巻ノ八 マリーベルは最強!
「え~とぉ?」
こいつ、妄想癖があるのか!?
完全に顔が引きつっている佳奈の手を取り、マリーベルは何かを握らせた。
何となく、それに視線をやると、それは懐中時計だった。
この世界にきてすぐに見たことがあった。しかし、これは燃えてしまったはずだ―――なぜ?
そんなことを考えていると、透明なフタの中にぽつりと赤い点が浮かんだ。
「へ?」
まぬけな声を漏らしみつめると。それはどんどん大きくなり、蕾となり、満開のバラの花が咲いた。
「おめでとうございます。佳奈様は認められました。この懐中時計を決して手放してはなりません。これを持つことが、あなたがバラの女王たる証になるのです」
佳奈は呆然とした。何もかも理解できない。なんだっていうんだ?
バラ、バラ、バラ…そればっかり。おかしい、おかしすぎる。変態か?
ぎゅっと唇をかむ。ふと脳裏をよぎったのは闇の中で出会った子供の姿だった。
真っ赤な真紅の瞳をまっすぐに向けて、どこか悲しそうに言葉をもらした。
―――あなたは、ずるい。
「ん~ま、クヨクヨしても仕方ないしィ~ま、私がバラの女王ってことでいいんじゃない?」
急に口調が変わった佳奈に驚きもせず、マリーベルも口調を戻し、立ち上がった。
「じゃ、行こうかしら」
「へ?行くってどこに???」
「ユージンに聞いたでしょう――王宮よ」
ニッコリとほほ笑んだマリーベルは指を鳴らした。
『やあ、始めまして!!』
「エッ…エルモー!?」
そこに現れたのは、まぎれもなくエルモだった。毛並みも赤い。
「違うわ。これは『羽全身黒タイツエルモ族』よ」
「はあ!?『羽全身黒タイツエルモ族』!?」
佳奈はすっとんきょんな声を上げた。
「そう。おもにフライト用に使用するわ」
フライトって…飛行機かよ…。
つっこみながらも、佳奈はエルモの背中に乗った。なるほど羽が生えている。
『ピュイ!!』
マリーベルは口笛を吹いた。と、エルモが空に向かって飛び立つ。
『はばたい~たら~もどらな~いっといってぇ~♪』(ナ●トより)
佳奈は気が動転して歌いだした。
気がつくと、周りは空だった。風が気持ちいい。遥か下には森が見える。
「地球は…青かった…」
「佳奈~それはパクリよ~」
2人の意味不明な会話は風に乗ってどこまでも響いている…。
しばらく空を眺めていると、何か前から黒いものが飛んできた。
ああ~カラスだ~と、思った佳奈だが、次第にその黒いものはこちらに近づくにつれて人形になっていく。
「ん~?」
よく見るとそれは、黒いエルモだった。
「……」
次の瞬間、羽全身タイツエルモは180°回転した。
「なななななな――――!?」
佳奈は前に乗っているマリーベルに肩を掴んだ。
「心配しないで。こういうパターンにはなれてるから…」
マリーベルは、大きく息を吸った。
『Togo!!』
それ、英語違う~Togoはお持ち帰りで…ってひえ――――――――――っ!!!
羽エルモはマッハ5の速さでただいま飛行中!!
…っていくらなんでも早いでしょ!!あダメ、頭がくらっと…。
佳奈は、エルモから滑り落ちた、下へ真っ逆さま!!…という所で
マリーベルが佳奈の腕をキャッチ!!でも、ただいまの佳奈の体重は60kg。それに対して、マリーベルは48kg!12kg分佳奈の方が重いよ~♪
「キ、キャ――――――ッ!!!!」
エルモの背中から2人+一匹は消えた。
つめたっ!息できない!濡れるっ!
凍えるような湖に、2人は飛び込んだ。いや、自然とそのような形になったのだ。
幸い湖は浅いからよかったものの、深かったら溺れてチーンだったな…。あーでもあんまし浅くても危ないかぁー。
佳奈の横で、マリーベルが、ぷはっと顔を出した。
「早くしないと黒エルモが襲ってくるわ!とにかく陸地へ!」
『ワン!』
佳奈より先にレイが返事をし、陸に向かって泳ぎだした。
「レ…レイ~待ってよ~!!」
佳奈は必死にクロールをするが、水が服に吸いついてうまく泳げない。
「何やってんの、服を脱ぎなさい!!」
すぐにマリーベルのピシャリとした声が飛んできた。
「え―――!?脱ぐの――!?あ、あのぉ…私も一応年頃の女の子でぇ…」
「死ぬか、選べ!!」
ひぃぃぃぃぃ~マリーベルが怖い~~。
「それに、ちゃんとスクール水着は2着あるのよ!!」
視線を移すとなるほどマリーベルはスク水を着用済みだ。
それならそうと早く言え――――――――――!!!
ゴチャゴチャいいながらも、佳奈は着ていたドレスを脱ぎスク水に着替えた。(ツッコまないで★)
「ホラ、もう上空に黒エルモが来ているのよ!はやく陸へ!!」
へ?黒エルモ?
空を見上げると、そこには1・2・3・4・5・6…6体の黒エルモが!!
しかも1体の黒エルモのお腹には「い」もう1体は「と」さらにもう1体は「し」続けて「の」「か」「な」という文字が書かれている。
繋げて読むと…。
『いとしのかな!!』
キモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモっ!!!
佳奈は無我夢中で陸地に向かった。そして湖から体を出す。
「へっ…ひっ…ひっ…」
荒い息を吐く佳奈をよそに、マリーベルは懐から何かを取りだした。
それは…。
「ガンマン!?」
マリーベルの手に握られていたのは、小さな黒いガンマンだった。
それを空に向けて発射!!
『ギャア!!』
1体の黒エルモの体が揺れた。同時に湖に落下!派手な水しぶきが上がり、こちら側にも被害が。
「へっ、ざまあみなさい!」
マリーベルがそう言った時には、全ての黒エルモが上空から消えていた。
(す、すごい…)
佳奈はマリーベルにちょっぴり感心する。
「ち、ちなみに、それはいったいどこから……?」
恐る恐る聞くと、マリーベルは瞳を潤ませて、横目で佳奈を見た。
「それは言わない約束でしょ!」
誰がしたんだ。そんな約束……。
全身ビショビショのまま佳奈はため息をついた。
その瞬間。いきなりマリーベルに押し倒される!
「うお!何?私そういう趣味ないです!ヘルプミー!!」
「生憎、私にもないわ」
そう言ったマリーベルは、ちょっぴりマジメな顔で佳奈の手に何かを握らせた。
受け取ったと同時に、2人の上空を何かが通過!!
「ななななな、なに!?」
「チッまだいやがったか!」
男らしい仕草で、ガンマンに弾をつめたマリーベルの見つめる先を見れば、森の木々の間から黒い何かがやってくる。
「また黒エルモ!?」
佳奈は叫ぶ、けれど次の瞬間、盛大に顔をひきつらせた。
「ち、違う……あれは……」
「タランチュラ型エルモよ。毛に毒が含まれてるのでご注意を、ちなみに略してタラモ」
「タ、タラモ!?」
何だ?そのちょっと美味しそうな名前は!?
8本もの手足をうねうねさせて、なぜか2本足で直立するタラモはかなり気色悪い。何よりも吐き気を誘うのは、顔はエルモで、口だけがリアルに蜘蛛な所だろう。
佳奈は先ほど握らされたものを見る。それは――――――。
「マ、マシンガン!?」
「8連射が可能だけど、ストッパーをかけているので今はムリ」
そこ問題じゃないだろう!?
マリーベルがじっとこちらを見ている。
「私にやれと!?」
「私、気持ち悪いもの苦手なの…」
悩ましげにため息をつくのを、佳奈は呆然として見た。
「meはお客様デース。ローズクイーンデース、エライ人なのデース」
Meって何だ?ジャ○ーズの社長か!?つかローズクイーンって何だハズすぎるぞ!
佳奈は自分につっこんだ。
「カワイイ配下を、苦痛から救ってください。バラの女王?」
「カッコよく言うな!私の英語の間違いを正すな!!」
赤面する佳奈が、マシンガンを下ろそうとした瞬間。
ゲボッ!
不吉な音がして、手に何かが纏わりついた。
ふと視線を下げる。白いぬめぬめしたものが、右手を覆っている。
3泊の沈黙。そして。
「ギャ――――――――――――――!!!」
断末魔のような悲鳴が轟いた。
「何?なになに?なんなのこれ!?うわっクサ、ゲ○の臭いがするよ!!」
「お食事中の方、スイマセン」
マリーベルがぼそりと言った。
錯乱した佳奈がそれを取ろう暴れる。すると。
ドン!!…ドカ――――ン!!!
轟音が響いた。恐る恐る見ると、マシンガンから煙が立ち上がっている。そして、タラモは……。
「なっな、な、な、な」
「分離したわね」
マリーベルが落ち着き払った声で言った。
「なんでやねん!」
「その低レベルなつっこみの方が、なんでやねんよ」
ガーン。
「って、それどころじゃないでしょ。このねばねば何?タラモどうなってんの?」
マリーベルは、佳奈の手を一瞥した。こいつこそ女王じゃないのかと思う、傲慢な仕草で……。
「それはタラモの糸ね。残念ながら私にはとれないわ――――――ちなみに、あっちはタラモの子供。メスだったみたいね。母親の欠片から生まれたんでしょ。きしょい事この上ないわね」」
マリーベルは、佳奈が落としたマシンガンを取った
ドガガガガガガガガ――――!!!
「うっ」
目をそむける佳奈の隣で、マリーベルが華やかに笑った。
「行くわよ」
(苦手なんじゃなかったの!?)
マリーベルは心を読んだように答えた。
「ガキは大丈夫なの」
キャラ崩壊しとるがな。佳奈はこっそり呟いた。
どこからか『お前もだ』という声が聞こえたがムシだ。
…マリーベルは当初、こんな派手なキャラではなかったんですがねー。
いったい何が起こったのか……摩訶不思議。