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巻之三十二 目玉と目玉と目玉の世界

「ドーは鈍器のド~」


ズドーンッ。


「レーはガンレットのレ~」


ドコバコボキッッ。


「ミーは耳削ぎのミ~」


ジャキンッッッ♪


「って待ってぇえ。それはムリ。絶対ムリ」


呑気にちょうちょの飛ぶ温室の中で、佳奈の決死の叫びが轟いた。色とりどりの花の中に埋もれながら、なぜか今『修業』をやっているらしい。…いや「らしい」というのもどうかと思うが、実際これが修業かは胸を張れない。


蒼白で息を切らす佳奈。対するハミルトンは仁王立ちして、女王さまっぽくそれを見下ろしいた。(ふんって効果音つきのアゴをツンとした感じのアレです!)

ちなみに佳奈の身長は157センチで、ハミルトンは140センチである。


「何言ってるんですの。人間が耳を削いだくらいで死ぬわけないですわ」

「そういう問題!?空も飛べるはず~とか言い出しちゃうよ?いいの?」

「んー」


全身ボコボコにされた佳奈は、ズリーっと壁に背を滑らす。

ふわふわフリフリの淡いブルーのドレスをきたハミルトンは、何やら難しげな顔で黙り込んだ。ちなみにそのドレスの至る所にはナイフやらが仕込まれ、背には弓矢、腰には大剣が完備されている。本日のハミルトン様は実にやる気まんまんだった。


「話を聞いたところによると、ピンチになると魔力が扱えたようでしたから危機的状況にしてみましたのに…。窯で蒸してやりましょうか……」

「いや、だからムリ」

「それなら茹でますわ」

「だ、だからね」

「煮えたぎった油で茹でますわ」

「あ、あの~」

「衣でもつけて欲しいんですの?」


ハミルトンはやれやれと首を振った。何やら仕草がアルフォンソに似ている。


「わがままですわ」

「いやいやいやいや!ていうか修業だよね?これ修業のはずだよね?」

「そうですわ。何を分かり切ったことを、このばあやの歯並び頭め、ですの」

「え~と」

「スカスカだと言っているんですわ」

「なるほど」


なぞかけか。というつっこみは飲み込んだ。


「でもこれって完全無欠に拷問でしょ!?」


何やら完全無欠の使い方が間違っている気もするが、まあいいだろう。

ハミルトンはちょっと考え…。


「でもわたくし、幼少期の修業では釜茹でとか引きづりとかされましたの。それに証言取れって言われたら、炮烙ほうらくとか凌遅刑りょうちけいとか腹裂きとかしてましたの」

「どんな家だよ。そしてどんな生活。しかも半分も意味が理解できない」

「職業病ですわね。人は茹でられると白くなりますのよ」

「ほーらくって何?パチンコ?」


ちなみに、佳奈はパチンコは得意である。


「焼いた鉄の上を歩かせるんですわ。まぁ供述の前にほとんど死にますけど」

「何やってたんだよアンタは」

「元々この国は戦乱の中ですのよ。諸々あったので休戦してますけれど。我がベランジェ家はヒッソリサックリ暗殺&諜報が専門ですの♪ちなみに凌遅刑というのは、順番に身体の肉を削いでいくごうも――」

「わかった、もういいから!なぜ嬉しそうなんですかッ?」

「あら、ホントですわ。頬が緩んでましたの。ちなみに削ぐ順番もキチンと決まっているんですのよ。どんなにぐっさりさっくり内臓を抉りだしても、そこには定められた秩序と裂き具合のバランス……決して表に出なくても、満たされることのない美への探究心が確かに存在するんですわ!」

「スイマセン。さっぱり分かりません」

「簡単に言ってしまえば、肌を焼かないようにして返り血を映えさせるとか、ふり乱した髪が一番猟奇的に見える角度とかを探すことですわね」

「うん。話を戻そう」


佳奈はにっこりした。

このままでは「なら試して差し上げますわ」とかいう展開になりかねない。なにやら胃液っぽいものが喉までせり上がってきた。


「だいたい私14年も生きてきて魔力とか気付かなかっただよ?ムリだろぉ」

「バカが正論吐くんじゃないんですわ。バカはバカらしく何も分からずにバカみたいに従ってればいいんですの」

「何回バカっていった!?まぁ確かに授業全部出てるのに内心オール1だし、なぜか音楽は斜線だし、テストはビリ以外取ったことないけど!」

「ナイシンがなんだかは分かりませんけれど、わたくしは王立学院で歴代2位の成績で卒業しましたわ」

「と、東大みたいなモン?でも2番なの?」

「いいんですのわたくしは2番で、だって1番はマリーベル様ですから」

「ああ……そうですか」


さすがのマリーベル様である。こちらの世界では道真らへんの扱いかもしれない。

ちなみに王立学院は、東大どころかケンブリッジクラスである。


「にしては今回会話文多くない?」

「それはたんに作者が修業の内容を思いつかないままダラダラ書いてるからですわ」

「へー……大変だネ」

「それじゃあわたくしがその苦労を変わってあげましょう」


ハミルトンは無垢なる天使の笑みを浮かべ、近くのイスに腰を下ろした。

それなのに全身の金属たちは物音ひとつ立てない。

佳奈はハミルトンが何をするのか分からずキョトンとしてそれを眺めた。そして気づく、テーブルの上に、何かがある。ハミルトンは無造作にそれを押した。それはそう、懐かしの青いボタン。



へぇ。



「ト、トリビア泉」


あまりのも気が抜ける音に脱力した瞬間に、急に地上がなくなる。ジェットコースターで急降下するときのように、怖気が背筋を駆けのぼった。すっと身体の先が冷たくなる、それが妙にくっきり感じられた。ハミルトンは笑顔だった。


「逝ってらっしゃい。ですわ♪」


某遊園地の係員さんみたく爽やかな送りだし。しかしその手は親指を残して握られて、下をむいていた。

うん。なぜだろう。佳奈は自分が死ぬと確信してしまった。



「う、きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああ」



長い長い悲鳴を命綱のように伸ばして、佳奈は闇にダイブした。


「さあ、モニターの電源を入れておきますわ♪♪ヒック…ですわ」


……酔っていた。






「そ、そうして佳奈は極悪大魔王によって、長い長い穴に突き落とされてしまいました。それから彼女はどうなってしまうのでしょー…」


吐きだした声は全く反響する気配もなかった。どうやらかなり広い空間らしい。暗過ぎて分からない。

感覚的にはナイアガラぐらい豪快に東京タワーぐらいの高さを落ちた気がするのだが、なぜか無事だった。本当になぜ?


「えー誰かいますかーってとりあえず言うのが主人公の定番だよね?ただしいヒロインの在り方だよね?」

「いやぁん」

「って、えぇ?あっさり返事?そしてこれは返事ですか?」


佳奈はプチパニックに陥った。声が案外近い気がしたからだ。


「おーい」

「あぁん」

「ど、どこにいるんですか」

「いやぁん」

「……」


その辺りで佳奈は気付いた。下だ。

ギギギっと機械音を響かせるように佳奈は首を傾ける。ぱっちり二重とご対面。しかしその瞳の大きさは佳奈の上半身くらいあり、さらにさらにそれは大量にあった。もう1つ付け足すと発光している。夜中にジョギングしているオバサンのタスキみたいな色だ。

背骨を汗がなぞる。身体が均衡を失った。見れば真下は、


「くくくくくくくちぃいいいいいいいいい」


絶叫して飛びのく。その先には目玉があり踏んでしまったが、信じられないぐらい堅かった。恐慌状態に陥り、とりあえずそれから逃げようと走り出す。

しかしどこまで行っても目は消えない。ところどころに思い出したように切れ込みがある。それが口らしい。

それだけは踏まないように進み、しばらくすると壁らしき所に激突した。


「や、やった。壁伝いに進めば出口が――」


刹那、部屋中からの大合唱。


「「「いやぁん」」」

「それ鳴き声だったんかい!」


反射で佳奈をつっこんだ。すると頭が冷えてきた。冷えても冴えない残念頭ではあるが……。


「そ、そんなことないもん。1人で出来るもん!」


昔見た某教育番組を思い出す。洗濯物の干し方とかしか出てこない。


「よ、よし。1、とりあえず話しかけてみよう!」


佳奈は自分の背丈と同じくらいの目玉と向き合った。


「出口はドコデスカぁ~?」


あやしい外人っぽくなってしまった。


「あぁん」


返事もあやしかった。

佳奈は困った。+イライラした。現代の若者に多いキレるという症状である。佳奈はカルシウムが足りなかった。


「あぁんっとか言わないでくれる?なんかムラムラするんですけどー責任とってくれるんですかーぁ?ピーーーーーーーーーーーーーー」




ごほんッ。ええ、一部音声が乱れております。




しかし目玉はそれを間近で聞いてしまった。(いや、聞こえてるかはしらないけれど)

みるみるうちに目玉の光が強まる。それは体育館2個分はある部屋の向こう側を照らすほどだった。


「って、ん?明かり?」


バカはバカなりにひらめいた。

そしてニヤリと笑む。


「みんなピーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


叫びながら放送禁止用語を連打する。次々と光が溢れ出した。部屋は完全に照らし出された。

部屋の中央らしき場所で立ち止り、佳奈は辺りを見回した。


「って結局全部目玉かい!」


そう、映し出された場所は全て目玉と口で覆われていた。出口はない。


「ま、まじか…」


呆然としたのも束の間、ふいに気づく。1つだけ、目玉の入ってない穴がある。近づいて覗いてみたが、どうやら口ではないらしい。

しゃがみ込んで、まじまじと観察してみる。

そろそろと手を入れて見た。出してみる。足を入れて見た。出して――。


「だせないぃいいいいいいいいいいい」


引いても引いても抜けない。どころか飲み込まれていく。



佳奈、本日2度目の落下である。






そのころのハミルトン。


「穴はたくさんあったのに、1つにしか気づかないなんてやっぱり残念頭ですわ…ヒックッ」


ワイン片手に大量のモニターに映る佳奈を観察していた。

ちなみにハミルトンは本来ザルであるが、アルフォンソがあらたな土木作業男を連れ込んだために飲み過ぎてしまった。


「ヒックッ……あるふぉんそさまぁ、よりにもよってあんな汗臭い男………。佳奈め、死ねばいいんだわ」



悲劇の予感が…する。

お久しぶりです。相変わらず壊れていますよ。

とか書いても、誰も読んではいないと知っている悲しさ。うん。まぁいいですよね。はは。

…だれかー。

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