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15.やっぱり、夫婦は夫婦

15.やっぱり、夫婦は夫婦



 里美と順一は東京タワーの特別展望台からスカイツリーを見ていた。 250メートルの高さから見渡す東京の街並みにあって、既に、ひときわ存在感を示している。

「こうして見ると、随分高くなったもんだ」順一がつぶやく。


 東京タワー。 地方から出てきた順一にとっては東京の象徴でもあり、里美との思い出の場所でもある。

 大学生の頃、里美を初めてデートに誘った時、ここに来た。 それからというもの、二人のデートはいつも東京タワーだった。


 里美は順一の腕に自分の手を回し、もたれかかるように寄り添った。

「ごめんね…」里美の小さな声。

「どうした?」順一は里美の横顔を見つめた。

「両親にとって、『高瀬屋』は人生のすべてなの」スカイツリーを見つめたまま里美が言う。

「里美にとっても… だろう」順一も同じようにスカイツリーに目を移す。 そして続けた。

「俺だって、ご両親や『高瀬屋』は大好きさ。 でも、この仕事は…」

話の途中で、里美が腕を振りほどき、両手で順一の肩に手を回し顔を引きよせ、口を塞いだ。

「分かっているわ」そう言って、もう一度キスをした。

 40歳を過ぎたカップルが、こんなところで人目もはばからずにキスをしている。 だが、里美は年齢の割には童顔で20代だと言っても通用するほどの顔つきをしている。 順一は年相応だが、今日はユニフォーム姿なのでりりしく見える。

周りの客たちは、二人を見てにやけたり、ひそひそ話をしたりしていたが、二人は一向に構わず、かなり長い間唇を重ね合わせていた。

「メシでも食いに行こう」おでこを付けたまま、里美の目を見つめて順一が言った。

「そうね。 あなたの唇を味わっていたら、お腹が空いたわ」里美は順一の唇に人差し指を押しつけた。 二人とも、フッと笑った。


 由美子とアリスは『大奥』に来ていた。 店は昼時で込み合っていたが、座敷の4人席が空いていたので、美千代がそこへ案内した。 美千代はすぐに、瓶ビールとグラスを2つ持ってきた。 「サービスよ」と美千代。 二人は礼を言って、早速グラスにビールを注いだ。

 由美子が頼んだ、もんじゃ焼きが来ると、アリスは興味深そうに、その焼き方を見ていた。

「もんじゃは初めて?」由美子が土手を作りながら、ちらっとアリスの方を見て聞いた。

「モンジャヤキハシッテイマスガ、タベルノハハジメテデース」アリスは目をか輝かせた。

由美子は土手の中に出汁を流し込んだ。

「こうやって食べるのよ」由美子は、小ヘラで抑えながら器用にもんじゃをすくっていった。

「やってみて」アリスに小ヘラを渡した。

アリスも由美子のまねをしてやってみた。 はじめは上手くできなかったが、すぐに要領をつかんだ。

「うまい、うまい」由美子にそう褒められると、アリスはニッコリ笑って答えた。

「デモ、ワタシハコッチノホウガイイデース」そういうと、大ヘラを手に取り、一気にすくって、取り皿に盛った。

「まあ! アリスったら。 誰かさんみたい」由美子は思い出したようにクスッと笑った。

「ダレカサンッテ、ダレデスカ?」アリスは首をかしげた。

「いいの、いいの!」由美子はごまかしたが、頭の中には正春の顔がはっきりと浮かび上がっていた。

「モンジャヤキ、ジャパニーズフード! サイコウデース!」


 “殿様キングス”のメンバーは試合が終わると、いつものように『本丸』に集まった。

「いやあ、今日の収穫は何と言っても飯田君だなあ。 見事な完封勝利じゃないか」家具職人で、キャッチャーの的場が言った。

マネージャーの飯田は照れくさそうに頭をかいた。

すると「相手が弱かっただけですよ」正春が口をはさんだ。

「順一さんなら、オール三振でパーフェクトでしたよ」

「相変わらず、マー坊の順一崇拝は強烈だなあ」と電気屋の二代目でサードの小峰。

「まあ、いいじゃないか。 順一あっての“殿キン”なのは確かなんだから」的場が割って入る。

 ちょうど、その時、生ビールのジョッキが運ばれてきた。

「じゃあ、今日の勝利に!」的場の音頭で乾杯。

「お疲れー!」全員で、ジョッキを掲げて、乾杯した。

「ところで、女のチームと試合するって本当ですか?」いちばん若い澤田が聞いた。

「女のチーム?」他のメンバーも口をそろえて聞き返した。

“Oh!oku”との試合のことは、まだ、順一と正春しか知らない。

「新太、その話し、誰から聞いた?」正春が問い詰める。

「太樹が輝浩から聞いたっていうから」

太樹は澤田の息子で、輝浩は沢井圭子の下の子の名前だ。 二人は同級生で仲がいいのだ。

「輝浩って、PTAの人の息子か?」小峰が聞く。

小峰の奥さんも同じ学校でPTAの役員をやっている。

「そう。 なんでも、順一さんとこの奥さんたちと野球チームを作ったって」沢井が答える。

「里美さんが? じゃあ、由美ちゃんも一枚かんでるな」的場が正春の方を見る。

正春はバツが悪そうに咳払いをしたが、いずれ分かることだし、今日も球場に来ているところを見られている。

「まあ、そういうことかな。 まだ、正式には申し込まれてないけど、順一さんが試合になるような実力が付いてきたらやるかもって…」

「なんだよ。 水臭いなあ。 そんな面白そうな話ならすぐに教えてくれよ」と的場。

「この間、ここで話していたのは、その女チームのことか?」畳屋でセンターの橋口が、思い出したように話に加わった。

 正春が順一と“Oh!oku”との合同チームのオーダーを話している時に大工でファーストの野口と合流してきたのが橋口だった。

「ま、そんなところです」

「それより、今日由美子さんと一緒にいた外人って、もしかしたらアリス・マーティンじゃないですか?」飯田が正春に聞く。

「さすが、マネージャー。 よく知っているなあ」正春が飯田の頭をなでる。

「誰だ? そのアリスなんとかって?」野口が詰め寄る。

「北京オリンピックにも出ていたソフトボールのアメリカ代表の選手ですよ」飯田が答える。

「アメリカ代表? なんだってそんな奴がいるんだ?」野口が食い下がる。

「よく知らないですけど、凄い、親日家で里美さんと以前から交流があったらしいですよ」

「何でもいいけど、どうなんだい? アメちゃんが一人いたって野球にはならないだろう?」と的場。

「俺も何度か順一さんと一緒に練習を見に行ったり、ベアーズとの試合も見たけど、今日やった“スマイルズ”とならいい勝負するんじゃないですかね」正春は率直な感想を言った。

「もしかして、『高瀬屋』の昇ちゃんが教えているのかい?」と、小峰。

「そうですよ」正春は小峰に答える。

「じゃあ、納得だ。 すぐに、“スマイルズ”なんか目じゃなくなるぞ」小峰はうなずきながら神妙な面持ちでつぶやいた。

「ミネさん、知っているんですか? 昇ってやつのこと」正春が不思議そうに聞いた。

「まあな…」








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