巻ノ四十 主人公は誰だ!part1
久方ぶりのクレスティア王国の王城にて。この物語の趨勢を決める、とある密議が行われていた。
「急にやってきたと思ったら、そんなに慌てて…いったいなんの話だい?」
問いかけたのは、やっぱり久方ぶりのアルフォンソだ。
そこには7つの机(どう見ても公立学校にあるアレ)が向き合うように配置され、真剣な顔をした美男美女が顔を突き合わせている。
メンバーは、マリーベル、ハミルトン、アルフォンソ、ヴェルカラ、グリーン先生、マイク、エルモ。ちなみに普通の赤いエルモだ。エルモが美形なのかは知らんが。
ちなみにユージンもいるが、妖精なのでイスは必要ない。グリーン先生の前でちょこんと正座している。
「所で私が元に戻る日はいつになるのでしょうか…」
かなり切実なユージンを無視して、マリーベルは極上の笑みを浮かべた。
「佳奈が、死んだわ」
どどーん。
作者がノリで効果音をつけたので、何だか滑稽な感じになった。そしてすっごい睨まれる。作者は素直に謝った。
だが事情を知らない人々(ハミルトンと若葉中学校の2人以外)は、全くそんなの気にしなかった。
「ししいししししっししいそ死んだぁぁぁあああああああああああああああ!?!!?!?!」(ヴェルカラ)
「はっはっは。やはり醜いものはこの世から消える運命にあるのだね!大いに結構。この私の朝露のように儚く、日輪のように激しい美貌に魅せられた神が、きっと私の願いを叶えたのだよ!!
」
「そんなぁああああ。いや、別に死んだのは嬉しいのですが。でも…でも……そうしたら私はずっとこのままですよぉぉぉおおおおおおおおおお???」
「ビックりエルモぉお」
それぞれ言いたい放題。だが誰も佳奈の死を悲しんではいない。なんてこった。教育への悪さは群を抜くな。子どもに読ませたくない小説ランキングは堂々の1位に違いない。でもなんでも一番なら嬉しいので、作者はなんでもいい。
「とってもexciteな体験デシた。ハンバーガーがカビてバックドラフトデース」
事情を知らない全員が、何だこの外人。頭に佳奈でも寄生してんのかと思ったが、口には出さなかった。
代わりにハミルトンがゴホンと仕切り直し。
「つまり今回みなさんに集まってもらったのは他でもないですわ。新主人公を選定するためですのぉおおお!!」
「「「おおっ!!」」」
全員身を乗り出した。
興奮して熱気が立ち上る中、マリーベル様の冷静な声が吹き抜けた。
「方法は、まず自己アピールよ」
は?
誰もがそう言いたげな表情になった。だがマリーベル様が異論は許さない。代わりにとっても綺麗にほほ笑んで、全員の顔を順繰りに眺めた。
「まずはあなたから自己アピールをしなさい。制限時間はなし。好きに喋るのよ。はい、スタート」
突然の無茶ぶりをされた哀れな子羊はヴェルカラだった。彼はしどろもどろした後、コホンと咳払いする。
「え、ええ。宣誓!もしも俺が主人公になったら、この規制だらけの世界から、布類を全部撤去しまーす。そして、誰もが隠された秘宝を日常的に見物しながら過ごせる、夢のエデンを築き――」
ぐじょぉ。
エグイ音をたててヴェルカラが潰れた。マリーベルの手は彼を向いている。きっとアレだ、またPKで何かしたのだろう。
恐れに身を震わせながらも、視線をやられたエルモが片手をあげた。
「せ、宣誓ルモ。もしもエルモが主人公レルモったら。エルモルモっとエルモルテ、エルモるんるエルモることをエルモモス」
どひゅん。
なんか飛び出た。エルモは再起不能になった。
マリーベルは戦く面々を見やり、おもむろにトランクスの中に手を入れた。(どうやらマリーベルはトランクス派のようだ)
そこから不意に出てきたのは、さらに久方振りのマシンガン。何をする気だとたじろぐ外野をド無視して、マリーベルはそれを机の真ん中に設置した。
そしてそれを恐ろしい腕力でグルンと回す。ガタガタと轟音を立てながらマシンガンが銃口を彷徨わせる。そしてそれはアルフォンソの前で止まった。
「あら、次はお父様ね」
ただの順番決めかいッ!!!!!!!!!!!!!!
誰もが心の中で突っ込んだが、もちろん言葉にはしなかった。
指名されたアルフォンソは、なぜかちょっと嬉しそうな顔をして、両手で自分を指し示した。
「ボク?ボクかい?いやーボクがしゃべるの久しぶりだからなぁ。ちょっと嬉しくなってしまったよ。で、なんだっけ?自己アピール?ボクのアピールポイントはもちろんこの美貌さ!光の波がうねるように煌く髪……石ころさえも目を奪われ、大空も割れんばかりの艶めく瞳……そして――」
ぶぼぉおおおおおおおおおおおん
みなさん、予想していたと思いますが、マシンガンが火を噴きました…。
「さぁ、次へいくわよ」
こうして、恐怖の大サバトは続くのだった。
「はぁ…はぁ……」
「マイク、18時間26分38秒ね」
カチッとタイマーを押したマリーベルが、後方を振り向く。
そこには疲れ切って擦り切れた様子のマイクとエルモがいた。他にもハミルトンを始めとしたメンバーがいるが、彼等は全く疲れていない。まさに化け物。
「にしても、まさかこんな総合競技だとは思いませんでしたわ…」
「俺、王女サマに潰された時完全に終わったと思ったぜ……」
「それにしてももう何競技行いましたかね…?」
「nineteenデスよ」
「筆記テストに始まり、絵画にバイオリン、詩吟、新体操、英語スピーチ…まぁ諸々でトライアスロンですわね」
「ど、どうして、あんさん方は疲れてないんでごわすか……?]
マイクが最もな質問をした。ちなみにトライアスロンは、北海道から樺太まで泳ぎ、さらに日本列島を自転車で横断して、アフリカ大陸を走るぐらいの過酷さだった。
18時間とかで踏破したマイクも十二分にアッチの方だ。さらにちなみに、トップはハミルトンで26分12秒。ビリがマイクだった。
ハミルトンがにこっと笑う。
「わたくし生まれたその日から修行を欠かしたことはないんですの。…マリーベル様。暗殺術とかはやらないんですの?」
「そうね……。それもいいわね。じゃあちょっとあんた達殺し合ってきなさい」
「oh!japaneseはveryハゲシイね」
「殺し合いか……美しいものたちが行えば、とても素晴らしい光景になるだろうね」
「ハミルトンのベランジュ家と違って、俺のコラール家は騎士道に則った剣の一族なんだが……」
「わたしはjapaneseツジギリに憧れて、やったことがありマス!」
「おいどんはぁ、西南戦争以来剣を握っていないんでごわすが……」
「私は今、妖精なので剣を握れないのですが……というか私は主人公になる気はないですし」
「エルモーの♡」
それらを丸っと無視して、マリーベルは手を叩いた。すると上空に得点板が現れる。それによると、現在の成績はこうだ。
1ハミルトン 300点
2グリーン先生 176点
3アルフォンソ 174点
4ヴェルカラ 170点
5ユージン 150点
6エルモ 98点
7マイク 70点
「一競技10点満点よ」
「19競技しかやってねぇのに、どうしてハミルトンは300点なんだよ」
「ビジュアル点よ」
マリーベル様の力いっぱいの言葉に、アルフォンソが不満げな顔をした。
「何……?ビジュアル点だと……それならなぜボクに付加されていない」
「アルフォンソさまぁ。それはきっと、アルフォンソさまの素晴らしさが、数字なんて俗物な尺では計れない本当に…本当に素晴らしいものだからですよ!!」
ウットリとしたハミルトンの言葉に、アルフォンソはあっさり気をよくした。
「なるほど。そう言われてみればその通りだ。でも君も中々美しいよ」
「はいッ!ありがとうございます…!」
感無量っと言った風なハミルトンを、マリーベルはあっさりスルーした。
そして呆れた表情で大空の得点板を見やる。
「それにしても、ミスグリーンが予想外の奮闘ね」
それは全員同感らしく、深い頷きが重なった。本人も嬉しそうに胸を張っている。
「thank youデス!私これでも、アレクサンドロスの遠征にもjoinしまシタし、十字軍や、フランス革命にもgoしたんです!」
誰もが色々疑問に思ったが、代表してマリーベルが的確かつ率直な疑問を呈した。
「あなたは幾つなの?」
グリーン先生は艶やかにほほ笑んだ。
「A secret makes a woman woman……女は秘密を着飾って、美しくなるのよ」
「ああそう」
さすがのマリーベル様もたじたじだ。
…うん。とりあえず、競技を再開しよう。
「そう言えばマリーベル様は参加しないんですのね」
「ああ、俺も気になってたんだよ」
「ああ、いいのよ。建前の主人公なんていらないわ。私は実質の主人公になるから」
「「「「…………」」」」
みんな一気にやる気がなくなった。
しかしその原因たるマリーベル様はもちろん気にも止めず、美しい声を張り上げて朗々と宣言した。
「最後の競技は一挙大逆転もあるスペシャルゲーム…」
にやりとした妖しいほほ笑みに、誰もが引き付けられる……。我知らず息を飲んだ。
「じゃんけんよ!!」
は?
その場の誰もが耳を疑った。それと同時に、大空に文字が広がる。
――ポロリもあるよ☆
何か始まる、予感が、すーるーわーぁ…そうよ byピコ
さて、佳奈は本当に死んだんでしょうか…?
作者にも分からないのですが、いったいどうしましょう……。