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巻ノ三十八 主人公の消滅

基本的にハミルトンは神様なんて信じていない。そんなものがいるなら諸々の不幸や不都合をなんとかしてくれるはずだし、なんとか出来ないなら信じても無意味だ。そんな暇があるなら、自分の力を磨いた方が何百倍もマシだと思う。つまりハミルトンはリアリストだった。

…だから多分、ハミルトンは初めて神様に祈った。


――どうか、どうかわたくしをマリーベル様の魔の手から救ってくださいぃぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!


これまでの流れを要約すると、アルフォンソが新しい男を見つけてきた事に怒ったハミルトンが、滅茶苦茶に酒を飲みまくり、酔って佳奈を苛めている所にマリーベルがやってきて、なぜか『マジカルドリーマーZ』に変身し押し倒してきたのだった。

現状を報告しよう。

マリーベルはケタケタ笑いながらハミルトンに馬乗りになり、ドレスの襟元を掴んでいた。もはや三秒後には規制をかけねばならぬ状態だ。ハミルトンは半泣きで神様に祈っている。

全力で存在否定していた人物に神様が手を貸すとも思えないが、この時は作者の都合により違った。


じゅぼぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお


突然物凄い音が響いた。マリーベルが音源を見れば、佳奈の修業ぎゃくたいに使っていたコンピューターからチーズが溢れ出していた。

それはもう、堰を切ったとはこのことかという感じにドバァアっと。ハミルトンも遅れてそれに気付く。

2人はそれから逃れようとしたが、なんと地面全部からチーズが噴射され始めた。マリーベルは眉を潜めると、ハミルトンを掴んで地面を蹴る。なんと2人は飛んだ!


「あ、あああああのマリーベル様!?これどう見ても浮いてるんですの!」

「浮いてるわね」

「これって魔法とは違うんですの!?」

「違うわ」


マリーベルはきっぱり言い切る。ハミルトンは微妙な表情になって地面を見下ろした。多分3メートルくらい浮いてる。


「ど、どの辺がですの?」

「これはPK。つまり超能力よ」


ドドーン。

またしても衝撃の告白である。科学と魔法の交錯ならぬ、魔法と超能力の交錯らしい。

ハミルトンは突っ込もうと口を開け、なんも思いつかずパクパクとした。


と、そんなこんなしてる間に、チーズの波が収まりだした。そして2人は気付く、その中にチーズと見まごう金髪の美青年がいることに…。

彼もマリーベルたちの視線を感じたらしい。ゆっくりと顔を上げて、全身からチーズを粘らせながら(とろけるチーズのようだ)息をのんだ。


「て、天使ごわす」


台無しだ。色々。

マリーベルは眉を潜めた。


「あれマイクじゃない。なんでマイクがいるのよ」

「佳奈ですのね!絶対あいつのせいですの!」

「ああ、そうね。じゃあマイクは被害者?ていうか台詞がベタだわ。天使なんて…そんな下等な生き物と一緒にしないでほしいわ」


…全国の宗教保持の方、申し訳ありません。


「ていうか、ここはどこたいね。おいどんは死んだあるか」


なんかマイクもマズイことになってきた…。

マリーベルはふっと笑った。


「今から死ぬみたいよ」


とか言った瞬間。コンピューターがごぽっと苦しげにえづいて、2人の人間が吐きだされた。


「お~う。japanは本当にとってもフシギなcuntryデース」

「ミスグリーン。褒めてくれるのはとっても嬉しいけれど、ハンバーガーは日本の文化ではないわ」

「oh!確かにその通りデス。チーズもデスネ?」

「ええ、そうよ」

「by the way 何だか私のbackからキムチの匂いがするのですが?」

「あら本当ね」


そう言って、グリーン先生と佐藤先生は振り返った。天井にケチャップ文字がある。


『みんなぁ~カナリン置いてっちゃうなんてヒドイぞぉぉお』


数泊の沈黙。

そして困惑。

漂うキムチ臭。

2人の教師は儚く笑んだ。


「「うぎゃぁあああああああああああああああああああああああ」」


そして駆けだす。途中でマイクも加わり、3人はマリーベルたちの下方に集まった。なんとなく安全っぽいからだ。

マリーベルは憎々しげに舌打ちした。


「せっかく私が楽しい一夜を過ごそうってときに…よくも邪魔してくれたわねハンバーガーの分際で。今すぐ菌類植え付けてカビさせてやるわ!」


叫ぶなり彼女は腕を持ち上げて、佳奈に向けた。美少女を片手に、怯える民を下方に、片手を悪の温床に……。完全に主人公な絵図である。ただ敵の外観がシュールすぎる気もするが。

まぁとりあえず、マリーベルの手からカビルンルンが放射された。それは一路進み、佳奈に《ハンバーガー》に付着する。


『え?何?カナリンに何つけたの?美容液?きゃ!カナリンもうこんなに可愛いのにどうしようぅうう』


ハンバーガーがクネクネすると、ピクルスとケチャップとひき肉が飛び散る。『どきどき』の文字が浮かび上がった。

だがそれも長くは続かない。ふいにハンバーガーは動きを止め、身を震わせた。パンかすが宙を漂う。


『!”#$%&’(IJHGREF!”#$%&’(!!!』


今度は空中に叫び声が刻まれた。マリーベルが勝ち誇ったように笑む。


「うふふふふ。私のムラムラを発散させ損ねた恨み、とくと味わうがいいわ」

「どうしてかしら。わたくしマリーベル様に守られてるのに泣きそうですの」

「おいどん。どうなってしまうんどすか?」

「godはsayしました。どんな物でもloveしなさいと。でもわたしはアレはムリだと思いマス」

「神様も裸足で逃げ出すから安心しなさい」

「そうやってjapaneseはすぐにアイマイにしてしまいマス。それではいつまでもInternationalにはなれません。シマグニコンジョーではnoです。worldの中ではジブンをメイカクにヒョーゲンしないとnonoネ」

「……あなた、何だか毎回深いこと言うわね」

「thank you!」


とか言ってる間に、ハンバーガーが緑に色づき始めた。苔のようなものがこびり付いているのだ。ついでに綿状の物も絡みついている。

……超カビているのだ。


ハンバーガーはなんとか助かろうとゴロゴロ転がっているが、もちろんカビが取れるわけがない。

ついにはパンの部分がドヒェェエと言いながら吹き飛んだ。露わになったハンバーグとトマトとレタスが、潰れながら悶えている。

ハミルトンとマイクは気分が悪そうに口を押さえ、佐藤先生は顔を顰めながらも興味津津といった様子だ。マリーベルはおーほっほっほと高笑いだ。グリーン先生は目をまん丸にしている。


なんだかエグイ感じにハンバーグの真ん中からカビが広がり、ついに全てが覆われ、ハンバーガーは動きを止めた。


「私の機嫌を損ねるからこうなるのよ!地獄で後悔なさい!」


ご機嫌でマリーベルが言った瞬間。それは起こった。

ハンバーガーを侵食していたカビが、床全面を覆っていたチーズに寄生したのだ。そしてそれは、物凄い勢いで広がっていく。

しかしマリーベルは気にしない。なにせ彼女は浮いているのだから。だが…他はどうだろう?


「お、おおおいどんの足が緑に!?」

「oh!japaneseトンチですね。私がグリーン。カビもgreenです!」

「ミスグリーン。それはダジャレよ。ていうかどーすんのこれ」


案外冷静である。まぁどうしよもないとも言うが。

だが、マイクはそうもいかなかった。


「な、ななななんかカビがおいどんの身体をまさぐるあるよ!?」

「あらマイク。まさぐるなんて難しい言葉を覚えたわね」

「学びて時にこれを習うデスね。meanは分からないデスが」

「ちょっとそれは違うわよ」

「ohそれはsorryね」

「いや、それよりおいどんの心配を」


と、急にカビの膨張が止まり、それがワサワサ寄り集まって文字を作る。


『ふははははは。カナリンは不滅なんだぞ☆』


…どうやら、カビは佳奈らしい。

そう確認した瞬間。3人は顔面を蒼白にした。

だがもう、どこにも逃げ場はない。


「こ、これは背水の陣デスか?」

「それは合ってるわよ」

「お、おおおいどんのパンティの中にカビが!」


『きゃ!カナリンみちゃったぞぉ♡』


カビが身をよじった。

それを黙って見ていたマリーベルがふいに片手を上げる。ハミルトンは戦慄した(作者の都合で)。


「死に絶えろ。――マジカルドリームパワーぁああああ」


かなり痛い呪文だが、効果は半端じゃなかった。なんとカビの全てから火の手が挙がったのだ。


『ふんだばだっぱぁあああああああああああああああああああああ』


今度は理解できる断末魔だった。

ところで思い出してほしいのだが、下にいる3人はカビに覆われていた。つまり……。


「お、おいどんのパンティーの中が燃えておるどぇえええええ」

「fireデスね。人体発火はworldの謎デス。まさかタイケンできるなんてデスね」

「何気に博識よね、あなた」


やっぱり結構冷静である。なんでだろう。

まぁいいか。だがもっと取り乱せばよかったと思う。なぜならそれを見たマリーベル様が手ぬるかったかと柳眉を潜めたのだから!

彼女は考えた。こんなHEIBON(マリーベルにとっては)な奴らでも何とも思わないような火で、あのゴミ処理場も受け取り拒否するような三千世界のゴミを消せるのだろうか、と。

…超天才眉目秀麗全国津々浦々共通女神様であるマリーベルは思った。否であると。


そして彼女は微笑んだ。ハミルトンはヒクリと頬を痙攣させた。王女様の目が温室の(誰かここが温室だったことを覚えている人はいるだろうか)扉に向いているのに気付いたからだ。

マリーベルは手を扉に向ける。そしてそれを一気に引き開けた!PK―STというやつだ。


「insaidなどのミッペイ空間で火災が起こると、フカンゼンネンショーでfireの勢いがweaker and weakerデス。そこでカネンセーのイッサンカタンソがたまっている時に、doorをopenさせたりするとサンソとイッサンカタンソが急に反応するのデース。一気にニサンカタンソになるのデスね。これをバックドラフトとsayするのデス」


うん。とりあえず、グリーン先生が説明した通りのことが起こった。

ハミルトンはなんだかもうぐったりとした。マイクは股間を押さえて絶叫した。佐藤先生は週末の服装について考えていた。グリーン先生は満足げに頷いていた。マリーベル様は…やっぱり高笑い。

五者五様の反応を見せる中、真っ赤で艶やかな炎が急速に膨れ上がった。



ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアんんんんん


温室は、大爆発した。

どこかの「ばびぶべぼぉ」の人のように吹っ飛びながら佐藤先生は叫ぶ。


「結局ミスグリーンは理科と英語、どっちの教師なのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


瞬間移動したマリーベルはハミルトンを地面に下ろしながら、くたくたに倒れていく温室を眺めていた。ちなみによく見えないので、四つん這いになってプルプルしているマイクを踏み台にしている。グリーン先生も隣に並んでその惨状を見守っていた。


「なんかわかんないけど、建前の主人公が死んだわね」


マリーベルが欠伸混じりに言う。ハミルトンは頷いた。


「よく考えたらこれって、いいことなんですの。これで世界は平和を取り戻せるんですの。サハラ砂漠には緑が生い茂るんですのよ」

「ohつまり私は、サタンのハメツを目撃したわけデスね!!即ツイッターに載せマスよ。お二人とpictureをtakeしてもよいデスか?」

「いいわよ」

「もちろんですの」


グリーン先生はカメラを取り出し、2人と並ぶと精一杯腕を伸ばしてシャッター切った。先生は満面の笑みである。


「thank youですよ」

「いいのよ。あなたとは上手くやっていけそうだし」

「そうですのよ。佳奈の代わりにバラの女王やればいいんですの」


あははははっと3人が朗らかに笑う後ろで、もう一度温室が爆発したのだった。




「お、おいどんはいつまで踏み出しになってればいいけんか」


もちろん誰も聞いていないのだった。

なんか主人公死にました。

…次回からどうしましょう。

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