ、昇は首を縦に振るしかなかった。


 10分たって、里美は休憩終了を告げた。

「みんな、聞いて! このチームのコーチを引き受けてくれるノボルくん。 野球経験はないけれど、知識だけなら誰にも負けないわ」

昇はメンバーに向かって一礼した。

「よろしくお願いします」

「じゃあ、これから内野ノックするから、全員、三塁ベースのところに集まって」

里美以外のメンバーが位置に付いた。

「あれっ? お嬢は?」

「私はキャッチャーなの」

「あっ、そう」

「つべこべ言わずにさっさと始める!」

そう言って里美はバットで昇の尻を叩いた。


 トップは由美子だ。現役を退いたとはいえ、まだ28歳。

昇が打った打球は、かなり速かった。

由美子が捕球態勢に入ったとこれでバウンドがイレギュラーして急に跳ね上がった。

普通なら顔面のあてるところだが、由美子は何事もなかったように反応しボールを補給した。

「へ~」

昇は感心した。

次はアリス・マーティン。 35歳だが、昨年までナショナルチームでプレーしていた。

昇は少し三遊間の方へ流してみた。

ちょうど届かないところへ打ったつもりだったが、余裕で打球に追いついた。

「さすがだな」

 続いて、『三河屋』の女将でPTA会長の川島弘江。PTAのバレーボール部の主将だ。

昇は手加減してゆるい打球を正面に転がした。

弘江はダッシュして前に出てきた。 打球はグラブで弾いて捕球できなかった。 それを悔しがる姿を見て昇は嬉しくなってきた。

 アリスと由美子はノックする昇を見て驚いていた。

それぞれの力量や性格を見抜いて、適切な打球を打ってくるのだ。

「あいつ、なんなんですかねぇ」

「ノボール! エクセレント! スゴーイ、ノッカーネ!」

 引き続き、外野ノックを行った。由美子とアリスは前後左右に振られてもきっちり打球を処理することができた。

他のメンバーはほとんど守備にならなかった。

ところが、弘江の下でPTAの副会長をやっているという沢井圭子、34歳は捕球こそできなかったが打球が上がった瞬間、落下点を正確に予測し移動していた。

「おっ! こりゃあ、拾いもんかもしれないな」


こうして初日の練習が終了し、『大奥』で反省会をすることになった。

「今日はみんなお疲れ様でした。だいたいの感じが分かったので、ここでポジションを発表します。次回からはポジションごとに基本から練習をやって行きたいと思います。 その前に、まずは、カンパ~イ」

里美の音頭で全員が生ビールのジョッキを掲げた。

「え~、それではポジションを発表します」

そう言って昇はポジションを発表して行った。

ピッチャー:柳井由美子、背番号1、魚屋『魚虎』28歳。

キャッチャー:高瀬里美、背番号22、豆腐屋『高瀬屋』40歳、監督兼任。

ファースト:森野佳代子、背番号3、そば屋『長寿庵』39歳。

セカンド:後藤恭子、背番号4、クリーニング店『ゴトウクリーニング』29歳。

サード:川島弘江、背番号5、酒屋『三河屋』42歳、PTA会長

ショート:アリス・マーティン背番号6、元ソフトボールアメリカ代表、35歳。

レフト:中村葵、背番号7、OL、28歳、町会長の孫。

センター:沢井圭子、背番号8、専業主婦34歳、PTA副会長。

ライト:藤田典子、背番号9、小学校教師、31歳。

コーチ:坂本昇、背番号44、豆腐屋『高瀬屋』36歳。 以上。

「ところで、お嬢、なんで、ボクの背番号44番なんですか?」

「あら、バース好きだったでしょう? ランディ・バース!」


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