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巻ノ七 バラの女王

今回、割とマジメな感じです。

舗装されていないデコボコの道を、馬車はただ進んでいた。

御者台に座った2人の黒エルモは、とくに言葉をまじわすこともしない。クールな自分に酔う派だった。

普通の誘拐だったなら1人が見張りに入る所だが、彼らは主からの命令で少女と直接会うなと言われていた。顔面の問題だとは夢にも思わない。普通誘拐するのは美形だから。

馬の足音、タイヤの回る音、馬の嘶き、そんな音しか響かない、静かな空間だ。自分に酔うのにぴったり。


ドガン!!!


そんな所にふいに轟音が轟いた。


『何だ!?』


叫んだエルモが顔を上げると視界が真っ暗だった。バン!と小気味いい音がしてエルモが気絶する。ついでに馬車から落下した。


『なんだ!?』


何が起きたのか分からない。もう一人のエルモは馬の手綱を持ちながら立ち上がる。

すると、丁度そこから顔を出した少女と目が合った。

2人とも、硬直する。

最初に正気に戻ったのは佳奈だった。というかエルモは佳奈を見て、立ったまま気絶している。そうとは知らない佳奈。


「正義の味方、けんざん!!」


そう叫んだと思うと、首に下げていたビンをひもから引きちぎり口でフタを開けて、エルモに投げつけた。


『な、なんだ!?」


エルモが、異常に気付いた時には、もう甘い香りがただよっていた。





「ふぅ―――――――」


佳奈は大きく息を吐き、ウゲゲゲゲと笑った。なんたって主人公っぽいことをやり遂げたのだから。これで読者の人気は独占ね☆

………………………………この話に読者がいればね。by作者。


先ほど佳奈は、近くにあった荷物やらなんやらを天井に投げつけ穴を開けた。

その時、ぶち抜かれた木片でエルモが1人ご臨終したことは誰も知らない真実だ。

そこからソファに乗って、腕の力と気合だけで馬車から顔を出してあの状況に至ったのだった。


(とりあえず…一服)


そう思った瞬間、物凄い勢いで馬車が揺れた。


「何!?また誘拐?佳奈大人気♡」


適当なものにつかまり、涎を垂らしながらそれをやり過ごす。しばらくすると、静かになった。

意気揚々とドアを開け、馬車から下りる。


「佳奈ちゃんを誘拐しにきたのは美形ですかーぁ?」


言いながら気づく。白馬が消えていた。――御者だった黒エルモがいなくなったのだから、当然と言えば当然である。金目のものだったし、大切な食糧だったのに…。馬刺しは大好物である。

辺りを見ると、そこは見たこともない森の中だった。


「やっば……これは本気でマズイでしょ」

「ワン!(お前の顔面が)」


まるで返事をするように、レイが吠えた。佳奈には犬語が分からない。


「と、とりあえず進も…」


佳奈はビクビクしながら前進する。

腰と首を屈め、両手を軽く前に突き出す様はかなり怪しかった。


森は、全く人の手が入っていないようだ。青々とした樹木が空高くそびえ立ちに、日光を遮っている。光は、たまに差し込んでくる木漏れ日だけ。

鳥が、鳴いた。

行けども行けども、周りの景色は変わらない。

『パキィッ!』

「ヒィッ!!!」


音がした方を見てみると、枝が折れただけだった。

「だ…だめだ…この森、心臓に悪い…私のがらすのはーとが壊れちゃう」

佳奈が思わずしゃがみ込んだその時。

『ワン、ワン、ワン、ワン!!』

佳奈の隣にいたレイが、激しく吠えだす。


『ガサッ』

ひっ!!

『ガサガサガサッ!!』

半泣きで立ちすくむ佳奈の隣でレイはさらに激しく吠える。

(こうなったら…)

佳奈は懐からカラになった眠り薬のビンを取り出すと、音がした方へ思いっきりほうり投げた。


『パッリ―――――ン!!!』


お約束の音がして、ビンは何かに当たってくだけた。

や、ったか!?

と、佳奈が安堵の息を漏らしたその時―――。

「なかなか手荒いお出迎えね…」

木の葉をくっつけた1人の少女が木の陰から現れた。年は、佳奈より2,3歳年上だろう。手には粉々になったガラスビンを握っている。

佳奈は、いきなり現れた少女にド肝を抜かれた。


「こっこっこっ…これは誠にすみませんでございましたでございます!!!」

土下座して叫ぶ佳奈を見た少女は、プッと吹き出した。

「フフフ…イジメがいがありそうな子ね」

な、なんだこいつ。ドSか!?


「あっ突然出てきてごめんなさい。水虫伯爵に仕えているマリーベルよ。よろしくね、佳奈」

いきなり呼び捨てにされ、戸惑う佳奈。ていうか、主人になんてあだ名を…。

佳奈は自分の事を棚に上げて呆れた。


「水虫ハゲ素足伯爵が、佳奈を迎えに行けっていうからきたのよ。感謝して頂戴い」

「で、さっきの黒エルモって何なの?今何が起こってるの!?」

佳奈は容赦なく質問攻めにする。

「あ、それは今から説明するから焦らないで。あんまり煩いと、もう何も分からなくしちゃうわよ」

マリーベルは佳奈の隣に腰を下ろすと、ほほ笑んだ。語尾にハートがつきそうな口調で、軽く危ないことを言う。


けれど、佳奈はドキリとしてマリーベルに見とれた。佳奈はGLもいける。佳奈の相手は人類の誰もできないが。(真面目に書かないと話が進まないので、なんとなく普通っぽくなります)

まるで何十年もの間、荒波に揉まれて生きてきたような疲れた…そして強い顔だった。

(そういえば……みんなそうだった)

ここに来て会った人たちは、全員自分と変わらぬ年頃なのに、みなひどく大人びていた……。


「あら?そういえばユージンはどうしたの?」

佳奈は、はたと思い出して遠い目をする。あの時は涎が少量だったので、記憶が遠いのだ。

「ユージンは、黒エルモたちと戦って……それで」

「あぁナルほど」

妙に納得したようなマリーベルは、ふと思いついたように瞬きした。

「もしかして、なんの説明もまだ?」

「説明?」


佳奈は、しばし虚空に視線の彷徨わせた。

―――主からお話するように言われています。

ふいに冷静な声が蘇る。見つめるマリーベルに、コクリと頷いて見せた。

「そう――――――それなら私から話そうかしら」

マリーベルは、倒れた丸太に座り直し、佳奈にも促した。


「紅茶もお菓子も出せそうにないわね。長い話になるかもしれないけど……聞いてくださいますか?」

なぜか最後だけ敬語になった所には気付かず、佳奈は間髪いれず頷いた。

「もちろん!」

ふわりと笑ったマリーベルは、行儀よく座って、どこか遠くを見つめた。


  ―――・――:*:――・―――


クレスティア王国は、600年ほど前に激しい戦乱の中で興りました。

僅かな食糧、人民、土地、そんなものを巡った無意味な戦いに終止符を打ったのです。

なぜ、そんなことが可能だったのか?それは、クレスティアの初代の王や臣下たちに魔法という力があったからです。


彼らの力は、自然界に存在するものの力を借りうける形のものでした。いわゆる精霊というものです。そして、その全ての媒介となるのが〝バラ〟だったのです。

バラの甘い香りは、他のものをひきつけ惑わします。バラがある所には、自然とそういうものが集まってくるのです。だから、この国にはたくさんのバラがあり、服にも髪にも肌にも……いたるものに、その香りをつけます。

30年ほど前までは、魔法は一般的なもので誰もが普通に使っていました。


そう30年前までは――――――――――。

これは、バラたちの話ですので私たちにくわしいことは分かりません。これは、私たちの出した結論であるとご理解ください。



とある所に、一輪のバラが咲いていました。

バラは非常に気高い生き物で、自らの周りを荒らされたりすることを嫌います。それは誰もが知ることでした。600年近くも守られてきたことわり……。

それを誰かが破ってしまった。―――そのバラを折ってしまったのです。

その行為は恐ろしいことです。神を冒涜するようなもの――――ひいては世界を否定したも同じこと。


本来なら、すぐに命をもってあながい。手厚く奉る所なのに…あろうことか、その者はバラを手元に置き続けてしまいました。

数日がたち、そのバラは儚く枯れていきました。

かのバラは怒り、そして〝バラの香り〟を飛ばしたのです。それはバラの警告とでも言いましょうか?全てのバラに危険を知らせ、強制的に身を守らせるのです。

どんな香りなのかは存じません。けれど甘ったるくて、眠気をさそう香りだと聞いております。それは全てのバラに伝わり、バラはトゲをはやしました。小さな鋭いトゲを、いくつもいくつも……。


バラの香りに誘われた精霊は、トゲで弱り、また消滅していきました。

自然界に存在する、ほとんどの精霊が―――です。

ある日の昼、時は止まりました。風も消え、雲も消え、空で輝く太陽は沈まず、月は昇らなくなっていったのです。


けれど、生き物たちはみな生きて何事もなかったように活動しています。

私たちの精霊は、個人と融合しているのでバラに誘われたりしないのです。

けれど失われた時は流れなかった―――――。

私たちはみな、30年もの月日をこの姿のままで生きてきました。

食事は娯楽になりました。時が流れないので、空腹はありません。死もありません。…けれど、新たな生が生まれることもありません。


これでバラの復讐は終わったように思えました。けれど、バラはその人間にさらなる罰を与えようと蘇ったのです。

時のない世界でも、人を消滅させることは可能です。燃やしてしまう…ようは、灰にして何もかも消し去ってしまえば。全てを、なかったことにしてしまえばいいという話です。

しかし、私たちはその人間に死んでもらうわけにはいきませんでした。

クレスティアの人々は、精霊を失い、魔法を失いました。命と引き換えに〝バラ〟という媒介自体の魔法を使うことはできます。――その死は、全身を茨で突かれるような、激しい苦痛の上に成り立つものですけれど…。


どちらにしろ、情けなくも、私たちにできることはないのです。新たな生の生まれない今、命は個人の問題ではなくなりました。

そこで私たちは考えました。バラのトゲがなければ――――――と。

バラには、バラを統べる王がいます………いえ、正確には『いた』という方が正しいでしょうか?

バラの女王。この方は、30年前、〝バラの香り〟の飛ばされる直前に、危険を察知した臣下によって別の世界へとばされました。


バラの香りは、王の許した一部の者…後継者などにしか使えにもので、拒否することはできなかったからです。それは王すらも同じ。だから女王はいったん姿を消したのです。

私たちは最近になってその事実を知りました。

そして、見つけました。バラの女王――――佳奈、いえ佳奈様を。

ふぅー…意味分からへん。って感じですね。


作者にも分かりません。

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